仮想現実の歩き方

白雪富夕

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第1章第4話 仮想現実武闘会

*6*

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湖に着いた時にはもう既に夜になっていた。
ルイスさんは足元に転がっていた人の頭サイズの石を両手で掴んだ。

詩乃
「ちょっ!ちょっと!それはさすがに危ないってば!」

私の言葉を完全無視し、湖に投げ飛ばした。

ルイス
「コラァァァ!!クソ女出てこいやぁぁぁぁ!!!」

某元プロレスラーを彷彿とさせるセリフをドスの効いた声で湖に叫ぶルイスさん。

女神
「こんな大きな石投げたら危ないじゃない!!!
……まあ、見覚えのある顔達ね」

完全にオフモードの女神様が呆れた顔をする。

ルイス
「元に戻しなさいよ!」

女神
「はぁ?何の話よ」

ルイス
「すっとぼけんじゃないわよ!!
アンタがやったのは十中十確定なのよ!!」

女神
「だから何の話だって聞いてんのよ!」

ルイス
「アンタが犯人だって、女の勘がそう言ってるのよ!!」

女神
「アンタ男でしょ!!」

ルイス
「黙らっしゃい!!!」

このままでは埒が明かない。
ルイスさんは怒りMAXで女神様の話が聞こえてないみたいだし……。

詩乃
「2人共一旦落ち着こう!」

私はゆっくりと事情を説明する。

詩乃
「あのね、春一とクロードが釣竿を持ったままおかしくなっちゃったの。
ぼーっとして釣竿抱きかかえて『売らない、大事なんだ』って……。
女神様なら何か知ってるんじゃないかと思ったの」

ルイス
「そんな風に聞いたって口割る訳無いじゃない、どうせ犯人なんだから」

ルイスさんはそう言い放った。
女神様は反論する事無く、青い顔で俯いた。

女神
「2人がそんな事になってるの……?私の道具で……?……ウソ……」

ルイス
「そうよ!アンタの道具のせいでおかしくなったのよ!どうにかしなさいよ!」

責めるルイスさんに女神様は首を激しく横に振った。

女神
「違う!違うわ!私じゃない!」

ルイス
「犯人は決まってみんなそう言うのよ!」

女神
「本当に違うんだってば!私、何も知らないの!!
お願い、信じて!!」

この否定ぶり、女神様は本当に何も知らないんじゃないかって気がしてきた。

詩乃
「ねぇ、ルイスさん。女神様、犯人じゃない気がする」

ルイス
「詩乃ちゃん!ほだされちゃダメよ!」

ルイスさんは何が何でも女神様を犯人にしたいみたいだ。
ここは冷静な私が聞いてみよう。

詩乃
「女神様は本当に何も知らないの?」

女神
「だからそうだって何回も言ってる!」

詩乃
「じゃあさ、心当たりはある?」

女神
「こ、心当たり……?」

一瞬目が泳いだのを私は見逃さなかった。

詩乃
「何か思い当たる事があれば話してほしいの。お願い……!」

女神
「……だって私、何も聞いてない、教えてもくれなかった……。
でもそんな事するはず無いわよ……」

詩乃
「教えてくれなかったって?誰がそんな事するはず無いの!?」

女神様は黙ってしまった。
気持ちが落ち着いたのか、ルイスさんは見兼ねて声を掛ける。

ルイス
「……アタシ、クロードさんが好きなの」

詩乃
「ル、ルイスさん?いきなりどうしたの?」

こんな場所でこんな時に告白なんてしないでよ……!

ルイス
「最初はただの面食い好きの悪い癖が出ちゃっただけだと思ってた。
でも今はハッキリ分かる、アタシ彼が本当に好きなんだって。
……たとえ彼が他の女を好きだったとしても」

俯き気味だった顔を上げ、自虐的に笑う。

ルイス
「分かってる、彼が私みたいな男を好きになるはず無いって事くらい。
でもせめて傍に居たい……強くて優しい彼の傍に居たいのよ」

女神
「……いつかその女と一緒になったとしても、それでも傍に居るの?
そんなの辛いだけじゃない」

寂しそうな顔をする女神様に、ルイスさんは優しく微笑んだ。

ルイス
「彼が幸せならそれで良い、傍に居られない方がよっぽど辛いし苦しい。
でも、もっと辛く苦しいのはアタシと一緒になって不幸になる事よ」

詩乃
「どうしてルイスさんとじゃ不幸になるの?」

ルイス
「男同士で付き合うなんて白い目で見られちゃうじゃないの!
そんな目で見られるのはアタシ1人で良いのよ。
それにこんな想いを打ち明けたら困らせちゃうわよ、きっと……」

彼は真面目で優しい人だから……とルイスさんは悲しく笑った。
好きだから身を引く。
好きだからこそ付き合わない。
全然分からない。
好きなら告白すれば良いじゃん。
人の目なんて気にしなきゃ良いじゃん。
男同士だって好きなら何とかなるでしょ。
こんな風に思うのは、きっと私がまだ本当の恋を知らないからなんだ。
彼が幸せならそれで良い。
きっと半分本当で半分ウソなんだろう。
相手を想う気持ちが自分の気持ちに蓋をするくらい強いんだ。

ルイス
「あのままじゃその女とも上手くいきっこないじゃない……。
助けたいのよ、彼も春一も……だからお願い」

ルイスさんは深々と頭を下げた。
黙って見ていた女神様はふっと息を吐いて呟いた。

女神
「……きっとダーリンよ。
どうしてそんな事をしたのかは分からないけれど。
2人には酷い事をしたと思う」

苦しそうな話す女神様は顔を上げる。

女神
「でもきっと何かやむを得ない事情があったのよ!
そうだとしても許されない事だって分かってる。
でも私は、彼を信じたい……。
身勝手かもしれないけど、彼を許してあげて?」

ルイス
「アタシもアンタの立場なら同じ事言ってたわ。
それで、彼って一体誰なの?」

女神
「彼の名は​────」
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