英国紳士の熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです

Episode06:You rival in love

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　TOMOKA：昔、イギリスに住んでいたことがあるんです。親の仕事の都合で。私は日本の中でも田舎の方の出身で、東京に行くことすら健気に憧れている人間だったのですけど、それが突然海外ってくるもんだから、ビックリしちゃって。でも、イギリスで出会った人たちのおかげで、今の人生があるんです。趣味で通ったテニススクールですごく仲良くなった人がいましてね。そいつ向こうで超有名な会社の御曹司だったんですけど、私を見て「垢ぬけない」ってハッキリ言ったんですよ。悔しくって。必死にメイクを勉強して、色々していくうちに、どんどん腕を上げていって、気が付いたらこんなところまで来てました。今の私があるのは、あの時のあいつのおかげですね。

　インターネットに載っている、TOMOKAのインタビュー記事だ。

　昨夜は、色々な感情が混ざり合ってあまり上手く眠ることができなかった。

　ジャンには、今夜は一人でゆっくりすると伝えたため、一人きりの部屋で眠ろうとしたのが間違いだったのかもしれない。

　夜中に何度も目が覚めてしまい、ホットミルクを飲んだり、ヒーリング音楽をかけたりしてみたのだが、全く効果がない。

　仕方ないので、ネットサーフィンをしているうちに、TOMOKAのインタビュー記事にたどり着いてしまったのだ。

　仲良くなった、超有名な会社の御曹司。

　それはきっとジャンだ。

　女性が、男性に色々言われて努力をするのは、その男性に多少なりとも好意があるからだ。

　男性だって興味のない女性に、意地悪なんて言ったりしない。

　惹かれあっている二人を邪魔してしまっている罪悪感と、できることなら見えなかったふりをしてこのまま進んでしまいたい感情が、萌衣の中でごちゃごちゃに入り混じる。

　スマートフォンを投げるようにベッドに置いて、萌衣はゆっくり瞳をつむる。

　脳裏には、萌衣にキスを落とす時のジャンの顔が浮かんできた。

　優しく抱きしめて、繊細なものを触れるような手つきで萌衣の頬をなぞっていく。

　そっと唇が触れて、啄むように感触を確かめた後、舌が萌衣の舌を絡めとり艶めかしい音と共に、身体中の力を奪われるようなキス。

　そんなキスを、邪魔ものである萌衣が身を引けばジャンはTOMOKAにしてしまうのだろうか。

　想像しただけで、泣きそうになる。

　仕事も、恋も、結婚も。

　何一つTOMOKAに勝てるようなところは、見つからない。

「……どうすればいいの」

　誰も観ていない部屋ですら、泣くことを我慢してしまう。

　今泣いたら、全てダメになってしまう。

　だから、泣かない。

　朝になったら、すぐに一人で会社に行こう。

　今は、仕事でTOMOKAに対抗できるようになることからスタートだ。