英雄王と鳥籠の中の姫君

坂合奏

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episode05:隣国の王 ダットーリオ

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 次の日から、リーリエの部屋は騎士団の護衛をつけるという厳戒態勢が張られた。
 クノリスがマーロとガルベルを筆頭に信用できる者たちをリーリエの前に配置したのだった。

 今日も朝食の時間になってもクノリスとは会えていない。

「おお、嫌だ。あの八重歯犬っころに会うだなんて」

 授業に来たメノーラが、ガルベルと扉の前で言い合いをしたようで、不機嫌そうにやってきた。

「仲良しでなによりよ」

 リーリエが力なくからかうと、リーリエの現状を知っているメノーラの眉毛が八の字に下がった。

「リーリエ様。私は、何があってもリーリエ様の味方をいたしますわ。本来であったら、お茶会の日に私の首は飛んでいたはずですもの。こんな私の夢を笑わずに聞いて下さり、私にチャンスをくれたお方。絶対に裏切りませんわ」

「メノーラ。選んだのは私ではないの。クノリス王よ」

「いいえ。最初に選んだのはクノリス様かもしれませんが、続けると選択肢をされたのは、リーリエ様です。もう少し自信をお持ちくださいませ」

「ありがとう……」

 メノーラの言葉は、リーリエにいくらかの自信を与えた。

 グランドール王国ではそのような言葉をかけてくれる人間などいなかった。

 心内があったかくなるのを感じて、リーリエはこの先どうするか授業を受けながら考えた。

 軽い昼食を取っている間、リーリエはミーナに尋ねた。

「ねえ、ミーナ」

「どうされました?」

「ダットーリオ殿下って何か弱味か何かないのかしら」

「そうですね。そういった背後から蹴るような人間には、容赦しないタイプの人間ですから、真正面からお話された方がいいかと思われますよ」

「ミーナは私が、ダットーリオ殿下とお話した方がいいと思う?」

「ええ。私はそう思います。まだこちらに来て少しの日数ですが、リーリエ様は積極性に欠ける性格ではございますが、自分の周りの人間に威圧的な態度を取ったことはごじざいませんから。私は、リーリエ様がグランドール王国の人間と言えど、信用に値する方と思っております」

「ミーナ……」

「ですが、さすがにクノリス様とのご関係については、じれったいと思っておりますが」

「……ミーナ」

「大変ご無礼を失礼いたしました。で、リーリエ様はぶっちゃけクノリス様のことをどう思っていらっしゃるのですか?」

 あまり悪びれなくミーナが言うので、傍で聞いていたメノーラが驚いたような表情を浮かべてミーナを見ていた。


***


 ダットーリオはアダブランカ王国に来てから暇をしているようで、話をしたいと伝言をするとすぐに返事が戻って来た。

「クノリスには内緒で話をしよう。彼がいると話が進まないからね」

 ダットーリオが書いたのであろう、メモには美しい筆跡で書かかれていた。

 待ち合わせをした場所は、お茶会を開催した庭園の近くにあった温室だった。

 王宮の活けられる花の一部は、この温室で作られているらしい。

 ミーナを連れて行くと、温室で待っていたダットーリオは「君は外で待機してくれないか?」と柔らかい笑みで、しかし、強い口調で言い放った。

 ミーナは一瞬躊躇したが「承知しました」と命令を聞きリーリエに向かって頭を下げた。

「では、リーリエ姫こちらへ」

 手招きされて、リーリエは温室の中へと入る。
 温室の中はダットーリオとリーリエ以外誰もいなかった。

 人払いがされているのだろう。

「君は随分と聞き分けがいいな。グランドール王国の人間は、もう少し頑固な性格の者が多かったように記憶していたが」

 ダットーリオは、近くにあった葉を指先でなぞりながら、リーリエを見た。

「帰国をするつもりはないとお伝えしたいと思ってまいりました」

「なるほど。宣戦布告をしに来たという訳か。面白い。では少し話を聞こうじゃないか」

 顔は笑っているが、少しも面白くなさそうな表情でダットーリオは指先で弄んでいた葉をちぎった。

「私は、あなたが思っているようなグランドール王国の人間ではありません」

 リーリエが言うと、ダットーリオは大きな声で笑い始めた。

「君はぼんくらか?君が、君の奴隷をどう扱っていようと、私には関係のないことなんだよ。君がグランドール王国出身ということと、この国で君の後ろ盾はクノリス王のみ。それが、私が反対する理由だよ」

「それは……」

 確かに、リーリエには後ろ盾は、クノリス王のみだ。

 奴隷の生産以外で生計が立てていけないグランドール王国では、現在アダブランカ王国に資金援助をしてもらっている状況だ。

 しかも、リーリエが花嫁になるということを条件にだ。

 持参金もほとんど持たされていないので、実質リーリエの扱いは一般市民が突然王宮に嫁いだといってもなんの変わりもない状態だ。
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