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007祈り

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「拓、お嬢は大丈夫なのか。治るのか。」
「トウさん、落ち着いてください。俺は医者では無く、只の駆け出しの薬剤師です。
 俺が出来る事はやりました。後は様子を見るしか出来ません。」
「そうだよな。すまない。」

トウは自分の行動を恥じた。
俺は何をしているんだ。拓に当たってどうする。

「一眠りして熱が下がっていれば薬が効いたと言えます。
 俺も他に何か出来る事が無いか考えてみますから。」
「俺達に出来る事は無いのか。」 
「そうですね。元気に笑っている事ですかね。
 サーシャちゃんは、かなり弱って体力を消耗しています。
 周りの人が出来るのは、精神的に負担を掛けない事しか考え付かないです。
 ですから、不安にさせない様に笑っていてください。」

拓がトウに笑いかけてくる。
拓が馬車から少し離れた所にテントの準備をしているのを見ながら、3人は馬車の横に黙って座り込んだ。


馬車の中では

「サーシャは助かると思うか。」
「分かりません。しかし、拓は只の子供ではないみたいです。
 今は、彼の薬に頼るしか無いかと。」

熱が下がれば、薬の効果が有ったということになる。
頼む、どうかこの子を連れて行かないでくれ。
自分の子供が死ぬかもしれないと言うのに、ヘンデリックは祈るしか出来ない。

「ヘンデリック様、少しお休みください。
 サーシャ様が元気になられても、ヘンデリック様が倒れてしまっては困ります。」
「分かってはいるが、サーシャに付いて居させてくれ。
 この子の熱が下がるまで…」


空が白みがかり、日が昇ろうとする時

「拓、朝からすまない。お嬢が、サーシャ様の熱が下がった。来てくれ。」

トウが呼ぶと直ぐに拓が出て来た。
拓はサーシャの状態を確認した後、宙を見つめていたが

「薬が効いたみたいですね。
 もう大丈夫、薬を飲み続ければ数日もすれば動く事が出来ますよ。」

喜んで叫びそうになる皆に

「未だ毒が抜けた訳では有りませんので静かに。
 今、体に負担を掛けると、また毒が体を侵食します。
 彼女が目が覚めたら、食事を用意するので呼んでください。
 本当に良かった。未だ早いので俺は2度寝させてもらいますね。」

トウが拓を改めて見ると、目が充血していた。
声を掛けると直ぐに出て来たのは、お嬢の為に寝ずに対応を考えてくれていたのだろう。

「トウ、これでお嬢は助かるんだろ。
 だったら、栄養を付けて貰う為に肉を捕りに行かないか。」
「バンの言う通りだな。ジャンも良いか。」
「当然だよ。美味しい食事を用意しようか。まぁ、出来る範囲でだけど。」

3人は、心から笑った。
お嬢の為に、自分達に出来る事をしよう。


3人が無事にボアを仕留めて肉を調達してきたが、サーシャは寝ていた。
一度起きたらしいが、薬を飲んでまた寝てしまったらしい。
しかし、今夜起きるかもしれないので、ヘルガに鍋を出してもらい3人は食事の用意をする。
拓にも声を掛けようとしたが、ヘンデリックに疲れている様だと言われて3人だけで準備をした。


「拓、食べてくれ。俺達で作った料理なんだが。」

3人は拓の料理には劣ると分かっていたが、それでも拓は美味しそうに食べていた。

「お嬢が起きたら、これを食べさせようと思っているけど大丈夫か。」

トウが聞くと、

「サーシャちゃんは暫く食事をしていないから、これはキツイかな。
 今は胃が動いていないから味の薄い柔らかいのが良いです。
 徐々に堅い食事に代えた方が負担が少ないので、初めは俺の方で用意させてもらいますね。
 落ち着いたら、皆の料理を食べさせてあげてください。」

お嬢はこれから元気になっていく。
トウは拓と出会え、お嬢を救えた事に感謝をしていた。
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