英国紳士の熱い抱擁に、今にも腰が砕けそうです

坂合奏

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Episode03:I don't like you

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 帰りの飛行機もロサンゼルス国際空港から、羽田空港への直行便だった。

 九時間ほどかけて羽田空港に到着し、税関の書類を記載して出口にいる係員に手渡す。

 電車の時間を調べながら、歩いている時だった。

「奥様。歩きスマホは危険ですよ」

 聞きなれた声がして、顔をあげると、目の前にジャンが立っていた。

「あ、え?どうして、ここに?」

「飛行機のチケット、誰が取ったと思っているんです?」

 驚く萌衣に、ジャンは呆れたように言った。

「迎えに来ると思ってなかったから」

「あんな電話をよこしておいて、迎えに来ない男はいないですよ」

「あ、あの……あの電話は……違うんです」

「違うとは?」

 耳元で囁かれて、顔が真っ赤になるのを感じた。

 顔が熱い。

「あなたは、男をたきつけるのがうまいらしい」

 ジャンはそう言うと、萌衣の手を引いて駐車場まで歩き始める。

 車に乗るなり、ジャンにキスをされた。

 逃げられないように、腰を抱きとめられる。

「んあ……ジャン…さん」

「好きですよ。モエ」

 キスの合間に、愛の言葉が囁かれた。

 何度も角度を変えられ、深いキスをする間中、ジャンは萌衣に対して愛の言葉を囁いた。

 ジャンから香る洋梨の香り。

 冷房が効いていないむせ返るような湿気の車内で、イギリス男は何度も何度も萌衣の口内を楽しんだ。

 一体何分そうしていたことだろか。

「自分がどんな表情をしているのか、分かっているのですか。モエ」

「え……」

 息を整えようと、酸素を取り込む萌衣を唇に、ジャンの指がそっと触れる。

「誰にも、見せたくない。君を閉じ込めてしまいたい」

 再び、キスをしようとしてきたジャンに、萌衣はハッとした。

 あの電話で愛していると言ってほしいと萌衣が言ったから、ジャンは愛の言葉を囁いているのではないかと思ったからだ。

「あの、駄目です。これ以上は」

「どうしたんです、急に」

「いや、あの……えっと」

 この雰囲気の中で、嫌な流れを自ら作るのはいかがなものだろうか。

 急に臆病な心が芽生え始めた。

 ジャンは、何か言いたげな萌衣をじっと待っている。

「あの、お土産を買ってきたので、早く渡したいなと思って」

 ジャンは、分かりやすい萌衣のはぐらかしを「それは楽しみですね」と受け入れた。

 自分で流れを変えたくせに、なぜだか急に寂しい気持ちになるのは、萌衣の勝手だ。

「お揃いなんですよ」

 包装された箱をジャンに手渡し、中から出てきた黒革のキーケースとお揃いのベージューのキーケースを萌衣は手で持って見せた。

「素敵なプレゼントですね」

 ジャンが嬉しそうにほほ笑んで、キーケースを眺める。

 まさか、ジャンのそのような顔を見ることになるとは、予想もしていなかった。

「よ、喜んでくれたら、よかったです」

「最高のプレゼントですよ。モエ。私からも、何か贈らないと」

 再び、手が伸びてきてジャンが、萌衣にキスをする。

 今度は、萌衣も拒まず受け入れるのだった。
 
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