仮想現実の歩き方

白雪富夕

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第1章第4話 仮想現実武闘会

*3*

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ジャンヌ
「ハッ!ハッ!」

広々としたバルコニーで、1人槍を振るう。
腹が痛み、うずくまる。
急に布を体に掛けられたジャンヌは顔を上げた。

クロード
「こんな所に居たら風邪を引きますよ?」

自身のマントをジャンヌの肩に掛けたクロードが片膝を付き微笑んでいた。

ジャンヌ
「……来なくて良いと言ったはずだ」

ジャンヌは不貞腐れながら、マントを払って床に座った。
クロードもその隣に座り、ジャンヌの肩にマントを掛け直す。

クロード
「申し訳ございません、どうしてもジャンヌ様のご活躍を見たかったのです……」

ジャンヌ
「……情けない姿だったろう」

クロード
「だから来てほしくなかったのですね、見られたくなかったから」

クロード
「一体何があったのです?あのジャンヌ様が連敗中だなんて……」

ジャンヌ
「ここ最近はてんでダメで全くもって勝てん。
練習も何もかも怠ってはいないのに。
……俗に言うスランプってやつだ

ジャンヌは溜息をついた。

クロード
「ずっとエリートでしたもんね、スランプなんて初めての事でしょう」

ジャンヌ
「ああ、前はずっと連勝していたんだ。
まあ今となってはにわかに信じ難いがな」

クロード
「信じますよ、私は。
ジャンヌ様との手合せは1度も勝てた試しがありませんので」

ジャンヌ
「そうだったか?
……懐かしいな、共に聖騎士を目指して頑張っていたな」

クロード
「ええ、こうしてお互い聖騎士になってまた再会出来た事を嬉しく思います」

ジャンヌ
「……お前、そんなに優しく笑う奴だったか?
私の記憶にあるハリントンは堅苦しく冷たく、面白味に欠ける人間だったはずだが」

クロード
「ハハハッ、なかなか酷い印象ですね」

クロード
「弱さを受け入れるようになったのです。
強さばかり求めていた昔の自分ではもうありません」

ジャンヌ
「誰の受け売りだ?」

クロード
「……仲間、ですかね?」

ジャンヌ
「仲間……お前の口からそんな言葉が出るなんて。
随分とそのお仲間に影響を受けているな」

クロード
「我ながら結構信頼しているのかもしれないですね、彼らを」

ジャンヌ
「良い仲間に出会えたようで何よりだ」

クロード
「……ジャンヌ様も私の仲間ですよ」

ジャンヌ
「えっ……?」

クロード
「だから、1人で抱え込まないでくださいね」

クロード
「人を頼るのは甘えじゃない。迷惑だなんて思わない。
ジャンヌ様には私がついていますから」

ジャンヌ
「ハリントン……」

クロード
「もし明日、お時間があれば一緒に街を散策しませんか?」

ジャンヌ
「ご、午前中なら大丈夫だが……何故?」

クロード
「この街の見所は武闘会だけでは無いのでしょう?
それに、たまには息抜きも必要ですよ」

ジャンヌ
「確かにその通りだな、たまには街を楽しむのも悪くは無い」

ジャンヌ
「よし!じゃあ今日はとりあえずお手合わせ願おうか?」

ジャンヌはクロードのマントを取って、立ち上がる。

クロード
「わ、私がジャンヌ様のお相手を!?
務まるでしょうか、1度も勝てた事無いのに……」

ジャンヌ
「昔の話だろう?
それに頼って良いんじゃなかったのか?仲間だろ?」

クロード
「全く、貴女という人は……」

苦笑いをしながら立ち上がる。

クロード
「いやでもやはり、怪我も負っていますしやめた方が……」

ジャンヌ
「痛く苦しい時こそが頑張り時なのだ。
試合中怪我した時の踏ん張りが身に付くだろう?」

クロード
「なるほど、ジャンヌ様のそういう所尊敬致します」

ジャンヌ
「い、いちいち褒めるなよ!ほら、早く剣を抜け!」

クロードは言われた通り剣を抜いた。
槍と剣の交わる音が星空の下で響き合う。

詩乃
「うわぁ、何だかとっても良い雰囲気……!」

春一
「邪魔しちゃダメだぞ、ルイス」

ルイス
「ま、まあ今回は見逃すわ……」

角に隠れてこっそり見ていた3人は、足音を立てず部屋に戻った。



次の日の朝、なかなか朝ご飯を食べに下りて来ない春一とクロード。
2人とは別部屋だった私とルイスさんは起こしに客間へと向かった。
ノックをしてそっと部屋に入る。
2人はベッドに横になっていた。

クロード
「おはよう……」

詩乃
「ちょっと2人共~!もう朝ご飯出来てるよ?
いつまでぐーたら寝てんの?」

春一
「別に好きで寝てる訳じゃねぇよ、なんか体がダルくって重くってよぉ」

ルイス
「あらやだぁ、まさか風邪?」

ルイスさんは2人のおでこに手を当てた。

ルイス
「うーん、特に熱は無さそうだけど……」

その時、ノック音がしてジャンヌさんが入って来た。

ジャンヌ
「どうした?何だか具合が悪そうだな」

詩乃
「体がダルいみたいなんです……」

ジャンヌ
「そうか、旅の疲れでも出たのだろうか……」

クロード
「そのような事で寝込む程ヤワでは無いと信じたいところですが……」

春一
「ジャンヌは今日も武闘会に出んのか?」

ジャンヌ
「一応出場予定ではある。まあ期待は出来ないがな……」

ルイス
「やだ、出る前からそんなんじゃダメよ」

詩乃
「そうですよ!昨日クロードと2人で頑張ってたんだから大丈夫!!」

クロード
「見ていたのか!?」

詩乃
「……あっ!ヤバッ!」

私は咄嗟に手で口を押えたけど、時すでに遅し。

春一
「ホントお前はウソがつけないというかバカというか……」

クロード
「盗み見だなんて趣味が悪いぞ……!」

ジャンヌ
「まあまあ良いじゃないか」

ジャンヌ
「そうだな、昨夜あれだけ練習に付き合ってもらったんだ。
自信を持って臨まねば!
結果報告を楽しみに待っていてくれ」

クロード
「こんな体じゃなければ拝見させて頂きたかったのに……。
街を楽しむという約束も守れなくて申し訳ございません……」

ジャンヌ
「良いんだ、気にせず休め」

ルイス
「そうだわ、アタシ達と一緒に行きましょうよ!」

ルイスさんが私の腕を取り、ジャンヌさんに提案する。

ジャンヌ
「良いのか?私も一緒で……」

ルイス
「もちろん!色んな所、案内してもらいたいし!」

私も頷いた。
ジャンヌさんの気分転換もさせてあげたいもんね。
私達は2人を休ませて、屋敷を出た。
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