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第1章第2話 旅は道連れ、世は仮想現実
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春一と詩乃がクロードの肩から降ろされたのは、宿屋に着いてからだった。
ぼんやりとした行灯によって椿や牡丹が大きく描かれた襖が照らされる。
襖で仕切られた奥の座敷にクロードは布団を敷き、詩乃を寝かせた。
春一はさっさと手足の鎖を解いてやると詩乃から離れ、畳の上に赤い絨毯が敷かれた隣の座敷に行く。
胡座をかきムスッとした顔で膝に頬杖をついた。
クロード
「何を不貞腐れているのだ、担がれたのがそんなに恥ずかしかったのか?」
詩乃にそっと布団を掛けたクロードは鴨居に頭をぶつけないよう腰を屈め、春一の前に胡座をかき、そう声を掛けた。
春一
「そ、それもあるけど……」
少し照れながら頭を搔いたが、また仏頂面へと戻る。
春一
「敵前逃亡したのが1番気に食わねぇ。あんな奴ら、ちゃっちゃと片付けちまった方が良かったろうが」
クロード
「彼女を取り返すのが目的だろう、あの男共を始末する必要は無い」
春一
「それはそうだけどさぁ」
そこで春一は思い出したかのように話を変える。
春一
「つか、何でお前競りに参加してたんだよ」
クロード
「聞き込みをしていたら、今夜あの会場で人身売買が行われると聞いた。もしやと思って一応飛び込みで参加したのだ。
ルイス殿にはその間、別の場所を探してもらっていた。必ず居ると当てがあった訳では無いのでな」
春一
「人身売買の件ってそんなに公にされてるもんなのか?よく情報聞き出せたな」
クロード
「いや、一般には知られていないから、少し危険な奴らから情報を得た」
クロードは苦い顔をする。
クロード
「50番も本当は私では無い。本物の50番が会場に入る前に襲い、成り代わったのだ」
クロードの話に春一は機嫌が良くなり、笑う。
春一
「お前、なかなかやるじゃん!盗賊みてぇだな!」
クロード
「聖騎士団として褒められた行動では無いが、致し方無い」
クロードは元の真顔に戻った。
クロード
「ところで、何故あの場に居たのだ?私は部屋で待てと言ったはずだが」
春一
「ま、まあ良いじゃないの~!みんな無事だったんだからさぁ~!」
今度は誤魔化すようにヘラヘラと笑う。
クロード
「良くない、下手すれば殺られていたかもしれないんだぞ?大体、冒険者とはいえまだ子供だ、無茶すべきでは無い」
あっれれ~?
クロードったら、俺の事子供だと思ってる~?
そういえばクロードに袋の呪術について話していない。
て事は、未だに煙幕投げつけた男と同一人物だとは思っていない訳で……。
春一
「こ、子供でも役に立ちたかったんだよ……!」
もう少しだけネタばらしするのは後にしよっと。
春一はしばらく子供のフリを続ける事にした。
クロード
「ふっ、全く……。根性がある子だな、将来が楽しみだ」
優しく微笑み春一の頭に手を乗せ撫でた。
春一は照れくさそうに俯いた。
頭から手を下ろしたクロードは真剣な顔をする。
クロード
「だが大人の言う事もきちんと聞いてくれ。今回は無事だったが、何かあったらルイス殿に顔向け出来ん」
春一
「ル、ルイス?何でルイスに顔向け出来ねぇんだよ」
クロード
「ん?君達3人は家族なんじゃないのか?」
キョトンとするクロードに春一は顔を赤らめ叫ぶ。
春一
