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Episode01:You should marry with him
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祖母である絹江にお見合いの話を持ってこられるのは、初めてのことではない。
大学を卒業してから、かれこれ五年の月日が経っているが、顔も見ずに断ってしまった見合いの写真の数は既に三十枚を超えていた。
祖母は戦時中に生まれ、家族も家もすべて失った曾祖母に女手一つで育てられた。
朝早くから夜遅くまで働く曾祖母と、ほとんど会うことはなかったという。
二人ようやく食べて行けるだけの貧乏暮らしに、とことんうんざりしていた祖母は、銀座にある女給カフェで御曹司、つまりは萌衣の祖父を苦難の末にゲットした。
天晴と言わんばかりの玉の輿婚を果たした祖母は、女の幸せは結婚で決まると心の底から信じている。
「女盛りは、いつまで続きませんことよ。萌衣さん」
口癖のように語る祖母の言葉は、もはや呪いの域に達している。
何度か、父と母に祖母のお見合い話をやめさせてくれと懇願したことがある。
しかし、二人とも祖母には逆らうことができないらしく、大人しく従うしかないと諦めるように諭された。
「お義母さまがいたから、僕は君のママと出会えたんだ。萌衣もいい人と出会えるかもしれないよ」
「そうよ、萌衣ちゃん。私もお母さまがいなかったら、パパとは出会えてなかったのよ」
母も、祖母の強い意向に従って、製薬会社の御曹司、つまりは父とと政略結婚を果たし、萌衣が生まれたのである。
政略結婚をした両親は、非常に仲が良く幸せそうだ。
だが、今は自由な恋愛結婚が主流の時代だ。自由な恋愛をして、結婚をしたかった。誰かに決められた相手と一緒になるだけでは、人生はつまらない。
その日も祖母から連絡が入り「萌衣さんに今度こそいいお話があるの。断ったら承知しませんから。就業時間を狙って会社に伺うわね」となんとも迷惑な話である。
どこの世界に、脅し文句付きで孫の会社に足を運ぶ祖母がいるのだろうか。
本人に全くもって悪気がないところが、祖母の最も悪いところである。
萌衣に対して愛情を持っているということが分かるからこそ、無下にできないところが非常に痛い。
「本当どうしよう……」
真夏の昼間。
一人で自立する道を進むために、周囲の反対を押し切って無理して入った営業の仕事で、残業をしなかったことなど少ない。
毎日やることも多くて、定時に上がるなど無理に決まっている。
オフィスにいるはずなのに、冷や汗が止まらなくなってしまった。
鞄の中からハンカチを取り出して、萌衣は額から滲む汗を拭きとった。
「どうした?」
作業の手が止まってオロオロしている萌衣が目に入ったのだろう。上司であるジャン・ブラウンが、髪の毛と同じ茶色の眉をひそめて萌衣の方を見ているというよりも睨みつけていた。
大学を卒業してから、かれこれ五年の月日が経っているが、顔も見ずに断ってしまった見合いの写真の数は既に三十枚を超えていた。
祖母は戦時中に生まれ、家族も家もすべて失った曾祖母に女手一つで育てられた。
朝早くから夜遅くまで働く曾祖母と、ほとんど会うことはなかったという。
二人ようやく食べて行けるだけの貧乏暮らしに、とことんうんざりしていた祖母は、銀座にある女給カフェで御曹司、つまりは萌衣の祖父を苦難の末にゲットした。
天晴と言わんばかりの玉の輿婚を果たした祖母は、女の幸せは結婚で決まると心の底から信じている。
「女盛りは、いつまで続きませんことよ。萌衣さん」
口癖のように語る祖母の言葉は、もはや呪いの域に達している。
何度か、父と母に祖母のお見合い話をやめさせてくれと懇願したことがある。
しかし、二人とも祖母には逆らうことができないらしく、大人しく従うしかないと諦めるように諭された。
「お義母さまがいたから、僕は君のママと出会えたんだ。萌衣もいい人と出会えるかもしれないよ」
「そうよ、萌衣ちゃん。私もお母さまがいなかったら、パパとは出会えてなかったのよ」
母も、祖母の強い意向に従って、製薬会社の御曹司、つまりは父とと政略結婚を果たし、萌衣が生まれたのである。
政略結婚をした両親は、非常に仲が良く幸せそうだ。
だが、今は自由な恋愛結婚が主流の時代だ。自由な恋愛をして、結婚をしたかった。誰かに決められた相手と一緒になるだけでは、人生はつまらない。
その日も祖母から連絡が入り「萌衣さんに今度こそいいお話があるの。断ったら承知しませんから。就業時間を狙って会社に伺うわね」となんとも迷惑な話である。
どこの世界に、脅し文句付きで孫の会社に足を運ぶ祖母がいるのだろうか。
本人に全くもって悪気がないところが、祖母の最も悪いところである。
萌衣に対して愛情を持っているということが分かるからこそ、無下にできないところが非常に痛い。
「本当どうしよう……」
真夏の昼間。
一人で自立する道を進むために、周囲の反対を押し切って無理して入った営業の仕事で、残業をしなかったことなど少ない。
毎日やることも多くて、定時に上がるなど無理に決まっている。
オフィスにいるはずなのに、冷や汗が止まらなくなってしまった。
鞄の中からハンカチを取り出して、萌衣は額から滲む汗を拭きとった。
「どうした?」
作業の手が止まってオロオロしている萌衣が目に入ったのだろう。上司であるジャン・ブラウンが、髪の毛と同じ茶色の眉をひそめて萌衣の方を見ているというよりも睨みつけていた。
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