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Episode10:Will you marry me?

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 ジャンと濃厚な朝を過ごし、萌衣はイベント会場にて震える手を必死に抑えつけていた。

 会場には思った以上に人が来ている。

「ちょっと、清水ちゃん。緊張しすぎ」

 TOMOKAにツッコミを入れられて「私、こんな大舞台でスピーチするんですか?」と萌衣は泣きついた。

 会場には、有名な若手俳優の尾賀拓人おがたくとや超有名インフルエンサーの原田芽生はらだ めいもいる。
 
 萌衣と同年代の人間のほとんどが、黄色い声をあげて駆け寄っていくような人物ばかりだ。

「いや、何言ってんの?清水ちゃんの動画百四十万回再生は余裕で超えてたでしょ。こんな数十人にビビッてどうすんのよ」

「だって、その時は普通の撮影しただけで観られるって意識なかったですし」

 ぐずぐず言っている間に、あっという間に萌衣の出番が来てしまった。

 右手と右足が一緒に出ている萌衣の背中を、TOMOKAがバシンと叩く。

「しっかり!」

 萌衣の出番の後にTOMOKAの出番なのだが、TOMOKAは場慣れしているせいか、堂々としている。

「今年一番話題となったCMの発案者である清水萌衣さんです。メイクアップアーティストのTOMOKAさんとコラボした大変身CMは皆様もご覧になったのではないでしょうか?それでは登場していただきましょう!」

 進行役の人の言葉と共に、萌衣はステージの上に上がった。

 マイクがキィンとなったので、慌てて電源をいったん切る。

 音響スタッフの人が「大丈夫です。電源入れてください」と声をかけられたので、萌衣はマイクの電源のスイッチを入れた。

 ステージの中央に立ち、会場を見渡した。

 ジャンの姿が見えた。

 途端にホッとした気持ちになり、萌衣は一度大きく深呼吸をした。

「皆様はじましてご紹介にあずかりました、清水萌衣と申します。突然ですが、私は全くもって自信のないタイプの人間です。性格もどちらかというと卑屈な方です」

 会場の中で軽く笑いが起こった。

 つかみは悪くないようだ。

「そんな私ですが、今回TOMOKAさんと一緒にお仕事するにあたって、私と同じような人達を華麗に変身させるという企画を通させていただきました。私たちROSSETTOは化粧品という商品を通じて、綺麗になりたいという人を綺麗にするための努力をしています。ですが、中にはその商品を使う資格がないと思うような人もいる。そんな人に、あなたは綺麗になる資格があるんですと伝えたかった。なぜなら、自信のない私がTOMOKAさんと一緒に仕事をして、綺麗にしていただいて、仕事をする上で美しいということについて、仕事に向き合う姿勢について、たくさん学んで自信がついたから。私も、自信を持って胸を張って、誇れる仕事ができるってことを教えてもらった」

 一度息をつく。

「だからこそ、今回の宣伝では、美しい女優ではなく、私と同じような自信がない素人の方に参加していただきました。彼ら、彼女たちの人生が少しでも輝くように。それでは、こちらのスライドをご覧ください」

 壁に映されたパワーポイントの資料を指し示して、動画を再生する。

 自分に自信のないと言っている人たちが、TOMOKAの手で美しくなっていく。
 
 時にはナチュラルに、時にはカラフルなド派手メイクに。

 一人一人の個性に合わせて、女性も男性も関係なく、彼らの美しさを最大限に引き出したメイクをROSSETTOの化粧品を使って引き出していく。

 不安そうな表情をしていた演者達は、動画の最後には眩い笑顔になっていた。

「誰でも美しくなる権利を。ROSSETTO」

 短い言葉で動画は締めくくられた。

 時間にして一分半の短い動画だった。

 動画が終了した後、静まり返った会場にパラパラの拍手がなり始め、次第に大きな拍手となった。

 あまりの大きな拍手に、萌衣の瞳から涙が溢れだした。

 次の順番であるTOMOKAが登壇して、ぎゅっと萌衣を抱きしめ「本当、いい仕事させてくれてありがとう。私、清水ちゃんと一緒に仕事したこと、一生の誇りだよ」と呟いた。

  
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