「か、家族っ!?バッ!そ、そんな訳無ぇだろ!赤の他人だっつーの!!」
クロード
「そ、そうか、それはすまない」
春一の否定ぶりに驚きつつも、クロードは柔らかく微笑む。
クロード
「仲が良い雰囲気だったから、つい家族かと」
春一
「仲良くねぇし、そんな事よりアイツの様子、なんかおかしくねぇか?」
春一は即座に話を変え、親指で横になっている詩乃を指した。
クロード
「そうだな、まるで魂が抜かれたかのようだ」
眉間に皺を寄せたクロードが詩乃に目をやる。
クロード
「術でも掛けられたのだろう、あれを何とかしないと旅は再開出来んな」
術か……。
春一は路地裏で見た光景を思い出していた。
あのむせ返るようなお香の匂い。
詩乃の前に置いてあった水晶玉。
あれは一体……。
その時、障子が開きルイスが帰って来た。
ルイス
「ただいま……あら、クロードさん!会場に行ったんじゃないの!?」
落胆気味に肩を下ろし入ってきたルイスだったが、クロードを見ると目を見開き驚いていた。
クロード
「ああ、ちゃんと連れ帰って来たぞ」
クロードは詩乃を見る。
ルイスもその視線を追う。
ルイス
「詩乃ちゃん!!」
ルイスは急いで隣の座敷で眠っている詩乃に駆け寄ると、掛け布団ごと詩乃を抱き締めた。
ルイス
「ああ、ごめんね詩乃ちゃん!でも無事に帰って来て良かったわ!!」
布団に顔をうずめてしくしくと泣くルイスを微笑んで見ていたクロードだったが、春一の何か考え込んでいる様子に気付き声を掛ける。
クロード
「どうした?」
春一
「俺、アイツが連れ去られる所を見たんだ。俺も眠らされちまったから詳しく調べられなかったけど、あの司会の男が詩乃に何かしらしたのは確かだ」
路地裏での会話を思い返すとそう考えられる。
クロード
「そうか、他に何か分かった事はあるか?」
春一
「えーっと確か、あの男闇狐とかって呼ばれてたな」
ルイス
「闇狐!?」
真っ先に反応したルイスが顔を上げ、バタバタと2人に近寄り腰を下ろした。
クロード
「知っているのか?」
ルイス
「知ってるも何も“九龍街の闇狐”と言ったら有名な占い師じゃない!すっごく当たるって専らの噂よ!
しかも優しくってイケメンなのよー!あーん!アタシも占ってほしーいっ!」
両手を胸の前で組み、クネクネと体を揺らす。
春一
「ソイツが人身売買の主犯格なんだけどな」
ルイス
「何それサイテー!絶対許さないっ!」
手を解き、握り拳を震わせるルイスに春一は苦笑いをした。
春一
「変わり身早ぇな、おい」
クロード
「そんな有名な占い師が人身売買とは……世も末だな」
春一
「その占いもなんか胡散臭ぇな。裏の顔を隠す為のハリボテっぽいし」
クロード
「という事は直接占ってもらえば何かしら分かるかもしれんな」
春一
「でも俺達ゃガッツリアイツに顔見られてんだぜ?まともに占ってくれるはず無ぇだろ。
こん中で行ける奴は……」
2人の視線が1点に集まる。
ルイス
「ア、アタシ!?」
ルイスは自分を指差し、大きく目を見開いた。
クロード
「どうか行ってはくれないだろうか?」
ルイス
「えぇ、ちょ、ちょっと怖いわぁ……!」
ルイスは眉をひそめた。
そんなルイスに春一はニヤニヤと笑う。
春一
「あれ~?さっき占ってほしー!とか言ってなかったっけ~?」
ルイス
「そ、それはそんな事してる人だって知らなかったから……!」
春一
「『詩乃ちゃんが居なくなったのはアタシのせいだわ!』とか何とか言ってなかったっけ?
