上 下
30 / 111
Episode03:I don't like you

9

しおりを挟む
 太陽の光で目が覚めた。

 時計を見ると、朝の七時だ。

 寝ぼけた頭で、昨晩のことを思い出した瞬間、背筋が凍るような気分になった。

 なんてことをしてしまったのだろうか。

 昨晩の会話が鮮明に思いだされる。

 酔っぱらった時の記憶がなくなるタイプの人種であればよかったのだが、不都合なことに萌衣はバッチリ記憶が残るタイプの人種だった。

「な、なんてことをしてしまったの、私……」

 べろべろに酔っぱらって、ジャンに絡んだ挙句、「好きって言って」と何度も懇願してしまった事実は今更消すことができない。

 一体どのような顔で、日本に戻った時にジャンに会えばいいのだろう。

 もし、今魔法が使えるとしたら、萌衣は昨晩のジャンの記憶を取り消してしまいたかった。

 しかし、魔法など使えるはずもなく、ジャンからは「大切な奥様のご要望により、帰国したらたくさん愛して差し上げます」と変なメッセージまで来ている。

 たくさん愛するってなんですか。
 
 せっかくロサンゼルスに来たというのに、ジャンのことで頭がいっぱいになってしまい、ろくに観光をすることもできないまま帰りの飛行機にのることになってしまった。

 慌てたように免税店で前から欲しかったブランドの財布を購入する。

 ジャンから渡されたブラックカードは使っていない。

 海外に行くということで、貯金の中からいくらかお金をおろしてきたのだ。

 外国通貨を日本通貨にわざわざ直すのもめんどくさいので、せっかくの海外だ。

 普段は買わないような買い物をしてもいいと、自分を甘やかしているところである。

 日本で買うよりも値段が落ちるので、お買い得になった気分だ。

 ふと目を下すと、キーケースが目に入る。

「こちらは、男女でお使いいただけますよ」

 ショップ店員さんが、紙袋に商品を入れながら説明してくれた。

 黒革にゴールドの文字が入ったシンプルなデザインと、ベージュの革にシルバーの文字が入ったデザインだ。

 お揃いで買ったら、喜ぶかな。

 頭の中で一緒に使っているシーンを想像して、首を横に振る。

 喜んでいるジャンの姿が想像できない。

 だが、あの家に来て、ジャンがキーケースを使っていなかったことを思い出した。

 昨晩の非礼のお詫びと言えば、受け取ってくれるかもしれない。

「あの、これもください。えっと、一種類ずつ……」

「承知しました。サービスでお名前をお入れすることができますが、いかがいたしましょう?」

「どのくらい時間がかかりますか?」

「そうですね。十五分もあれば」

 萌衣は、スマートフォンで時間を確認する。

 飛行機が出発する時間は、あと二時間後だ。

 十五分なら充分待てる。

「お願いします」

 萌衣は、財布の中からお金を取り出して、キーケース二つ分の値段を支払うのだった。
 
 
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

偽装夫婦

詩織
恋愛
付き合って5年になる彼は後輩に横取りされた。 会社も一緒だし行く気がない。 けど、横取りされたからって会社辞めるってアホすぎません?

Good Bye 〜愛していた人〜

鳴宮鶉子
恋愛
Good Bye 〜愛していた人〜

貧乏大家族の私が御曹司と偽装結婚⁈

玖羽 望月
恋愛
朝木 与織子(あさぎ よりこ) 22歳 大学を卒業し、やっと憧れの都会での生活が始まった!と思いきや、突然降って湧いたお見合い話。 でも、これはただのお見合いではないらしい。 初出はエブリスタ様にて。 また番外編を追加する予定です。 シリーズ作品「恋をするのに理由はいらない」公開中です。 表紙は、「かんたん表紙メーカー」様https://sscard.monokakitools.net/covermaker.htmlで作成しました。

憧れのあなたとの再会は私の運命を変えました~ハッピーウェディングは御曹司との偽装恋愛から始まる~

けいこ
恋愛
15歳のまだ子どもだった私を励まし続けてくれた家庭教師の「千隼先生」。 私は密かに先生に「憧れ」ていた。 でもこれは、恋心じゃなくただの「憧れ」。 そう思って生きてきたのに、10年の月日が過ぎ去って25歳になった私は、再び「千隼先生」に出会ってしまった。 久しぶりに会った先生は、男性なのにとんでもなく美しい顔立ちで、ありえない程の大人の魅力と色気をまとってた。 まるで人気モデルのような文句のつけようもないスタイルで、その姿は周りを魅了して止まない。 しかも、高級ホテルなどを世界展開する日本有数の大企業「晴月グループ」の御曹司だったなんて… ウエディングプランナーとして働く私と、一緒に仕事をしている仲間達との関係、そして、家族の絆… 様々な人間関係の中で進んでいく新しい展開は、毎日何が起こってるのかわからないくらい目まぐるしくて。 『僕達の再会は…本当の奇跡だ。里桜ちゃんとの出会いを僕は大切にしたいと思ってる』 「憧れ」のままの存在だったはずの先生との再会。 気づけば「千隼先生」に偽装恋愛の相手を頼まれて… ねえ、この出会いに何か意味はあるの? 本当に…「奇跡」なの? それとも… 晴月グループ LUNA BLUホテル東京ベイ 経営企画部長 晴月 千隼(はづき ちはや) 30歳 × LUNA BLUホテル東京ベイ ウエディングプランナー 優木 里桜(ゆうき りお) 25歳 うららかな春の到来と共に、今、2人の止まった時間がキラキラと鮮やかに動き出す。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

恋とキスは背伸びして

葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員 成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長 年齢差 9歳 身長差 22㎝ 役職 雲泥の差 この違い、恋愛には大きな壁? そして同期の卓の存在 異性の親友は成立する? 数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの 二人の恋の物語

処理中です...