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002拓

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「さっきは助かった。ありがとう。俺はトウ、こっちはバンとジャンだ。」

トウが名乗ると、恩人はフードを外した
フードの下から現れたのは10歳位の幼い少年の顔。

「俺は拓。助かって何よりです。」

そう言って、拓と名乗った少年は手を差し出し握手をした。
拓は、トウの包帯が巻かれた腕を気にしているので

「グレイウルフにやられてな。さっき、応急処置した所だ。」

トウがそう答えると、拓は腕を掴み軽く傷の部分を触ってくる。
トウが痛み顔をしかめると

「かなりの深手ですね。放置するのは危険かな。」

トウも分かっているが、ここでは満足な治療は出来なかった。
すると、拓はゲートを開き空間魔法で収納していた小瓶に入った薬を取り出した。

「ポーションです。飲んでみてください。」

トウが受け取ったポーションは、綺麗な青色をしている。
ポーションは青色程良質で質が悪くなるに従い赤みを帯びてくる。
トウは、これ程のポーションを気軽に渡してくれる拓に感謝し、受け取ったポーションを飲んだ。
直ぐに、腕の痛みが引き、包帯を外してみると傷の後すら無くなっている。

「拓殿は一体何者なんだ。このポーションはかなり上質じゃないか。」
「俺は薬剤師を目指している魔道士です。傷は治ったみたいですね。
 助けた後でなんですが、皆さんにお願いが有るのですが。」

命を助けてもらって、無料だという事はないだろう。しかし、対価は何だ。
トウとしても出来るだけ穏便に済ませたいと考えていると

「近くの町まで案内してもらえませんか。
 もし、町に入るのに色々と審査など有るなら手伝ってもらえると助かるのですが。」

身構えていた分、対価はそんなことで良いのかと3人は逆に驚いてしまった。

「実は、もう何日も歩き続けていたんですが、
 町どころか、誰にも会えずに困っていたんですよ。
 そんな時に、戦っている皆さんを発見したので、助けて貰おうかと思って。」

拓は笑っているが、こんな子供が1人で森を何日も彷徨っていただと。
一番近い村でも、子供だったら10日以上はかかるはず。
この異常さにバンもジャンも気が付いた。

「拓殿、」
「俺の事は拓と呼んでください。年下なんで、敬称を付けなくて良いですよ。」
「そうか。では、拓は1人で行動しているのか?大人は一緒ではないのか?」

拓が1人だと答えると

「10日以上もどうやって1人で森で生きていたんだ。
 ここは魔獣が多く存在する。子供が1人で生きて居られる場所では無いだろう。」

トウの疑問に対し、そんな事かといった感じで拓は闇魔法で気配を消して見せた。

「俺は闇属性の魔法が使えるので気配を消して危険を回避していたんです。
 それに、薬師を目指しているので魔獣の嫌がる薬も持っていますから。」

先程の赤い煙もその一つで嗅覚の鋭い魔獣に対して鼻と目を使い物にならなくする薬らしい。
そういう薬を何種類も用意しているそうだ。
実際にトウ自身も命を救ってもらい、薬の効果は体験済みだ。
こんな場所を1人で居るのは、何か事情が有るのだろう。
注意する必要は有るが、悪い人間には見えない。

「分かった。俺達は辺境地に向かっていて、子供の足だと数週間は掛かる。
 拓に問題なければ、辺境地に向かいたいがどうだろうか。」

「辺境地と言うと、王都から離れた場所と言う事ですよね。」

そうだと答えると、拓は考え込んでいた。
もしかすると、目的地でも有ったのだろうか。

「では、それでお願いします。」

答えるのに間が有ったが拓自身も問題ないみたいで、4人は行動を共にする事になった。

拓は空間魔法で十分な食料は収納していると言うので、問題は無いらしい。
トウは拓の素性が気になるが、無理に聞くのは止めた。
拓もトウ、バン、ジャンの素性は何も聞いて来ない。
しかし拓は未だ子供だ。トウとしては、町に着いても力を貸そうと考えていた。

「では、拓。俺達が町まで案内する。出発しようか。」

口には出さないが、トウ、バン、ジャンは馬車が気になっていた。
疲れが取れた所で、町に向かう事にした。
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