責任取るべきなんじゃねぇのかなぁ~?」
ルイス
「確かに責任は感じてるけど……」
春一
「行ってくれたらクロードがキスしてやるってよ!」
ルイス
「行くわ」
真顔で即答するルイスにクロードが慌てる。
クロード
「おいっ!何勝手に人をダシに使っているのだ!」
春一
「良いじゃねぇか。大人なんだから、たかがキスの1つや2つくらいよぉ」
クロード
「君は大人を何だと思っているんだ……!?」
春一
「アイツはもうやる気満々だけどなー」
部屋の隅に座り、小指でリップクリームを一心不乱に塗りたくるルイス。
クロード
「ルイス殿っ!?そ、それだけは勘弁してください!他の事で手を打ってはくれまいかっ!?」
ぼんやりとした行灯によって椿や牡丹が大きく描かれた襖が照らされる。
襖で仕切られた奥の座敷にクロードは布団を敷き、詩乃を寝かせた。
春一はさっさと手足の鎖を解いてやると詩乃から離れ、畳の上に赤い絨毯が敷かれた隣の座敷に行く。
胡座をかきムスッとした顔で膝に頬杖をついた。
クロード
「何を不貞腐れているのだ、担がれたのがそんなに恥ずかしかったのか?」
詩乃にそっと布団を掛けたクロードは鴨居に頭をぶつけないよう腰を屈め、春一の前に胡座をかき、そう声を掛けた。
春一
「そ、それもあるけど……」
少し照れながら頭を搔いたが、また仏頂面へと戻る。
春一
「敵前逃亡したのが1番気に食わねぇ。あんな奴ら、ちゃっちゃと片付けちまった方が良かったろうが」
クロード
「彼女を取り返すのが目的だろう、あの男共を始末する必要は無い」
春一
「それはそうだけどさぁ」
そこで春一は思い出したかのように話を変える。
春一
「つか、何でお前競りに参加してたんだよ」
クロード
「聞き込みをしていたら、今夜あの会場で人身売買が行われると聞いた。もしやと思って一応飛び込みで参加したのだ。
ルイス殿にはその間、別の場所を探してもらっていた。必ず居ると当てがあった訳では無いのでな」
春一
「人身売買の件ってそんなに公にされてるもんなのか?よく情報聞き出せたな」
クロード
「いや、一般には知られていないから、少し危険な奴らから情報を得た」
クロードは苦い顔をする。
クロード
「50番も本当は私では無い。本物の50番が会場に入る前に襲い、成り代わったのだ」
クロードの話に春一は機嫌が良くなり、笑う。
春一
「お前、なかなかやるじゃん!盗賊みてぇだな!」
クロード
「聖騎士団として褒められた行動では無いが、致し方無い」
クロードは元の真顔に戻った。
クロード
「ところで、何故あの場に居たのだ?私は部屋で待てと言ったはずだが」
春一
「ま、まあ良いじゃないの~!みんな無事だったんだからさぁ~!」
今度は誤魔化すようにヘラヘラと笑う。
クロード
「良くない、下手すれば殺られていたかもしれないんだぞ?大体、冒険者とはいえまだ子供だ、無茶すべきでは無い」
あっれれ~?
クロードったら、俺の事子供だと思ってる~?
そういえばクロードに袋の呪術について話していない。
て事は、未だに煙幕投げつけた男と同一人物だとは思っていない訳で……。
春一
「こ、子供でも役に立ちたかったんだよ……!」
もう少しだけネタばらしするのは後にしよっと。
春一はしばらく子供のフリを続ける事にした。
クロード
「ふっ、全く……。根性がある子だな、将来が楽しみだ」
優しく微笑み春一の頭に手を乗せ撫でた。
春一は照れくさそうに俯いた。
頭から手を下ろしたクロードは真剣な顔をする。
クロード
「だが大人の言う事もきちんと聞いてくれ。今回は無事だったが、何かあったらルイス殿に顔向け出来ん」
春一
「ル、ルイス?何でルイスに顔向け出来ねぇんだよ」
クロード
「ん?君達3人は家族なんじゃないのか?」
キョトンとするクロードに春一は顔を赤らめ叫ぶ。
春一
「か、家族っ!?バッ!そ、そんな訳無ぇだろ!赤の他人だっつーの!!」
クロード
「そ、そうか、それはすまない」
春一の否定ぶりに驚きつつも、クロードは柔らかく微笑む。
クロード
「仲が良い雰囲気だったから、つい家族かと」
春一
