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Episode09:I can't marry you

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「ミス、シミズ。少し時間をくれませんか?」

 次の日は会社へ向かった。

 萌衣の性格上、二日も仕事をサボることができなかったのだ。

 昨晩は実家に戻って、そのまま会社に向かったのだ。

 実際にジャンと顔を合わせるのは、二日ぶりのことだった。

 朝一でジャンに呼び出され、ミィーティングルームへと連れて行かれた。

 固い表情を浮かべている萌衣に、ジャンは「こちらへかけてください」と椅子を差し出す。

「……」

「昨日は、心配しました」

 萌衣が一向に口を開かないので、ジャンは困ったような表情を浮かべて言った。

「申し訳ありませんでした。以後気を付けます」

「無事ならいいんです」

 沈黙が二人の間に走った。

「お話が以上なら、仕事に戻らせていただいてもいいでしょうか?」

 部屋を出てくために、萌衣は席を立ちあがった。

「モエ」

「会社では、秘密にする約束では?」

 ジャンの言動全てが、萌衣の心をひどく掻き立てる。

 もうこれ以上動揺も、困惑もしたくなかった。

「どうしたんです?突然、そんな風に。正直訳が分かりません」

 ジャンの言葉にカチンときた。

 彼は何も分かっていないのだ。

 萌衣がいないところで、本屋に一人で来たと友人に言ってみたり、接待だと嘘をついてTOMOKAと食事をしていたり。

 そのことによって、萌衣がどのような想いをしたのか、どれだけ傷ついたのか分かっていないのだ。

 萌衣は、黙って部屋を出て行こうとする。

「モエ!私は、あなたと喧嘩をしたい訳ではありません。あなたの気持ちが知りたい。それは、そんなに嫌なことですか?」

 腕を掴まれて、ジャンはまじめなトーンで言う。

 一瞬、気持ちが揺らいだが、萌衣はその腕を振り払った。

 その瞬間、ジャンがものすごく傷ついたような表情を浮かべた。

 なぜ、ジャンがそのような顔をするのだろうか。
 
 傷ついたのは、萌衣の方だ。

「ごめんなさい……」

「いえ、いいんです。私も乱暴にしてしまってすみませんでした」

「あの……」

 小さな声で萌衣は呟くように「私、ジャンさんと結婚できません」と彼に伝える。

「……」

「ブラウン部長も最初に仰っていたじゃないですか。結婚できる相手は誰でもいいと。それに無理ならやめてもいいと仰っていたのも部長です」

「……本気なのか」

「ごめんなさい。それが気持ちです」

 萌衣はそれだけ言うと、部屋を出て行った。

 撤退して自分の安全地帯に逃げてくるのも勇気だと思うから。

 相沢の言葉が脳裏によぎる。

 昨晩ずっと考えて出た答えだった。

 これで、ジャンはTOMOKAにもう一度アタックすることができる。

 それでいいじゃないか。

 勝手な女でいい。

 そう思われても、萌衣は萌衣の心を守ったのだ。

 それも勇気だ。

 部署に戻る前に、少しどこかで気分を紛らわせてから戻ろう。

 今度は、ジャンも追いかけてはこなかった。
 

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