英国紳士の熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです

坂合奏

文字の大きさ
上 下
103 / 111
Episode Extra edition

Happy Valentine's Day‐1

しおりを挟む
「モエ、次の週末旅行へ行きませんか?」

 ジャンから提案があったのは、イギリスに引っ越してきてから二ヶ月が経った時だった。

 結婚式を挙げてから早一年以上。

 日本での仕事が落ち着いたジャンは、ロメーヌの後を継ぐためにROSSETTOロセット本社へと出向から戻ってくることになったのだ。

 日本にいる間は仕事を続けていた萌衣だったが、イギリスのロンドンに引っ越してくるとなると仕事を辞めざる得なかった。

 専業主婦という選択肢も入れてはくれていたものの、ジャンにプレゼントをする資金と自分の欲しいものを買う時は自分で買いたいということから、萌衣は働くことを希望した。

 イギリス本社で仕事をしたいといっても、英語は日常会話程度で、業務として仕事をするには不安がある。

 まずは、学校に通いながら語学を再度習得し、慣れてきた頃に仕事に復帰をするという選択肢はどうだろうかと、ジャンから提供さえて、萌衣はそれを承諾するのだった。

 久々に通う学校生活は楽しかったが、慣れない異国での生活は萌衣にとってけっこうなストレスで、日本に帰りたいと夜中にこっそり泣く日もあったくらいだ。

 それでも二ヶ月も経ってくると慣れてくるもので、今では上手に息抜きをしながらイギリスの生活を楽しんでいる。

 いきなり働くという選択肢を取っていたら、もっと精神的に追い詰められていたに違いない。

 働かず、学校に通うといった選択肢を与えてくれたジャンには感謝の気持ちしかなかった。

 その日は、日本食スーパーで買った食材で、久々の日本食を夕食にしていた時だった。

 ジャンから突然の旅行の提案に萌衣は「い、行きたいですけど、ジャンさんのお仕事は大丈夫ですか?」と質問する。

 イギリスに来てからのジャンは休む暇もないほど、忙しそうだったからだ。

「二日くらいでしたら、余裕で休めますよ」

「一泊二日ですと、近場の方がいいのでしょうか?」

「ヨーロッパ圏内でしたら、弾丸になるかもしれませんが、大丈夫ではないですか?イギリス国内でもいいですけど」

 イギリスに住んでいると、一泊二日でヨーロッパに行くことができるのだと萌衣は感動した。

「すごいです!どこにしよう」

 スマートフォンを片手に、ヨーロッパと検索する。

 フランス、イタリア、ポルトガルに、ああ、でも国内でエディンバラの方でもいいかもしれない。

 有名な魔法使いの男の子の生まれた街のモデルの場所を思い浮かべて、萌衣は久々にワクワクしていた。

 だが、せっかくのジャンとの旅行だ。

 できるならロマンチックなムードになれる場所に行くのはいいのではないかと思い、「パリとかどうですか?」とジャンに尋ねた。

「パリだったら、飛行機で一時間ちょっとで行けますから、いいと思います」

 予約しておきますね、とジャンはスマートフォン一つで操作を完了した。

「ありがとうございます」

 喜ぶ萌衣に、ジャンは優しく微笑んだ。

「パリの行きたい場所、ピックアップしておいてください」

 ジャンに言われて、萌衣は笑顔で頷いた。
 
 
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

溺婚

明日葉
恋愛
 香月絢佳、37歳、独身。晩婚化が進んでいるとはいえ、さすがにもう、無理かなぁ、と残念には思うが焦る気にもならず。まあ、恋愛体質じゃないし、と。  以前階段落ちから助けてくれたイケメンに、馴染みの店で再会するものの、この状況では向こうの印象がよろしいはずもないしと期待もしなかったのだが。  イケメン、天羽疾矢はどうやら絢佳に惹かれてしまったようで。 「歳も歳だし、とりあえず試してみたら?こわいの?」と、挑発されればつい、売り言葉に買い言葉。  何がどうしてこうなった?  平凡に生きたい、でもま、老後に1人は嫌だなぁ、くらいに構えた恋愛偏差値最底辺の絢佳と、こう見えて仕事人間のイケメン疾矢。振り回しているのは果たしてどっちで、振り回されてるのは、果たしてどっち?

