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Episode05:I am afraid of this accident
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暑い夏も終盤を迎え、九月に入る前の最後の日曜日に、互いの一族の顔合わせが行われた。
萌衣の両親と絹江、ジャンの両親とロメーヌがと共に、銀座のペニンシュラの最上階にあるレストランで食事をする。
窓から見える景色には、大きな緑色の庭が展望できる。
蝉の鳴き声は、まだ聞こえているのだけれど、さすがの高層階ともなると、夏の風物詩の音は届かないようだ。
紫色のビロードで出来た円状のソファーの席を通り過ぎて、窓際に用意された八人分の座席にそれぞれ腰かけた。
ジャンの両親はこの顔合わせのために、わざわざイギリスから飛行機に乗って日本に来てくれた。
母親は笑顔の優しい人物で、父親は少しジャンに似て気難しそうなところがあるようだったが、基本的には愛想よく萌衣にも、萌衣の家族にも接してくれた。
結婚式はイギリスのウェストンミンスター大聖堂でするのはどうかしら?とロメーヌの言葉に、席に座っている面々が沸き立つ。
絹江に関しては、自分が縁組した孫娘とその相手がうまくいきそうなので、非常にご満悦だ。
その中で一人浮かない表情を浮かべていたのは、萌衣だけだった。
「両親もあなたが気に入ったようです」
ジャンが食後のコーヒーを飲んでいる時に、そっと耳打ちしてきた。
あの日、本屋の出口でアントニオという男が店を確認してから、萌衣はジャンの場所へと足を運んだ。
自分でもどうしてそのような行動に出てしまったのか、全く分からない。
婚約者だと乗り出していって、ジャンに拒絶されてしまうことが怖かったからかもしれない。
何事もなかったような表情で声をかけ、ジャンも何事もなかったかのような態度で萌衣に目的の本はあったかどうか尋ねた。
アントニオの話は、今顔合わせの段階までにも一度も出てきていない。
家に縛られて、愛する女性がいるのにも関わらず、萌衣との縁組を決めてしまって本当にいいのだろうか。
もし、ジャンが萌衣を愛することができなくて、萌衣がジャンに対して愛を持つことができなくなれば、その結婚はただの人間同士のコミュニティだ。
コミュニティに属しているのは、悪いことではない。
しかし、萌衣は愛がほしいのだ。
例えそれが、稀有なパターンだとしても、あのロマンス小説のような、愛が欲しいのだ。
「にしても安心したわ。ジャンさんは優しそうな人だし、何よりも萌衣が愛されているようで」
何も分かっていない萌衣の母が、能天気な笑みを浮かべて未来の夫婦の顔を交互に見つめた。
違うのよ。お母さん。
彼は、私を愛してなんかいないんだから。
萌衣の両親と絹江、ジャンの両親とロメーヌがと共に、銀座のペニンシュラの最上階にあるレストランで食事をする。
窓から見える景色には、大きな緑色の庭が展望できる。
蝉の鳴き声は、まだ聞こえているのだけれど、さすがの高層階ともなると、夏の風物詩の音は届かないようだ。
紫色のビロードで出来た円状のソファーの席を通り過ぎて、窓際に用意された八人分の座席にそれぞれ腰かけた。
ジャンの両親はこの顔合わせのために、わざわざイギリスから飛行機に乗って日本に来てくれた。
母親は笑顔の優しい人物で、父親は少しジャンに似て気難しそうなところがあるようだったが、基本的には愛想よく萌衣にも、萌衣の家族にも接してくれた。
結婚式はイギリスのウェストンミンスター大聖堂でするのはどうかしら?とロメーヌの言葉に、席に座っている面々が沸き立つ。
絹江に関しては、自分が縁組した孫娘とその相手がうまくいきそうなので、非常にご満悦だ。
その中で一人浮かない表情を浮かべていたのは、萌衣だけだった。
「両親もあなたが気に入ったようです」
ジャンが食後のコーヒーを飲んでいる時に、そっと耳打ちしてきた。
あの日、本屋の出口でアントニオという男が店を確認してから、萌衣はジャンの場所へと足を運んだ。
自分でもどうしてそのような行動に出てしまったのか、全く分からない。
婚約者だと乗り出していって、ジャンに拒絶されてしまうことが怖かったからかもしれない。
何事もなかったような表情で声をかけ、ジャンも何事もなかったかのような態度で萌衣に目的の本はあったかどうか尋ねた。
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家に縛られて、愛する女性がいるのにも関わらず、萌衣との縁組を決めてしまって本当にいいのだろうか。
もし、ジャンが萌衣を愛することができなくて、萌衣がジャンに対して愛を持つことができなくなれば、その結婚はただの人間同士のコミュニティだ。
コミュニティに属しているのは、悪いことではない。
しかし、萌衣は愛がほしいのだ。
例えそれが、稀有なパターンだとしても、あのロマンス小説のような、愛が欲しいのだ。
「にしても安心したわ。ジャンさんは優しそうな人だし、何よりも萌衣が愛されているようで」
何も分かっていない萌衣の母が、能天気な笑みを浮かべて未来の夫婦の顔を交互に見つめた。
違うのよ。お母さん。
彼は、私を愛してなんかいないんだから。
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