異世界薬剤師 ～緑の髪の子～

003魔導士

移動で一番問題になるのは食料と水だ。
水については、拓が水魔法が使えるので問題は無くなった。
拓は闇と水の２属性の魔法を使っているが、威力は大したことは無く初級魔道師といったところだ。
それでも、飲み水が出せるのは重宝される。

魔法を使える者、それが魔道士。
２，３０人の内１人は魔法の素質を持っていると言われている。
使える魔力により上級魔道師、中級魔道師、初級魔道師と分けられるが
　初級魔道師は生活魔法しか使えず全体の７割程度
　中級魔道師は弱い攻撃魔法が使え全体の２割程度
　上級魔道師は強い攻撃魔法が使え全体の１割程度
という分布になる。

バンも初級魔道師で風の属性魔法が使える。
初級魔道師だと攻撃魔法までは使えない。
しかし助かるのは魔道士なら誰でも使える空間魔法の存在だ。
異空間に生物以外の物を収納できる便利な魔法だ。
収納力は保有魔力に依存するが、初級魔道師でも１ｍ四方の容量は持っている。
非常に高い保有魔力だと保存時の状態を維持し劣化しなくなるが、そんな魔道士は滅多に居ない。

拓は食料は問題ないと言っているが、トウ、バン、ジャンの３人はバンの収納分では町までもたない。
大人の男３人分の上、水まで収納する必要が有ったので仕方が無いだろう。
拓がどれだけの食料を持っているのかは分からないが、３人が頼りにする訳にはいかない。

「拓、悪いが今日は、ここで狩りをさせてくれ。肉を調達したい。
　ジャンは、食べられる薬草の採取を頼む。
　良かったら、拓もジャンと一緒に植物を探してもらえないか。
　出来れば、空間魔法に収納して運んで欲しい。」

トウの提案に拓は応じ、トウとバン、ジャンと拓と別れて食材を入手することにした。



「拓ちゃんは薬師を目指していると言っていたけど、食べられる植物については詳しいの？」

本人が嫌がっていないので、ジャンは『拓ちゃん』と呼んでいる。

「有る程度は分かります。ただ、詳しいと言えるかは何とも言えないですね。」

それならと、ジャンは拓を頼りにしても良いと判断する。
少し森の中に入れば、手付かずの草木が有る。
数は少ないが、根菜類も見つけられた。
拓は植物を見つけると、少しの間眺めて食べられる物と食べられない物を分けていた。
ジャンが確認すると、拓の分別は確かで問題の無い物だけを選んでいる。

「拓ちゃんは凄いね。キノコなんて分かり難い物でも的確に判断が付くんだ。」
「これでも、薬剤師を目指していますから。キノコは薬の材料としても優秀なんですよ。」

そう言って、拓は食材とは別に薬の材料も集めている。
ただ、その中に毒草が入っているので、ジャンが気になって聞いてみると

「解毒剤は、毒から生成します。ですから、この手の毒草は解毒剤の材料として使います。
　これは魔獣に対する毒として使えますね。
　きちんと分けて収納するので大丈夫…かな。」

変な間の有る回答が…大丈夫だとは思うが、料理の前に確認した方が良さそうだ。

「ジャンさん、あれを見てくださいよ。」

拓が指さす方を見ると、葉っぱの影にグレンの実がなっていた。

「凄いな、グレンの実じゃないか。あれ、美味しいよね。」
「やはりそうなんだ。上から落とすので、受け取ってください。」

そう言うなり、拓が木の上に軽々と登って行く。
ジャンが気を付けてと声を掛けるが、全く問題ないみたいだ。

「落すので、お願いしますね。」

拓の声と共に、グレンの実が上から落ちて来た。
かなりの量の実を落し終えると、拓は上の方で何かをしている。
ジャンの位置からは葉の影になってしまい良く見えないが、暫くしてから降りて来た。

「せっかくだから、少し食べてみましょうよ。」

拓が水魔法で作りだした水球でグレンの実を洗い、ナイフで皮をむく。
採りたての瑞々しい果物にかぶりつくと

「美味しい。初めて食べたけど、梨みたいな食感だな。」

拓が、嬉しそうな顔をして喜んでいる。
ジャンは梨という果物を初めて聞いたが、拓の故郷で取れる果物なのかもしれない。
少しと言いつつ、２人で３つほどグレンの実を食べ、残りを拓が空間魔法で収納した。
結構な量を収納したが、この後の食材探しを考えると収納容量が気になる所だ。

「それほど場所を取っていませんから、未だ大丈夫ですよ。
　せっかくですから、もう少し食材探しをしませんか。
　もし容量が足りなくなったら、またグレンの実を食べてしまいましょう。」

拓がそう言うので、２人はそのまま他の植物の採取を続けた。