包んで、重ねて ~歳の差夫婦の極甘新婚生活~

吉沢 月見
恋愛
ひたすら妻を溺愛する夫は50歳の仕事人間の服飾デザイナー、新妻は23歳元モデル。 結婚をして、毎日一緒にいるから、君を愛して君に愛されることが本当に嬉しい。 何もできない妻に料理を教え、君からは愛を教わる。

優しい愛に包まれて~イケメンとの同居生活はドキドキの連続です~

けいこ
恋愛
人生に疲れ、自暴自棄になり、私はいろんなことから逃げていた。 してはいけないことをしてしまった自分を恥ながらも、この関係を断ち切れないままでいた。 そんな私に、ひょんなことから同居生活を始めた個性的なイケメン男子達が、それぞれに甘く優しく、大人の女の恋心をくすぐるような言葉をかけてくる… ピアノが得意で大企業の御曹司、山崎祥太君、24歳。 有名大学に通い医師を目指してる、神田文都君、23歳。 美大生で画家志望の、望月颯君、21歳。 真っ直ぐで素直なみんなとの関わりの中で、ひどく冷め切った心が、ゆっくり溶けていくのがわかった。 家族、同居の女子達ともいろいろあって、大きく揺れ動く気持ちに戸惑いを隠せない。 こんな私でもやり直せるの? 幸せを願っても…いいの? 動き出す私の未来には、いったい何が待ち受けているの?

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

【完結】もう一度やり直したいんです〜すれ違い契約夫婦は異国で再スタートする〜

四片霞彩
恋愛
「貴女の残りの命を私に下さい。貴女の命を有益に使います」 度重なる上司からのパワーハラスメントに耐え切れなくなった日向小春(ひなたこはる)が橋の上から身投げしようとした時、止めてくれたのは弁護士の若佐楓(わかさかえで)だった。 事情を知った楓に会社を訴えるように勧められるが、裁判費用が無い事を理由に小春は裁判を断り、再び身を投げようとする。 しかし追いかけてきた楓に再度止められると、裁判を無償で引き受ける条件として、契約結婚を提案されたのだった。 楓は所属している事務所の所長から、孫娘との結婚を勧められて困っており、 それを断る為にも、一時的に結婚してくれる相手が必要であった。 その代わり、もし小春が相手役を引き受けてくれるなら、裁判に必要な費用を貰わずに、無償で引き受けるとも。 ただ死ぬくらいなら、最後くらい、誰かの役に立ってから死のうと考えた小春は、楓と契約結婚をする事になったのだった。 その後、楓の結婚は回避するが、小春が会社を訴えた裁判は敗訴し、退職を余儀なくされた。 敗訴した事をきっかけに、裁判を引き受けてくれた楓との仲がすれ違うようになり、やがて国際弁護士になる為、楓は一人でニューヨークに旅立ったのだった。 それから、3年が経ったある日。 日本にいた小春の元に、突然楓から離婚届が送られてくる。 「私は若佐先生の事を何も知らない」 このまま離婚していいのか悩んだ小春は、荷物をまとめると、ニューヨーク行きの飛行機に乗る。 目的を果たした後も、契約結婚を解消しなかった楓の真意を知る為にもーー。 ❄︎ ※他サイトにも掲載しています。

社長はお隣の幼馴染を溺愛している

椿蛍
恋愛
【改稿】2023.5.13 【初出】2020.9.17 倉地志茉(くらちしま)は両親を交通事故で亡くし、天涯孤独の身の上だった。 そのせいか、厭世的で静かな田舎暮らしに憧れている。 大企業沖重グループの経理課に務め、平和な日々を送っていたのだが、4月から新しい社長が来ると言う。 その社長というのはお隣のお屋敷に住む仁礼木要人(にれきかなめ)だった。 要人の家は大病院を経営しており、要人の両親は貧乏で身寄りのない志茉のことをよく思っていない。 志茉も気づいており、距離を置かなくてはならないと考え、何度か要人の申し出を断っている。 けれど、要人はそう思っておらず、志茉に冷たくされても離れる気はない。 社長となった要人は親会社の宮ノ入グループ会長から、婚約者の女性、扇田愛弓(おおぎだあゆみ)を紹介され――― ★宮ノ入シリーズ第4弾

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

処理中です...