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episode02:アダブランカ王国
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しおりを挟むリーリエの教育はだいぶ遅れていたらしく、これから毎日メノーラがリーリエのところへ通うことになった。
「時間はたっぷりありますのよ。うふふふ」とメノーラは、帰宅して行った。
王宮からの御用達とのことで、貴族の令嬢への教育は他の講師に引き継いできたらしい。
「あのおしゃべりは、悪意がない分、厄介ですね」
静まり返った部屋の中で、ミーナが聞こえない程度に呟き、リーリエは思わず吹き出してしまった。
「聞こえていました?」
「バッチリと。だって、とっても静かなんだもの」
リーリエの言葉に、今度はミーナが噴き出した。
「大丈夫なんでしょうか?彼女は」
「大丈夫だと思うわ。ものすごくおしゃべりなこと以外は、とてもしっかりしてそうだったから」
ミーナの質問にリーリエは答えた。
ノックの音がして、クノリスが部屋の中へと入って来た。
手には小さな包み紙を持っている。
ミーナが「私は失礼いたします」と気を使って部屋を出て行った。
「今夜の晩餐は二人で取ることにしたが、問題ないだろうか?」
クノリスの提案に、リーリエは些か安心した。
大臣達との食事は堅苦しく緊張の連続だったからだ。
「もちろんですけど、何か私しくじりましたか?」
「そういう意味ではない。昨日は顔合わせの意味も込めて、一緒に食事をしたが、元々大臣と食事は滅多にしないのだ」
クノリスはそう言うと、リーリエを抱き寄せて、自分の膝の上に乗せた。
「ちょっと……どうしたんですか?」
「自分の妻になる女性を抱きしめることは、不思議なことではないだろう。今日の授業の感想を聞かせてくれ」
「一度降ろしてくださったら、話します」
降ろすつもりはないらしく、クノリスの抱きしめる力が少しばかり強くなった。
「細いな」
小さな声でクノリスが呟いたので「どうせ豊満な身体ではありません」とリーリエは言い返した。
その時だった。
クノリスの手が、リーリエの胸元に忍び込んでいたので、リーリエは慌てて身をひるがえし、クノリスの頬を思い切り叩いた。
「何をするんですか!」
突然のことだったので、心臓がバクバクとなっていた。
「何をって、夫婦になるんだ。当然のたしなみだろう。思っていたよりは、あるな」
叩かれた頬を抑えて、クノリスがリーリエの胸を触った方の手をじっと見つめた。
「まだ結婚の儀式をしていないんですよ!」
「また君のそれか……。どうせやることなんだ。順番なんかどうでもいいじゃないか」
「大事なことです」
自分の胸元を隠して言うリーリエに、クノリスは深いため息をついた。
***
「君はどうやら、まったく俺のことを好きはないようだな」
「結婚は好きとか嫌いとかではなく、王族同士なのですから当然です」
手が緩んだ隙に、リーリエはクノリスから距離を取った。
クノリスは追いかけてこようとはしなかったが「では一つ質問をしたい」と言葉をリーリエにかけた。
その表情は、あまりにも真剣な表情だったので、思わず
リーリエは圧倒されてしまった。
「なんですか?」
しばらくクノリスは口を開かなかった。
沈黙が二人の間に流れた。
「君は、もし俺が王様じゃなかったら、結婚をしたか?」
「王様じゃないですか」
「仮にだ。もし、俺が身分の低い人間だったら」
「そんなの……っつ」
出来ないの、当たり前じゃないですか。
そう言葉を紡ごうとした。
いくら虐待を受けていたとはいえ、リーリエは生粋の王族だ。
階級制度を重視しているグランドール王国では、王族というだけで命を落とさずに済んできたのだ。
王族であるということは、リーリエにとって、生きのびるための最後の砦のようなものだった。
しかし、リーリエはクノリスの傷ついたような表情を見て、何も言えなくなってしまった。
婚姻の儀式を前にして、肉体関係を結ぼうとしてきたクノリスの方が悪いはずなのに、なぜかリーリエは罰の悪いような気持ちになった。
「そんなの……実際に起きてもいないのに、考えられません」
無理矢理に言葉を選んで、リーリエは口にした。
クノリスの顔を見ることはできなかった。
リーリエは自分の気持ちが分からなかったが、とんでもない間違いをクノリスに対してしてしまったことに関してだけは理解することが出来た。
「夕食を取ろう。アンドレアを呼んでくる」
クノリスは、リーリエに触れもせずに部屋を出て行ってしまった。
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