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Episode10:Will you marry me?

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「君はさ。大した実力もないのに、大きな仕事をもらって、社長にも、その息子にも気に入られて」

「荒巻さん。どうしたんですか?」

 普段の様子と異なる荒巻に、戸惑いながらも「そんなことはないです」と萌衣は言葉を返す。

「そんなことないですよ?何言っちゃってんの?」

 荒巻が、鼻で笑い、萌衣の傍に置いてある箱を大きな音をたてて蹴り飛ばした。

「……荒巻さん?」

「君はさ、今回の俺の仕事に、昇進がかかってるって知ってたよね?野村芽衣子を使ったシリーズは社内でトップをキープできれば、昇進させてやるって約束をこっちは受けてたんだよ。それなのに、なんでお前の仕事が上手くいってるわけ?」

「それは……」

 どんどん壁の方へ追い詰められていく。

 恐怖で足がすくんだ。

 言葉が上手く出てこなかった。

 一体彼の中に何があったのか、皆目見当もつかなかった。
 
 普段の様子と異なる荒巻に、どのような言葉をかけても、彼の怒りを助長してしまう気がして、萌衣は押し黙る。

 そんな萌衣に荒巻は更に苛立った様子で「清水、お前聞いてんのかよ」と怒鳴り散らした。

「聞いてます……」

「何度も邪魔してやったのに、あのバカ部長使って難なく色々こなしちゃうから、びっくりしたよ。なに?やらしたの?その貧相な体で?」

「どういう……ことです……か」

 邪魔というのは、どういうことなのだろうか。

「気が付かなかったの?女優のクレームの件も、ストーカーの件も全部嫌がらせだよ」

「荒巻さん……そんな」

「君みたいな縁故入社の人間で、特に女が頑張られると目障りなんだよ。雑用をそのまま永遠にこなしていればよかったものの、低学歴のくせに」

 言っている意味が分からなかった。

 今まで親切にしてくれた荒巻の姿は、全て幻想だったということなのだろうか。

「今から言う条件を聞いてくれたら、無傷で返してあげる」

 萌衣の腕をぐいっと掴んで、荒巻が言った。

 容赦のない力加減に、「痛い」と声をあげるが、無視される。

「一つ目は、お前は明日イベントに来るな。一回会社サボってるくらいだし、余裕だろ。二つ目は、二度と調子に乗らないと約束しろ」

 首を大きく横に振った。

 明日のイベントは、萌衣にとって大事なイベントだ。

 ジャンが与えてくれた仕事で、TOMOKAの力を借りながらなんとか成し遂げた仕事の集大成だ。

 色々な人に迷惑をかけながら達成した分、何がなんでも最後まで携わりたかった。

「まあ、普通に考えてそうだよね。だから甘い汁をすったバカは嫌いなんだ。すぐにつけあがる。だから、雑用を押し付けて、変な気を起こさないようにしてたのに」

 もう萌衣の知っている荒巻の面影はどこにもなかった。

 

 
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