上 下
43 / 304

043緑の髪

しおりを挟む
クリスティーヌが明日帰るので、今日は拓もユンクも朝から屋敷に来ている。

「昨日サーシャと買って来たの、私達パーティの証にどうかと思って。」

クリスティーヌが拓とユンクに渡したのは、剣のブローチ

「カッコいいね。」と拓は受け取ったが
「このパーティって剣士はクリスティーヌだけだよな。」と1言多いユンク。

クリスティーヌが口を開く前に、ヘルガの拳が落ちた。

「お前は、本当に私の弟子なのか。情けなさ過ぎるぞ。」

頭を抱えているユンクに

「良いんじゃないの。剣士、魔道師、参謀、そして料理人
 元々、このパーティってバラバラなんだから、剣のブローチが一番冒険者らしいよ。」

拓が笑いながら話しかける。しかしサーシャが参謀で

「拓の立ち位置って料理人で良いの。」
「この間の冒険で、俺の立場ってそんなイメージになっていたからね。」

聞いたサーシャも否定は出来ないが、拓はそれで良いのか気になった。


「じゃあ、このパーティで出掛けましょう。」

護衛付きだけど、クリスティーヌの言葉で皆でブローチを付けて町の外へと出かける事に。
目的地は、町から少し歩いた所に在る湖。

ヘルガがゲートを開いてボートを出してくれ
クリスティーヌとユンク、サーシャと拓でボートに乗り込んだ。

侯爵達も来ているが、皆木陰で寛ぐみたいだ。
トウ、バン、ジャン、ガラはボートに乗っている。

「気持ち良いわね。拓、向こうの湖畔まで行ってみましょうよ。」

静かに水面を進むボート、風が凄く気持ち良い。
水面に手を漬けると、水面に波が立つのが面白い。
ボートの上で横になり真っ青な空を見上げていると、鳥の声や風にそよぐ木の葉の音が聞こえてくる。

「次は私が漕ぐわ。」

帰りはサーシャが漕ぐと言って、立ち上がると

「サーシャ、危ない。」

ボートが揺れ、サーシャはバランスを崩して湖に…ドボン
直ぐに拓がボートに引き上げてくれ、

「ずぶ濡れだね。一度戻ってヘルガさんに着替えを出して貰おうか。
 とりあえず、タオルを渡すね。」

ゲートを開いてタオルを渡す。
私、本当に何をやっているんだろう。何時もドジばかりだ。
サーシャは落ち込みながら、拓にタオルを渡して岸に上がろうとした時、

「あれ、タオルが黒くなってる。サーシャ、大丈夫か。」

拓がタオルが黒くなったタオルを持って、サーシャの髪を見ている。

「もしかして、サーシャの髪って黒く染めていたの。」

昨日、染めたばかりの薬剤が水で流されていた。
見られた。拓に、私の髪が緑色をしているのを知られてしまった。
どうしよう、どうしたら良いの。
サーシャの頭の中が真っ白になり、そのまま逃げる様に屋敷に向かって走り出した。


「サーシャ、待つんだ。」

ヘンデリック侯爵とヘルガ、マリーがサーシャの後を追いかけた。
拓は、黒くなったタオルを持って、どうしていいのか分からず立っていた。


サーシャの髪は緑色。
緑の髪は災いを招く「呪いの子」と呼ばれている。
サーシャの生まれたときには大地震が発生し、髪を染めて隠している。
クリスティーヌがその事実を知ったのは学生の時、サーシャが髪を染める薬剤を持っているのを見て
不思議に思い、注意していて見ていて気付いてしまった。

でも、サーシャはサーシャ。優しくて、お人好しで、おっちょこちょい。
そんな「呪いの子」なんて信じない。
クリスティーヌはそう思って、今まで通り付き合ってきた。
しかし、他の人は違う。
きっと、サーシャの緑色の髪を知ったら、怖がるか、攻撃をするだろう。

「なぁ、拓。サーシャの髪って緑色なのか。」
「そうだね。綺麗な緑色だったみたい。」
「じゃあ、サーシャって『呪いの子』なのか。」
「もしかして、災いを招くってやつ。」

やっぱり、拓もユンクも知っていた。どうしよう、どうしたら良い・・・
クリスティーヌが何も言えずに困っていると

「そんな下らない迷信より、もっと大変な事に気が付いた。
 俺、その手の話は嫌いなんだよ。
 だらしなさ過ぎる上に、酷い対応。もっとマシな手段が取れただろうに。」

別の事で拓が感情を表に出している。しかし、ユンクは

「『呪いの子』って迷信なのか。」

緑色の髪…呪いの子に拘っている。

「そんなの信じる人、いまどき居るの?もしかして、ユンクって信じていたとか?」
「おっ、俺がそんな迷信を信じるわけが無いだろ。拓は何に対して怒っていたんだよ。」

ユンクは思わず否定したが、呪いの子の話を信じていた。
そして、サーシャの緑の髪を見て恐怖を感じていた。
本当に迷信だとすると、拓の態度は一体何だ?

「親のだらしない行動と、いい加減な対応について。」

ユンクもクリスティーヌも拓の言葉に理解出来なかったが、急いでサーシャ達を追い掛けた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

騎士団長のお抱え薬師

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:582pt お気に入り:311

自殺したお飾り皇太子妃は復讐を望む ~二周目の君は変われない~

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:184

魔力∞を魔力0と勘違いされて追放されました

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:582pt お気に入り:9,828

婚約破棄されたけど前世が伝説の魔法使いだったので楽勝です

sai
ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:560pt お気に入り:4,191

チートなタブレットを持って快適異世界生活

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:546pt お気に入り:14,298

処理中です...