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Episode03:I don't like you
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太陽の光で目が覚めた。
時計を見ると、朝の七時だ。
寝ぼけた頭で、昨晩のことを思い出した瞬間、背筋が凍るような気分になった。
なんてことをしてしまったのだろうか。
昨晩の会話が鮮明に思いだされる。
酔っぱらった時の記憶がなくなるタイプの人種であればよかったのだが、不都合なことに萌衣はバッチリ記憶が残るタイプの人種だった。
「な、なんてことをしてしまったの、私……」
べろべろに酔っぱらって、ジャンに絡んだ挙句、「好きって言って」と何度も懇願してしまった事実は今更消すことができない。
一体どのような顔で、日本に戻った時にジャンに会えばいいのだろう。
もし、今魔法が使えるとしたら、萌衣は昨晩のジャンの記憶を取り消してしまいたかった。
しかし、魔法など使えるはずもなく、ジャンからは「大切な奥様のご要望により、帰国したらたくさん愛して差し上げます」と変なメッセージまで来ている。
たくさん愛するってなんですか。
せっかくロサンゼルスに来たというのに、ジャンのことで頭がいっぱいになってしまい、ろくに観光をすることもできないまま帰りの飛行機にのることになってしまった。
慌てたように免税店で前から欲しかったブランドの財布を購入する。
ジャンから渡されたブラックカードは使っていない。
海外に行くということで、貯金の中からいくらかお金をおろしてきたのだ。
外国通貨を日本通貨にわざわざ直すのもめんどくさいので、せっかくの海外だ。
普段は買わないような買い物をしてもいいと、自分を甘やかしているところである。
日本で買うよりも値段が落ちるので、お買い得になった気分だ。
ふと目を下すと、キーケースが目に入る。
「こちらは、男女でお使いいただけますよ」
ショップ店員さんが、紙袋に商品を入れながら説明してくれた。
黒革にゴールドの文字が入ったシンプルなデザインと、ベージュの革にシルバーの文字が入ったデザインだ。
お揃いで買ったら、喜ぶかな。
頭の中で一緒に使っているシーンを想像して、首を横に振る。
喜んでいるジャンの姿が想像できない。
だが、あの家に来て、ジャンがキーケースを使っていなかったことを思い出した。
昨晩の非礼のお詫びと言えば、受け取ってくれるかもしれない。
「あの、これもください。えっと、一種類ずつ……」
「承知しました。サービスでお名前をお入れすることができますが、いかがいたしましょう?」
「どのくらい時間がかかりますか?」
「そうですね。十五分もあれば」
萌衣は、スマートフォンで時間を確認する。
飛行機が出発する時間は、あと二時間後だ。
十五分なら充分待てる。
「お願いします」
萌衣は、財布の中からお金を取り出して、キーケース二つ分の値段を支払うのだった。
時計を見ると、朝の七時だ。
寝ぼけた頭で、昨晩のことを思い出した瞬間、背筋が凍るような気分になった。
なんてことをしてしまったのだろうか。
昨晩の会話が鮮明に思いだされる。
酔っぱらった時の記憶がなくなるタイプの人種であればよかったのだが、不都合なことに萌衣はバッチリ記憶が残るタイプの人種だった。
「な、なんてことをしてしまったの、私……」
べろべろに酔っぱらって、ジャンに絡んだ挙句、「好きって言って」と何度も懇願してしまった事実は今更消すことができない。
一体どのような顔で、日本に戻った時にジャンに会えばいいのだろう。
もし、今魔法が使えるとしたら、萌衣は昨晩のジャンの記憶を取り消してしまいたかった。
しかし、魔法など使えるはずもなく、ジャンからは「大切な奥様のご要望により、帰国したらたくさん愛して差し上げます」と変なメッセージまで来ている。
たくさん愛するってなんですか。
せっかくロサンゼルスに来たというのに、ジャンのことで頭がいっぱいになってしまい、ろくに観光をすることもできないまま帰りの飛行機にのることになってしまった。
慌てたように免税店で前から欲しかったブランドの財布を購入する。
ジャンから渡されたブラックカードは使っていない。
海外に行くということで、貯金の中からいくらかお金をおろしてきたのだ。
外国通貨を日本通貨にわざわざ直すのもめんどくさいので、せっかくの海外だ。
普段は買わないような買い物をしてもいいと、自分を甘やかしているところである。
日本で買うよりも値段が落ちるので、お買い得になった気分だ。
ふと目を下すと、キーケースが目に入る。
「こちらは、男女でお使いいただけますよ」
ショップ店員さんが、紙袋に商品を入れながら説明してくれた。
黒革にゴールドの文字が入ったシンプルなデザインと、ベージュの革にシルバーの文字が入ったデザインだ。
お揃いで買ったら、喜ぶかな。
頭の中で一緒に使っているシーンを想像して、首を横に振る。
喜んでいるジャンの姿が想像できない。
だが、あの家に来て、ジャンがキーケースを使っていなかったことを思い出した。
昨晩の非礼のお詫びと言えば、受け取ってくれるかもしれない。
「あの、これもください。えっと、一種類ずつ……」
「承知しました。サービスでお名前をお入れすることができますが、いかがいたしましょう?」
「どのくらい時間がかかりますか?」
「そうですね。十五分もあれば」
萌衣は、スマートフォンで時間を確認する。
飛行機が出発する時間は、あと二時間後だ。
十五分なら充分待てる。
「お願いします」
萌衣は、財布の中からお金を取り出して、キーケース二つ分の値段を支払うのだった。
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