仮想現実の歩き方

白雪富夕

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第1章第2話 旅は道連れ、世は仮想現実

*2*

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しばらく沈黙する私達。
最初に沈黙を破ったのはルイスさんだった。

ルイス
「……キャア!もうっ!何あれっ!!」

ルイスさんは両手で真っ赤な顔を押さえた。

詩乃
「今のはズルい!今のは反則っ!!」

別に私に言った訳じゃないけど、顔が熱い!
ずっちぃーなぁ!ありゃあ、ずっちーよ!!クロードパイセン!!

春一
「けっ、あんなんで顔赤らめてキャーキャー言うのかよ……!」

トキメキが止まらない私達とは打って変わり、面白くなさそうに不貞腐れる春一。

春一
「飯の感想言っただけで惚れんのか?」

ルイス
「べ、別に惚れちゃいないわよ!」

詩乃
「ルイスさん顔真っ赤にしちゃって~か・わ・い・い~!!」

ルイス
「ちょ、詩乃ちゃんやめてよ~!」

春一
「俺だって飯の感想くらい言えるわ!」

ルイス
「今まで1度だって言われた事無いけど?」

ルイスさんの言葉に、私もうんうんと頷いた。
言われた春一は目の前のパンを1口かじった。

春一
「うっわ~!このパンふわっふわ~!美味しい~!」

ルイス
「そのパン買ってきたやつだけど」

詩乃
「パンの感想言われても、なんか違うんだよね」

春一
「だぁー!うるせぇ!!」

本格的に不貞腐れた春一は、ご飯をムシャムシャと食べ始めた。
そんな様子を見て、私とルイスさんはふふっと顔を見合わせて笑った。
ルイスさんの顔を見て、私は思った。
そうだ、旅に出たらもうルイスさんとはお別れなんだ……。

詩乃
「旅に出たらルイスさんの美味しいご飯、食べられなくなっちゃうんだな……ちょっと寂しいかも」

ルイス
「アタシも詩乃ちゃんの豪快な食べっぷりを見られなくなると思ったら、少し寂しくなっちゃうわ」

あれ、私そんなに食べてたっけ?

詩乃
「少し早いけど、ルイスさんには本当にお世話になりました!
私、この宿に泊まれて、ルイスさんと出会えて嬉しかった。
ありがとうございました!」

ルイス
「アタシも詩乃ちゃんと一緒に過ごせて楽しかったわ!
色々とお手伝いもしてくれてありがとう」

ああ、目頭が熱くなってきちゃった……。

春一
「お前ら何言ってんだ?」

手を止め、首を傾げる春一。

詩乃
「え、だって旅に出たらルイスさんとはもうバイバイな訳でしょ?」

春一
「は?ガッツリ連れてくつもりだったけど?」

詩乃
「へ?そうなの?」

私も驚いたけど、1番驚いていたのはルイスさんだった。

ルイス
「ちょっとちょっと!何それ聞いてないんだけど!?」

春一
「うんだろうな、今初めて言ったし」

ルイス
「そんな勝手に決められても困るんだけど?宿の事だってあるし……」

春一
「開けてたって客来ねぇんだからどの道一緒だろうが」

ルイス
「閉めてたら完全に来ないじゃないの!」

春一
「旅の道中、宿の宣伝でもしてりゃあ良いじゃん」

ルイス
「詩乃ちゃんと離れるのは寂しいけどお断りよ」

来てくれたら嬉しいけど、やっぱりお店も大事だもんね。
ふと、疑問に思った事を春一に聞く。

詩乃
「ルイスさんを連れて行こうと思ったのはどうして?」

春一
「桜舞ヶ丘村に詳しそうだし、箱の紋章にも気付いたし」

あー、なるほどね。
確かに気付いたの、ルイスさんだったもんね。

春一
「あと飯担当」

ルイス
「ほぼそっちがメインの理由じゃないの」

詩乃
「クロードとの取引も、話してた理由とは別の理由がありそうだね……」

私は苦笑いをした。

春一
「大体は話した通りだけど、良い様には言ったかなぁ。
聖騎士団に力を貸したっつーより、俺らに戦闘力が欲しかったってだけ。
ニートと一般人を1人で何とかするってのもなかなか骨折れそうだしよ」

私は戦力外って事!?
……まあそうだけどさぁ。
春一の本音を知ったところで朝食の時間は終わった。



夜になり、晩ご飯を食べていた時クロードが戻って来た。
許可を取り、明日には出発出来るとの事だった。
クロードは懐から出した袋を机にドンと置いた。

クロード
「ルイス殿、昨晩の宿泊代だ」

ルイス
「宿泊代……?」

一瞬キョトンとするルイスさんだったけど、すぐに思い出したようにハッとする。

ルイス
「そうだわ!ここ最近貰わない事が多過ぎて忘れてた!
ありがとね!」

お礼を言って袋を持ち上げたルイスさんの動きが止まった。

ルイス
「ちょ、ちょっと待って!これ明らかに多過ぎるんだけど?」

クロード
「宿泊代とほんの気持ちだ。受け取ってくれ」

微笑むクロード。

ルイス
「何だか逆に申し訳ないわねぇ。だけど有難く頂いちゃう!」

春一
「なあなあ、俺にはお礼無いの~?聖騎士団のお手伝いするんだからさぁ~」

ニヤニヤ笑う春一にクロードは即答する。

クロード
「無い、取引に金の話は無かったはずだ」

春一
「チッ」

何で自分も貰えるとか図々しい事思えるのか、この人……。

クロード
「今晩はシチューか、美味そうな匂いだ」

ルイス
「まだあるから良かったら食べる?」

クロード
「ああ、頂こう」

クロードは私の隣に着いた。
ルイスさんに入れてもらったシチューを1口飲む。

クロード
「あぁ、美味い。身と心に染みるな」

ルイスさんは照れと嬉しさが混じったように微笑んだ。

春一
「ルイスも旅に誘ったんだが来ないんだとー。
だから最後の晩餐って訳だ、ちゃんと味わえー」

朝の事、まだ根に持ってるのか……。

クロード
「そうか……それは残念だな。
旅先でもこの様な物が口に出来たら、疲労回復にも役立ちそうなものだが」

ルイス
「アタシ、お役に立てるのかしら……?」

頬を染めるルイスさん。
あっれー?ルイスさん、なんか心揺れてる?

クロード
「ああ、食事は体を作るのに大事な要素のひとつだ。
それが美味ければ心も豊かにする。
貴方の料理は栄養バランスも味も素晴らしい」

春一
「でも宿は閉められないんだってよー。いやぁー残念残念!」

ルイス
「宿は問題無いわ、クロードさんから沢山お金頂いたから」

詩乃
「え、じゃあ一緒に旅してくれるの!?」

ルイス
「当たり前じゃなぁーい!詩乃ちゃんとも離れたくないしー!」

うーん、嬉しいけど複雑~!

クロード
「ありがとう、助かる。
道中危険な事もあるが、我々がしっかり守るから安心してくれ」

ルイス
「クロードさんに守ってもらえるなら安心~!」

盛り上がるルイスさんに苦笑いしていると、ふと春一と目が合った。
とーっても悪い顔して笑っていた。
あー、なるほどー。
全て計算済みという訳ですか。
掌で転がした訳ですか、そうですか。
春一の策略で私達の旅はこの4人で始まりそうだ。
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