仮想現実の歩き方

白雪富夕

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第1章第4話 仮想現実武闘会

*4*

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3人で楽しくないという訳じゃないけど、若干の物足りなさを感じる。
屋台でアクセサリーを見ているルイスさん。

ルイス
「ねえねえ、このネックレス詩乃ちゃん似合うんじゃない?」

ジャンヌ
「本当だな!可愛らしくて似合うと思う!」

薄いピンクがかった半透明の小さな石が付いたネックレスを持って、私に見せる。

詩乃
「……へ?あ、か、可愛い!」

2人に見られて、私は慌てて返事をする。

ルイス
「ボーっとしてるけど大丈夫?」

詩乃
「ごめんなさい、なんか2人が心配で……」

ルイス
「元気と体力は無駄に有り余ってそうな2人がダウンしちゃうと余計心配よね」

ルイス
「でも少し寝てれば復活するわよ!今は女3人で楽しみましょ!」

詩乃
「……そうだね、ここで心配しててもしょうがないし、今は楽しむっ!」

ルイスさんに励まされ、その後は洋服を見たり食材を買い足したり、思い切り楽しんだ。
お店で売っていたアイスクリームを食べながら練り歩く。

ジャンヌ
「この街では有名なアイスクリームだ。
他の街からわざわざ食べに来る人もいるみたいだ」

詩乃
「美味しい~!
まさかこんな異世界でアイスクリームが食べられるなんてなぁ~!」

ルイス
「2人には内緒よ?特に春一にはね」

詩乃
「もちろん!知ったら『俺も食べるっ!』って大暴れだよ」

私達は顔を見合わせてケラケラと笑った。

ジャンヌ
「おっと、私は武闘会の準備をそろそろしないと……」

詩乃
「えっ!?もうそんな時間なの!?早い~!」

ジャンヌ
「本当にあっという間だったな……名残惜しいが、もう行かなくては」

ルイス
「楽しい時間って、何でこんなに早いのかしらね……」

ジャンヌ
「ああ、とっても楽しかった!
良い息抜きになったよ、ありがとう!」

ジャンヌさんは頭を下げた。
私達は闘技場へと向かうジャンヌさんを見送った。

詩乃
「今日は勝てると良いなぁ!」

ルイス
「そうね!リフレッシュ出来たみたいだし、きっと大丈夫よ!」

引き続き、ルイスさんと街を練り歩く。
すると、ルイスさんが1軒のお店を指差した。

ルイス
「あら、このお店は不要な物を買い取ってくれるみたいね」

リサイクルショップみたいなお店って事かな?

ルイス
「釣竿、持ってくれば良かったかもね」

詩乃
「あれ本当に売っちゃうの?」

ルイス
「アタシは別にどっちでも良いんだけど、春一は売りたがってたし。
ちょっと入るだけ入ってみようか」

ルイスさんはそう言うとお店の中に入って行く。
私もその後をついて行った。
色んなカテゴリーの物が置かれている。
日用品とか雑貨とか武器になりそうな物まで売られている。
何でも扱うお店なんだなぁと、プラプラと店内を廻る。

ルイス
「し、詩乃ちゃんこっち来て!」

慌てたような声に呼ばれ、私はルイスさんの元へ行った。

詩乃
「大きい声出してどうしたの?」

ルイス
「見てよこれ……!」

指差したその先には金や銀の道具が沢山売られていた。
釣竿や斧、スコップなど湖で貰える物が沢山。

詩乃
「女神様の仕入先はこのお店って事?」

ルイス
「違うわ、貰った人がみんなここに売りに来てるって事。
しかもみんなたった5ゴールドで売られてる……」

詩乃
「相場がよく分かんないけど、前に屋台で見たパンと同じ値段だ!
煌びやかな道具がパンと同価値なんてありえなくない!?」

銀や金ならもっと値が張ってもおかしくないはず。
どうしてこんなに安いの……?

店員
「いらっしゃいませ、何かお探しですか?」


店員さんが私達に話しかけてきた。

詩乃
「この道具シリーズって湖の女神様から貰える物ですよね?
なんでこんな安く売られているんですか!?」

店員
「ここら辺じゃこれを持ってる人なんて大勢居るんです。
だからそんなに珍しい物ではありませんよ。
金だって本物ではなくただの金メッキですから」

女神様……渡し過ぎでしょ……!
出回り過ぎてるから価値が低いって事か。

ルイス
「あの女……やっぱり金メッキじゃないの……!」

店員
「観光しに来たお客様には喜んでもらえるんですけどね!
まあ最近は化け物のせいでめっきり人が来なくなっちゃいましたけど」

ルイス
「その化け物を倒したから貰えた釣竿だったら、もう少し価値が上がったりするのかしら?」

店員
「女神様からお墨付きの署名を貰えれば価値は上がると思いますよ!」

ルイス
「なるほどなるほど~!また後で来ます~!」

ルイスさんはニコニコしながら店を出る。
この人、確実に売る気だ!
夕暮れ時、私達は屋敷に戻った。
ルイスさんはノックして勢いよく客間に入る。

ルイス
「春一!釣竿が中々の値で売れるかもしれないわよ!」

ルイス
「って、何してるのよ……?」

春一は金の釣竿、クロードは銀の釣竿を抱き締めベッドに横たわっていた。
顔は朝見た時よりもゲッソリとしていて顔色も良くない。

春一
「……売る……何を……?」


目も合わせず一点を見つめ春一は聞いてきた。

詩乃
「はぁ?アンタが言ったんでしょ!?釣竿売ろうって!」

春一
「……売らない……売りたくない……」

昨日言ってた事と真逆の事を言い出した。

ルイス
「ほら、クロードさんもそんなの抱えてないでよ」

釣竿を取ろうとするルイスさんに、クロードはよろよろと抵抗する。

クロード
「……やめろ……大事なんだ……」


ルイス
「一体何なのよ……」

ルイスさんは後ずさった。
2人共、どうしちゃったの……?
変わり果てた2人の姿に私は狼狽える。

ルイス
「……詩乃ちゃん、行くわよ!」

ルイスさんが私を見る。
すごく怒っていた。

詩乃
「えっ?ど、どこに?」

ルイス
「決まってるでしょ!?あの女神の所よ!アイツ、絶対何か怪しい!
この釣竿、他のと違う気がする!絶対吐かせてやるわっ!」

そう言うと勢いよく部屋を飛び出た。
私は2人を見る。
虚無を見つめ、心ここに在らずって感じだ。
その腕には辛うじてまだ残ってる力で抱く釣竿があり、夕焼けに反射して赤く光る。
傍に居たい気持ちはある、でも今は私がやれる事をやろう。
きっと時間が掛かる、カーテンを閉めもうすぐやって来る夜に備えた。
心の中で待っててと呟いて、私もルイスさんの後を追った。
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