「仲良くねぇし、そんな事よりアイツの様子、なんかおかしくねぇか?」
春一は即座に話を変え、親指で横になっている詩乃を指した。
クロード
「そうだな、まるで魂が抜かれたかのようだ」
眉間に皺を寄せたクロードが詩乃に目をやる。
クロード
「術でも掛けられたのだろう、あれを何とかしないと旅は再開出来んな」
術か……。
春一は路地裏で見た光景を思い出していた。
あのむせ返るようなお香の匂い。
詩乃の前に置いてあった水晶玉。
あれは一体……。
その時、障子が開きルイスが帰って来た。
ルイス
「ただいま……あら、クロードさん!会場に行ったんじゃないの!?」
落胆気味に肩を下ろし入ってきたルイスだったが、クロードを見ると目を見開き驚いていた。
クロード
「ああ、ちゃんと連れ帰って来たぞ」
クロードは詩乃を見る。
ルイスもその視線を追う。
ルイス
「詩乃ちゃん!!」
ルイスは急いで隣の座敷で眠っている詩乃に駆け寄ると、掛け布団ごと詩乃を抱き締めた。
ルイス
「ああ、ごめんね詩乃ちゃん!でも無事に帰って来て良かったわ!!」
布団に顔をうずめてしくしくと泣くルイスを微笑んで見ていたクロードだったが、春一の何か考え込んでいる様子に気付き声を掛ける。
クロード
「どうした?」
春一
「俺、アイツが連れ去られる所を見たんだ。俺も眠らされちまったから詳しく調べられなかったけど、あの司会の男が詩乃に何かしらしたのは確かだ」
路地裏での会話を思い返すとそう考えられる。
クロード
「そうか、他に何か分かった事はあるか?」
春一
「えーっと確か、あの男闇狐とかって呼ばれてたな」
ルイス
「闇狐!?」
真っ先に反応したルイスが顔を上げ、バタバタと2人に近寄り腰を下ろした。
クロード
「知っているのか?」
ルイス
「知ってるも何も“九龍街の闇狐”と言ったら有名な占い師じゃない!すっごく当たるって専らの噂よ!
しかも優しくってイケメンなのよー!あーん!アタシも占ってほしーいっ!」
両手を胸の前で組み、クネクネと体を揺らす。
春一
「ソイツが人身売買の主犯格なんだけどな」
ルイス
「何それサイテー!絶対許さないっ!」
手を解き、握り拳を震わせるルイスに春一は苦笑いをした。
春一
「変わり身早ぇな、おい」
クロード
「そんな有名な占い師が人身売買とは……世も末だな」
春一
「その占いもなんか胡散臭ぇな。裏の顔を隠す為のハリボテっぽいし」
クロード
「という事は直接占ってもらえば何かしら分かるかもしれんな」
春一
「でも俺達ゃガッツリアイツに顔見られてんだぜ?まともに占ってくれるはず無ぇだろ。
こん中で行ける奴は……」
2人の視線が1点に集まる。
ルイス
「ア、アタシ!?」
ルイスは自分を指差し、大きく目を見開いた。
クロード
「どうか行ってはくれないだろうか?」
ルイス
「えぇ、ちょ、ちょっと怖いわぁ……!」
ルイスは眉をひそめた。
そんなルイスに春一はニヤニヤと笑う。
春一
「あれ~?さっき占ってほしー!とか言ってなかったっけ~?」
ルイス
「そ、それはそんな事してる人だって知らなかったから……!」
春一
「『詩乃ちゃんが居なくなったのはアタシのせいだわ!』とか何とか言ってなかったっけ?
責任取るべきなんじゃねぇのかなぁ~?」
ルイス
「確かに責任は感じてるけど……」
春一
「行ってくれたらクロードがキスしてやるってよ!」
ルイス
「行くわ」
真顔で即答するルイスにクロードが慌てる。
クロード
「おいっ!何勝手に人をダシに使っているのだ!」
春一
「良いじゃねぇか。大人なんだから、たかがキスの1つや2つくらいよぉ」
クロード
「君は大人を何だと思っているんだ……!?」
春一
「アイツはもうやる気満々だけどなー」
部屋の隅に座り、小指でリップクリームを一心不乱に塗りたくるルイス。
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「ルイス殿っ!?そ、それだけは勘弁してください!他の事で手を打ってはくれまいかっ!?」
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