英国紳士の熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです

坂合奏

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Episode05:I am afraid of this accident

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 食事が終わると、 萌衣の両親はこの後、国際ホールでオペラのコンサートがあると言って帰ってしまい、絹江は、お茶教室に間に合わないとホテルを出て行ってしまった。

 ジャンは萌衣に両親に東京の街を案内したいので一緒に来てほしいと頼んだ。
 しかし、ロメーヌがそれを止めた。

「私と萌衣さんは、先に約束していることがあるの」

 そのような約束はしていなかったが、ロメーヌがウインクをしてきたので口裏を合わせることにした。

「そ、そうなの。お約束をしていて」

「分かりました。お祖母様、あまりモエを振り回さないでくださいね」

「そうだよ。母さんはいつも天真爛漫に、相手を翻弄するんだから」

 ジャンとジャンの父が交互にロメーヌに言うと「あなた達、早く行かないと電車に乗り遅れますよ」とロメーヌが時計を差した。
 
 さっさとあっちへ行けという合図らしい。

 慣れている二人は肩をすくめ、ジャンの母がイギリス式の挨拶でロメーヌと萌衣にハグをして、ジャンとジャンの父を連れて観光へと足を運んで行った。

「さて。厄介者が消えたところで、場所を変えて、お茶でもしましょうか」

 ロメーヌの言葉に、萌衣は頷き、彼女の後をついて行った。

 冷房が効いていたホテルから一歩外に出ると、うだるような暑さが身を包む。

「日本の夏は湿気がすごいわね。ロンドンの夏は大違いよ」

 ロメーヌが額に浮かぶ汗を、小さな鞄の中から出したレースのハンカチで拭く。

「そのハンカチ素敵ですね」

「ああ、これね。イタリアのフィレンツェのレース職人が作ったのよ。イタリアのフィレンツェは職人の街。世界にはたくさんの土地があるけれど、私はあの街が好きなのよ。いつかジャンと一緒に旅行してみるといいわ」

「ええ。いつか」
 
 他愛のない会話をしながら、CHANEL、Louis Vuitton、ARMANIなど数々のブランドが並ぶビル街を二人で歩く。

 絹江がここにしましょうと提案したのは、マリアージュと書かれた紅茶の店だった。

「ここ、二階はカフェになっているの。知ってた?」

「いいえ。まったく知らなかったです」

 二人で店内に足を運び、紅茶とケーキセットを頼む。

 小さな店内には、所狭しと簡易的な木の椅子と、真っ白なテーブルクロスがかけられた円卓テーブルが設置してある。
 
 客が少ないようで、ロメーヌと萌衣以外には、男女の客が一組入っているだけだった。

 頼んだ紅茶が到着して、ロメーヌは嬉しそうに香りを楽しみながら紅茶を飲んだ。

「さっき、あなたににフィレンツェの話をして、色々思い出したわ」

 遠いどこかを見るかのように、目を細め、ロメーヌは戻らぬ風景を慈しんでいるようだった。

 

 

 

 
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