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Episode05:I am afraid of this accident

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「昔ね。イタリアの紅花畑で恋をしたの。叶わぬ恋だったけど、幸せだった。絹江も一緒にいて、私が必死にアプローチするのを応援してくれたわ」

「そんなことがあったんですね……」

「名家に嫁いで玉の輿に乗った絹江と、何にも持っていない平凡な若い女。女の価値は結婚で決まるって本気で信じる人がまた多かった時代で、イギリス本国で肩身の狭い思いをしていた私を、絹江は連れ出してくれたの。前にも話したと思うけれど、途中でガス欠になってしまってね。助けてくれたのが、彼だった」

 ジャンと縁談をした日に、絹江とロメーヌが話していた内容を思い出しながら、萌衣は頷いた。

「イギリス男にはない優しくて太陽みたいなあの人に、一目ぼれ。夢中になって、近くの宿に泊まりながら彼の元に通ったわ。でも、彼には婚約者がいて、無理だったの。泣きながら紅花畑に倒れ込んで、絹江に起こしてもらった時に唇に紅がついてたのが、ROSSETOロセットの企業のきっかけ」

「そんなきっかけが……」

 なぜ、ロメーヌが突然そんな話をしたのか、分からない。

 しかし、世界的企業を一代のうちに育て上げたロメーヌに、そのような時代があったなど考えられなかった。

「ビックリでしょう。情けなくて」

「いいえ。そんなことはありません。私の方がずっと情けなくて……」

 萌の言葉にロメーヌは、何も言わなかった。

 その代わり「ジャンって少し難しい子でしょ」と優しい口調で語りかけてきた。

「いえ、優しいです。仕事には厳しいですけど、それも愛情のうちってこと……最近わかりました」

 ジャンがいなければ、未だに萌衣は雑用しかやっていなかっただろう。

 任せると言われても、私には無理だとしり込みをしたまま、自己肯定感が低いままだったかもしれない。

「あの子はね。会社の期待を背負いすぎているところがあるの。私も、もちろん家族も犠牲になどする気はない。けれど、私が作ったあの会社を私の代で終わりにはしたくないみたい。自由に生きればいいのだけど、あの子はそうは思っていないみたいで」

「ミセス、ロメーヌ……」

「だから、あなたに支えて欲しいの。あの子、あなたと一緒にいる時とても嬉しそうだから」

 ロメーヌの言葉に罪悪感が募る。

 ジャンには他に愛する人がいると知っている萌衣が、彼を支えて生きていくと堂々と言ってしまっていいのだろうか。

 躊躇している萌衣を、困っていると感じたのか、ロメーヌは「ゆっくりでいいわ。焦らなくて大丈夫。老いぼれの話に付き合ってくれてありがとうね」と宥めるように笑った。
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