21 / 57
episode04:舞踏会
1
しおりを挟む舞踏会の準備は着々と進められていた。
昼間に開催されるお茶会は、本来であれば女王になるリーリエが主催を務めるべきなのだが、まだアダブランカ王国に来て日が浅いということもあり、主催はメノーラの母親であるイーデラフト公爵夫人に決定した。
「ひぃっ!お母様が主催!」
決定事項をミーナから聞いたメノーラは、今にも白目を剥いて倒れそうな勢いだ。
しかし、メノーラにおいて仕事に手を抜くという発想はないらしく、貴族の令嬢たちのリストを事細かに作成してきてくれただけでなく、夜の舞踏会に参加する貴族達の詳細までまとめてきてくれた。
「ありがとう。助かります。今から一週間で覚えなくちゃいけないのよね……。覚えられるかしら」
「何かありましたら、お傍でサポートいたします」
ミーナが心強い言葉をくれたので、リーリアは些か安心した。
「ミーナ。私の結婚について反対している貴族たちところに印をつけるのを手伝ってくれない?」
「それはまたどうしてです?」
突然のリーリエの発言に、何かするつもりなのではないかと驚くミーナに「失態を犯したくないから」とリーリエは言った。
しかし、それは建前で、先日の事件について、前王政派の人間に支援している人物が紛れているのではないかと思ったからだ。
ミーナの聞いた話では、奴隷制度が廃止されて商売が成り立たず資金が足りないということだった。
それなのにも関わらず、現王政をてこずらせるほどの状況を整えるには、裏からバックアップしている人間がいるからだろう。
クノリスの狙いももしかしたらそこにあるのかもしれない。
リーリエを楽しませるためだけなら、わざわざ大規模な舞踏会やお茶会を城で開催させなくても、数人呼んで楽しい宴を開けばいいだけだ。
クノリスに尋ねたところで、正直には答えてくれはしないだろう。
リーリエがやるべきことは、反対派の人間達に接触して、怪しいと思われる人物を特定することだった。
***
お茶会は昼過ぎに城の庭を使って開催された。
ターコイズブルーとホワイトのストライプのテントが設置され、これでもかというほど贅沢に白い花が飾られている。
天候も晴れ、涼しい風がゆったりと吹いている。
お茶会をするには、絶好の日だった。
リーリエは、ミーナに若草色のドレスを着せてもらっていた。
胸元がほどよく開いたドレスのレースには、銀色の花の刺繍が施されている。
胸元には、親指の爪ほどの大きさのダイヤモンドが輝いていた。
アダブランカ王国に来た時に、クノリスから大量に送られた贈り物の中に入っていた物の一つだった。
食事もするので、コルセットはあまりきつく締めないようにお願いしたおかげで、お腹周りはあまり苦しくない。
「準備はどうだ?」
正装に着替えてきたクノリスが、ノックをして部屋の中に入って来た。
どうやら、リーリエが準備するのを待ちきれないようだった。
「後少しで完成いたしますので、もう少々お待ちください」
ミーナが、リーリエの結った髪の毛に、シルバーの髪飾りを飾りながらクノリスに言った。
「見違えるほど美しいな、俺の妻になる女性は」
クノリスが嬉々とした表情で、リーリエのことを見た。
当のリーリエは自分の姿よりも、暗記した貴族たちの名前を忘れないように必死だった。
「で、彼女は何をブツブツと呟いているんだ?」
公爵をはじめ、子爵や伯爵の名前をブツブツと呟いているリーリエを見て、クノリスがミーナに尋ねた。
「本日いらっしゃる貴族の方々の名前だと思われます」
「全部覚えたのか?」
「昨夜確認した時には、完璧でございました」
驚いているクノリスに、ミーナは頷いた。
「彼女のためのお茶会や舞踏会だというのに……」
「どうやら、リーリエ様はあまりそう思われていらっしゃらない様子で、結婚の反対派や前王派閥のことを非常に気にしていらっしゃる様子でした」
ミーナが小さな声でクノリスに囁いた。
「……」
クノリスはしばらくじっとリーリエを眺めていたが、ブツブツ呟いている彼女の肩をトントンと叩いた。
呪文化とした人々の名前を唱えることに集中していたリーリエは、クノリスが背後に突然現れたので驚いた。
「来ていたのですか?」
「結構前からな」
「全く気が付きませんでした」
「だろうな。呪文を唱えていたのかと思ったよ。今日は、俺も一緒に同行するので誰かの名前を忘れたとしても問題はない」
まるでリーリエの頭を呼んだかのような発言に、リーリエは驚いた。
しかし、横でミーナが会釈を浮かべていたので、リーリエが色々と心配していたことをクノリスに伝えたのだろう。
