英国紳士の熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです

Episode07:I protect you

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　最初は気のせいだと思っていた。

　背後から人がついてくるようなことなど、人生で一度もなかったし、たまたま使うルートが同じなのだと思うようにしていた。

　土曜日の英会話教室は、朝ということもあって、電車で通っている。

　その日は、電車を降りて英会話教室が入っているビルの入り口まで到着した時だった。

「あの。すみません……」

　突然声をかけられて、萌衣は振り返った。

　眼鏡をかけた中肉中背の中年女性が、不安そうな面持ちで萌衣の顔を見ている。

「はい。なんでしょう？」

「親友になって欲しいんです。一目見た時から思ってました。私たち絶対に一生の親友になれるって！」

　萌衣が反応したことによって、不安そうな表情は一変、熱が入った持論を展開しながら、高揚した面持ちでその女性は自分の鞄から名刺を一枚取り出した。

　手作りの名刺に書かれているのは、有名な国立大学出身であるということだけだ。

「えっと……」

　こういった場合どのような対応をしたらいいのか分からず、曖昧にほほ笑んで萌衣は名刺を受け取ってしまった
　
高岡春奈たかおか はるなと名乗る女性は、自分は地方出身で高校時代はオール五を取れていたため、有名国立大学に入学すると同時に上京したこと、大学を卒業して就職した先で精神を病んでしまい、今はアルバイトを繋いで生活していることを打ち明けた。

　しかし、アルバイト先でも精神的な病を患っていることで、出勤できずクビになることが多く、最近ようやく持ち前の頭脳を認めらて塾のアルバイトが決まったらしい。

「大変だったんですね」

　話を聞いているだけでも壮絶な人生に、萌衣は一瞬同情の気持ちが芽生えてしまった。

「親友になってくれるんですね！」

　高岡が目を輝かせて言ったので、少しだけ怖くなった萌衣は曖昧にほほ笑んで「英会話教室があるので」とその場を去った。

　曖昧な反応をしていれば、そのうち諦めて去って行くだろうと思っていた節もあったからだ。

　仕事の行きかえりはジャンと共に行動しているので、遭遇することはなかった。

　しかし、英会話の時間になると必ず彼女は駅前で萌衣を待って、英会話教室の前まで一緒に話しながら歩こうとした。

　それも少し強引で、萌衣が逃げないように無理矢理腕を組んで、顔を覗き込むように話をする。

「ちょっと、近いです」と言っても、話に夢中になっている高岡は態度を変えなかった。

　話の内容は他愛ない話であったものの、高岡から発せられる妙な狂気が怖くなってきて、萌衣は降りる駅の一つ前の駅からタクシーを使って通うことにした。