英国紳士の熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです

坂合奏

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Episode04:I worried about you

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 本屋に行くのは、久しぶりのことだった。

 学生時代は、アルバイトの収入の半分は本に消えていたくらいなので、本は好きだ。

 就職してから、仕事にまみれてろくに息抜きもしていなかった。

 入れ替わっている流行の書物に、気持ちを向けつつ、先程観ていたドラマの原作本を探す。

 ロマンス小説のコーナーにこれでもかと目立ったポップが書かれ、書物が平積みされていた。

「これですね。モエは、他に見たいものありますか?もしあれば、少し別行動で探しませんか?」

 ロマンス小説のコーナーの隣には、洋書コーナーが設置されていた。

 萌衣が知っている書店の中でも、広々とした洋書コーナーである。

「はい。実は私も少し本の買いだめがしたくて」

 日本の生活の中で、自分の祖国の言語の本がたくさん並んでいたら萌衣だってわくわくするだろう。

 案の定、ジャンは足早に洋書コーナーに向かって行った。

 子供のような振る舞いをすることが、ジャンにもあったのだと驚いたが、萌衣は自分の本を探すためにその場を離れた。

 結局、原作本以外に読みたい本が見つからなくて、萌衣は洋書コーナーにいるはずのジャンのいる場所へと向かう。

 何列にも並ぶ棚と棚の間を確認していき、ジャンの姿を探した。

 ジャンの姿をようやく見つけた時だった。

 ジャンが知らない外国人と談笑している。

 ジャンよりも少しだけ背の低い男性は、緑色の瞳に褐色の肌、そして縮れた髪を綺麗に刈り込んでいる。

 その親し気な様子に、知り合いなのではないかとすぐにピンときた。

 そのお方どちら?と尋ねて出て行けばいいのだが、なぜか萌衣にその勇気は出なかった。

 何故なら、二人の会話が聞こえたからだ。

「ジャン。で、今日は一人か?」

「あ、ああ。まあ、そんなところだ」

 萌衣と一緒に来ているはずだ。

 なぜ嘘をつく必要があるのだろう。

 どうして?

 そんなところって、どういうこと?

 心の中、いくつもの疑問が沸き上がる。

「いつまでも、例の彼女のことが忘れられないなんて、お前もなかなか執念深いよな」

「アンドレア。その話を持ち出すのはやめてくれ」

「ジャン。Time is money時は金なりだぜ。家に縛られているお前に言うのは酷かもしれないが、自分の人生を犠牲にしてまで、彼女を諦める必要はない」

 アンドレアと呼ばれた男の言葉が、頭の中でぐるぐると回った。

 ジャンには好きな人がいて、未だに忘れることができない人がいる。

 家に縛られている。

 萌衣との結婚をすることで、ジャンは好きな誰かを諦めなくてはならないのだ。

 昨晩のキスを思い出す。

 一瞬でも自分はジャンと愛し合うことができるのではないかと期待をした。

 好きになってはいけないという自制は、必要ないのではないかと未来を思い描いてしまった。

 永遠の愛を結ばれる小説が人気が出るはずだ。

 萌衣の手に持っている小説のような展開を経験できる人間など、星の数ほどしかいないのだから。

 
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