英雄王と鳥籠の中の姫君

坂合奏

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episode09:奴隷か王族か

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 王の部屋の前には、兵士が二人立っていた。

 彼らの気を引いて、部屋の中へ侵入しなければならない。
 ミーナの提案で、シーツの交換だという体裁を装うことになった。

「失礼いたします。シーツの交換に参りました」

「シーツの交換は、この時間ではないはずだ」 

 兵士はシーツを大量に持っているリーリエ達を見て訝しげな表情を浮かべた。
 もう一人の兵士が、手に持っていた剣をするりと抜いて「さっさと持ち場へ戻れ」と脅す。

「ですが、持って来いと頼まれたと指示を受けたのです。もし、何もせず帰ったら、どんな目に合うかあなただったら分かるでしょう?」

 ミーナの迫真の演技に「分かった」と兵士は、しばらく考え込んだ承諾した。

「その代わり部屋に入るのは、二人だ。四人は多い。そしてこの扉は開けておけ。そしてすぐに出て来いよ」

「分かりました。では、リサ。こちらへ」

 リーリエをミーナは呼んだので、リサ事リーリエは彼女の後に続いて部屋へと入った。
 俯いていたので、兵士たちに顔は見えなかった。

 部屋の中に入ると、ひどい匂いがした。

「何この匂い」

 クスリと香と、身体を何日も洗っていないようなひどい匂いだった。

「お父様……」

 リーリエがレオポルド三世のところへ駆け寄ると、レオポルド三世は眠りについていた。
 一瞬死んでいるかと思ったが、かろうじて息をしているようだ。

「ミーナ。どうしよう」

「とりあえず窓を開けましょう。この香のせいだと思います」

 そう言って、ミーナが部屋の窓を開けようとした時だった。

「おい!勝手に窓を開けるな!」 

 兵士が大きな声で怒鳴った時「うるさいわね。何事なの?」と背後から一番聞きなれた、そして、聞きたくない声がリーリエの耳に届いた。


***

 
「モルガナ様!」

「モルガナ王妃!」

 兵士たちが次々に頭を下げる。
 リーリエ達も続いて、モルガナに頭を下げて顔が見えないようにした。

「シーツの交換の時間ではないはずよ。なぜ、この扉を開けているの?」

「申し訳ございません。シーツの交換の時間ではないと言ったのですが、この者たちが頼まれたと言い張りまして……」

 兵士の一人が謝罪の言葉を述べる。

「役立たずはもういいわ。あなたは今日でクビよ、クビ」

「ですが……」

「ノルフはいないの?ノルフ!」

 モルガナは、兵士の言葉を無視して、不機嫌そうな口調でノルフの名前を呼んだ。

「お呼びでしょうか?」

「この者をクビにしたの、新しい兵士を手配して」

「承知しました」
 
 ノルフは、言い訳を続ける兵士たちをあっという間に追い出してしまった。

 モルガナが部屋の中に入って来たことで、部屋の中に緊迫した空気が走る。

「全く。使えない兵士を雇うと困ったものね。ところで、あなた達、誰にシーツを交換しろと言われたの?」

 モルガナがこちらを見たので、リーリエは慌てて顔を見られないように俯いた。

「まあ、言ったらその者がクビになるから、言えないってところね。いいわ。今回は見逃してあげる。今回は新人ということで、特別措置よ」
    
 ミーナが、「モルガナ王妃。ご好意に心より感謝いたします」とリーリエを連れて部屋から出そうとした時だった。

 モルガナは、つかつかと歩きミーナを押しのけ「なんていう訳ないでしょ。リーリエ姫」とリーリエの髪の毛をぐっと掴んだ。

 ミーナがリーリエを守ろうとするが、部屋の中に戻って来たノルフによって動きを封じられてしまう。

「変装が下手ね。こんな使用人の洋服を着たくらいで、長年の付き合いの私たちが見抜けないとでも思ったの?ん?」

 髪の毛を鷲掴みにされて、リーリエは抵抗しようと身をよじる。 

「お父様に何をしたの?」

「見たら分かるでしょう?病気のあなたの父親をゆっくり休ませているんでしょうが」

「嘘よ!リーリエ様。これは、長時間香りを焚いていれば、ゆっくりと毒が蓄積するお香です!」

 ノルフによって動きが封じられているミーナが大きな声で叫んだ。

「分かっているわ。ミーナ」

「おやおや、仲間が出来てよかったじゃないの」

 モルガナは真っ赤に塗った爪を、リーリエの頬につきたてた。

「いたっ……」

「ねえ、リーリエ姫。あなたは第四王妃の娘であり、死んだってことになっているって知っていた?」

「……私は死んでなんかいないし、あなたが殺すようにノルフに命じたんでしょう?」


「まあ、そこまで知っているなんて。ちょっとアダブランカ王国へ行ったくらいで、随分と偉そうになったものね。本当、あなたは昔から私が不快になるようなことしかしないわ」

 モルガナの言葉に昔だったら傷ついていた。
  
 しかし、いつまでも彼女の言葉に傷つき、怯えているだけでは何も変わらない。

「いいえ。不快なのは、こっちの方よ。モルガナ妃……いいえ、元奴隷のエドナ」

 リーリエは、はっきりとした口調で、目の前にいる女に向かって言い放った。

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