「ありがとうございます。助かります。ですが、お茶会の何時間かは、男性方は狩猟に行くのでしょう?」
「ああ、茶ばかり飲んでいられないからな」
「その間に、失礼があっては困りますから」
「なるほど。それは頼もしい。では、一緒にいることができる数時間はぜひご一緒させていただき、サポートさせていただこう」
クノリスは楽しそうな表情を浮かべて、自分の腕を差し出した。
0
お気に入りに追加
338
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
【完結】婚約者が好きなのです
maruko
恋愛
リリーベルの婚約者は誰にでも優しいオーラン・ドートル侯爵令息様。
でもそんな優しい婚約者がたった一人に対してだけ何故か冷たい。
冷たくされてるのはアリー・メーキリー侯爵令嬢。
彼の幼馴染だ。
そんなある日。偶然アリー様がこらえきれない涙を流すのを見てしまった。見つめる先には婚約者の姿。
私はどうすればいいのだろうか。
全34話(番外編含む)
※他サイトにも投稿しております
※1話〜4話までは文字数多めです
注)感想欄は全話読んでから閲覧ください(汗)
美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛
らがまふぃん
恋愛
こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。
*らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。
拝啓 お顔もお名前も存じ上げない婚約者様
オケラ
恋愛
15歳のユアは上流貴族のお嬢様。自然とたわむれるのが大好きな女の子で、毎日山で植物を愛でている。しかし、こうして自由に過ごせるのもあと半年だけ。16歳になると正式に結婚することが決まっている。彼女には生まれた時から婚約者がいるが、まだ一度も会ったことがない。名前も知らないのは幼き日の彼女のわがままが原因で……。半年後に結婚を控える中、彼女は山の中でとある殿方と出会い……。
【完結】王太子と宰相の一人息子は、とある令嬢に恋をする
冬馬亮
恋愛
出会いは、ブライトン公爵邸で行われたガーデンパーティ。それまで婚約者候補の顔合わせのパーティに、一度も顔を出さなかったエレアーナが出席したのが始まりで。
彼女のあまりの美しさに、王太子レオンハルトと宰相の一人息子ケインバッハが声をかけるも、恋愛に興味がないエレアーナの対応はとてもあっさりしていて。
優しくて清廉潔白でちょっと意地悪なところもあるレオンハルトと、真面目で正義感に溢れるロマンチストのケインバッハは、彼女の心を射止めるべく、正々堂々と頑張っていくのだが・・・。
王太子妃の座を狙う政敵が、エレアーナを狙って罠を仕掛ける。
忍びよる魔の手から、エレアーナを無事、守ることは出来るのか?
彼女の心を射止めるのは、レオンハルトか、それともケインバッハか?
お話は、のんびりゆったりペースで進みます。
外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます
刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
女嫌いな辺境伯と歴史狂いの子爵令嬢の、どうしようもなくマイペースな婚姻
野菜ばたけ@既刊5冊📚好評発売中!
恋愛
「友好と借金の形に、辺境伯家に嫁いでくれ」
行き遅れの私・マリーリーフに、突然婚約話が持ち上がった。
相手は女嫌いに社交嫌いな若き辺境伯。子爵令嬢の私にはまたとない好条件ではあるけど、相手の人柄が心配……と普通は思うでしょう。
でも私はそんな事より、嫁げば他に時間を取られて大好きな歴史研究に没頭できない事の方が問題!
それでも互いの領地の友好と借金の形として仕方がなく嫁いだ先で、「家の事には何も手出し・口出しするな」と言われて……。
え、「何もしなくていい」?!
じゃあ私、今まで通り、歴史研究してていいの?!
こうして始まる結婚(ただの同居)生活が、普通なわけはなく……?
どうやらプライベートな時間はずっと剣を振っていたい旦那様と、ずっと歴史に浸っていたい私。
二人が歩み寄る日は、来るのか。
得意分野が文と武でかけ離れている二人だけど、マイペース過ぎるところは、どこか似ている?
意外とお似合いなのかもしれません。笑
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる