英国紳士の熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです

Episode05:I am afraid of this accident

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　その場にいた誰もが唖然とした。

　普通、日本の社会では、このような状況になれば平謝りを続けなければ会社の沽券にも関わるからだ。

「大変申し訳ありませんが、話が平行線になりそうですので。ミス、シミズは横にいるミスター、アラマキ同様、弊社の優秀な社員です。彼女は、日頃の業務から嘘をつくことはありません」

　はっきり言い切るジャンを、野村芽衣子は口をあけて呆然としている。

「で、でも……」

「ミス、ノムラ。あなたのご要望通りですと、彼女をクビにしない場合は、弊社の広告に今後一切出ていただけないのですよね。日本の中でもスターであるあなたですが、今後世界規模の広告を打つ際にも参加していただけないなんて、非常に残念です」

「せ、世界規模……ってどういうことよ」

「ハリウッド女優やイギリスの女優を集めて広告を作ろうという動きが、ROSETTTOのイギリス本社方であるのです。その女優を日本代表としてミス、ノムラを推そうという動きがあったのですが……。メラニー・ロビンソンや、パウネリー・ジョーなどと一緒に広告に映るあなたが見てみたかったです」

　メラニー・ロビンソンやパウネリー・ジョーとは、世界的に有名な映画女優だ。

　何度も映画祭で大きな賞をもらっていて、世界中で知らない人の方が少ないだろう。

「メラニー・ロビンソンやパウネリー・ジョー……」

　うわ言のように繰り返した後、野村芽衣子の態度が一変して、急に姿勢を正し始めた。

「では、我々はここでお暇させていただきます。ミスター、アラマキ。ミス、シミズ。失礼させていただきましょう」

　ジャンが、席を立つ。

「ちょっと、待って！契約は継続していただくわ！」

　態度を百八十度変えた野村芽衣子が、慌てたようにジャンを呼び止めた。

　ジャンは、ゆっくりと笑みを浮かべて「ありがとうございます。ですが、ミス、シミズはクビにしないのですが」とゆっくり言葉を紡ぐ。

「そんなの、もうあの人が現場に来なければいいわよ！私、女優だもの、ある程度の嫉妬は受け慣れているわ」

「そうですか。許していただけるのですね。寛大なお心に感謝いたします。では、本社の方にミス、ノムラの方から快諾の返事があったと報告させていただきます。担当は……そうですね。引き続き、ミスター、アラマキでよろしいでしょうか？」

「いいえ、担当は、ブラウンさん。あなたに変更するわ」

　荒巻が驚いたような表情を浮かべている。

「承知しました。しかし、今まではミスター、アラマキが担当しておりましたので、引継ぎの関係上今後も彼が対応することはあるとは思います」

「ええ。分かりました。国内の広告に関しては、荒巻さんにこのままお願いするわ。ちなみに、海外の契約はどのくらいの割合で、話が決まりそうかだけは証言していただけます？」

「そうですね。ほぼ・・確定事項と思っていただいてよろしいかと。明日には、会社を通じてお伝えいたします」
　
　笑みを浮かべるジャンに、野村芽衣子は満足気な表情で「待っているわ」と機嫌よく答えた。