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Episode09:I can't marry you
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「ジャンに、モエの気持ちは伝えた?」
「……いいえ」
ジャンに愛してほしいと酔った勢いで言ったことはあった。
だが、ジャンに愛していると伝えたことはない。
「嫌な時は嫌と言っていいの。ずっと甘い関係なんて、できやしないんだから。たまには喧嘩だってしないとね。正直な感情を相手に伝えないと、あなた自身が消えてなくなってしまうわ」
優しく微笑んでロメーヌは、すっかり冷えてしまった紅茶を口に含んだ。
「ジャンさんに嫌われたりしないでしょうか?
「大丈夫よ」
「つまらない女だと言われないでしょうか?」
「モエ、あなたが選ぶのよ」
「私が、選ぶ……?」
「私の孫を愛していると思ったら選べばいい。残念なことに、私の孫があなたの隣に立つ資格がなければ、選ばなければいいの。それに、あなたのことをつまらないと言う男の方がずっとつまらないわ。私は、あなたと一緒にお茶をしたり話をするの、楽しいもの」
「……そうでしょうか?」
「そうよ。それにね、この結婚はキヌエと私が仕掛け人のような顔をしているけれど、提案をしてきたのは、ジャンだったのよ」
「え?」
ロメーヌが発した予想外の言葉に、萌衣は驚き顔を上げた。
「本人には絶対内緒にしてくれって言われていたけれど、こんな状況だし話してしまうわね。キヌエとは定期的に手紙のやり取りをしていたのよ。その時に、モエの写真が同封されていたことがあったの。その写真を観て、ジャンがこんなに可愛い子がいるんだって言ってたのよ」
そんなことがあったなんて、知らなかった。
ジャンは一言もそんな素振りをしていなかった。
頭の中が混乱する。
「全く、知りませんでした」
「ジャンは不器用だからね。きっとあなたに伝えていないと思うの。でもね、私の部屋に遊びに来るたびに、あなたの写真を見せてってせがまれていたのよ。あれは間違いなく、初恋だったわ」
「ジャンさんが……」
「日本支社に出向すると言ってきたのもジャンだった。どちらにしろ、結婚は契約結婚になるだろうからって、一度あなたに会いたかったのね。キヌエの孫なら私も大賛成だったし、了承したの。その頃、キヌエはあなたに良い婿がいないかお見合いを一生懸命していると手紙に書いてあったから」
ロメーヌの言葉が萌衣の中に、少しずつしみ込んでくる。
自信がずっとなかった。
隣にジャンが立っているのを、萌衣では不釣り合いだとどこかんで考えてしまっていたところもあったかもしれない。
けれど、ジャンがそんな風に動いてくれているだなんて知らなかった。
萌衣は、ジャンについて何も知らない。
勝手に憶測を立てて、知ろうともしなかった。
「私、もう一度ジャンさんとのことについて、よく考えてみます」
小さな声で呟いた。
「若いっていいわね。たくさん悩んで間違っても、何度もやり直しがきくこと、忘れないで」
ロメーヌの優しい言葉に、萌衣は微笑み返すのだった。
「……いいえ」
ジャンに愛してほしいと酔った勢いで言ったことはあった。
だが、ジャンに愛していると伝えたことはない。
「嫌な時は嫌と言っていいの。ずっと甘い関係なんて、できやしないんだから。たまには喧嘩だってしないとね。正直な感情を相手に伝えないと、あなた自身が消えてなくなってしまうわ」
優しく微笑んでロメーヌは、すっかり冷えてしまった紅茶を口に含んだ。
「ジャンさんに嫌われたりしないでしょうか?
「大丈夫よ」
「つまらない女だと言われないでしょうか?」
「モエ、あなたが選ぶのよ」
「私が、選ぶ……?」
「私の孫を愛していると思ったら選べばいい。残念なことに、私の孫があなたの隣に立つ資格がなければ、選ばなければいいの。それに、あなたのことをつまらないと言う男の方がずっとつまらないわ。私は、あなたと一緒にお茶をしたり話をするの、楽しいもの」
「……そうでしょうか?」
「そうよ。それにね、この結婚はキヌエと私が仕掛け人のような顔をしているけれど、提案をしてきたのは、ジャンだったのよ」
「え?」
ロメーヌが発した予想外の言葉に、萌衣は驚き顔を上げた。
「本人には絶対内緒にしてくれって言われていたけれど、こんな状況だし話してしまうわね。キヌエとは定期的に手紙のやり取りをしていたのよ。その時に、モエの写真が同封されていたことがあったの。その写真を観て、ジャンがこんなに可愛い子がいるんだって言ってたのよ」
そんなことがあったなんて、知らなかった。
ジャンは一言もそんな素振りをしていなかった。
頭の中が混乱する。
「全く、知りませんでした」
「ジャンは不器用だからね。きっとあなたに伝えていないと思うの。でもね、私の部屋に遊びに来るたびに、あなたの写真を見せてってせがまれていたのよ。あれは間違いなく、初恋だったわ」
「ジャンさんが……」
「日本支社に出向すると言ってきたのもジャンだった。どちらにしろ、結婚は契約結婚になるだろうからって、一度あなたに会いたかったのね。キヌエの孫なら私も大賛成だったし、了承したの。その頃、キヌエはあなたに良い婿がいないかお見合いを一生懸命していると手紙に書いてあったから」
ロメーヌの言葉が萌衣の中に、少しずつしみ込んでくる。
自信がずっとなかった。
隣にジャンが立っているのを、萌衣では不釣り合いだとどこかんで考えてしまっていたところもあったかもしれない。
けれど、ジャンがそんな風に動いてくれているだなんて知らなかった。
萌衣は、ジャンについて何も知らない。
勝手に憶測を立てて、知ろうともしなかった。
「私、もう一度ジャンさんとのことについて、よく考えてみます」
小さな声で呟いた。
「若いっていいわね。たくさん悩んで間違っても、何度もやり直しがきくこと、忘れないで」
ロメーヌの優しい言葉に、萌衣は微笑み返すのだった。
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