5 / 47
第1章第1話 仮想現実で飯は食えるのか
*5*
しおりを挟む
それから部屋やお風呂の掃除、料理の手伝いなどルイスさんのお手伝いに励んだ。
そして今日は、週に1度の街へのお買い物の日。
私は少し早いけどルイスさんにお給料を貰って、武器も一緒に買う事にした。
街へ出る時は宿の宣伝も兼ねて行くんだそう。
ルイスさんから頼まれた買い物メモと宿のチラシを持って、私と春一は街へ出た。
市場は既に賑わっていて、新鮮な野菜や魚やお肉を求め沢山の人や獣人が居た。
私達もルイスさんから頼まれた物を買っていく。
詩乃
「いやぁ、久々の街はテンション高まりますなぁ!春一氏!」
春一
「今日のお前、なんかウゼェな」
春一の暴言にはもう慣れたもので、華麗にスルーする私。
ふと、居心地の悪さを感じた。
詩乃
「ねぇ、なんかみんな、ジロジロ見てきてない?」
春一
「そらぁ、こんな変なテンションの奴が居たら変な目で見るわな」
詩乃
「え~、そういう事なの?違うと思うんだけど……」
落ち着いて歩いてみても、やっぱり私に向けられる視線は変わらない。
チラチラとこちらを伺うように見ては、コソコソと内緒話。
本当に居心地が悪い。
ふと、掲示板が目に入った。
あ、ここにチラシ貼ろっと!
私は駆け足で掲示板に近寄った。
詩乃
「ウ、ウソでしょ!?」
春一
「突然走り出したかと思えば大声出しやがって……何なんだよ……!」
これ、これ!と私は掲示版を指差した。
WANTED!と書かれた文字の下には、私と春一の似顔絵が描かれていた。
そして、あの和服の女性も。
春一
「おい何だよこれ……!!」
私の後ろから駆け寄ってきた春一も、驚きが隠せない。
春一
「俺こんなブサイクじゃねぇぞ!この絵描いたのどこのどいつだ!?」
詩乃
「そっちかい」
呆れ顔でツッコミを入れたけど、すぐにこの危機的状況を思い出し我に返る。
詩乃
「じゃなくて!何で私達が指名手配されてる訳!?」
私達、何も悪い事なんてしてないのに……!
その時、こっちですという声と共に見覚えのある男が後ろから現れた。
???
「ノコノコと街に出るとは呑気なものだな」
振り返るとこないだの男が、街の人の案内で私達の前に立ちはだかった。
詩乃
「ちょっとこれ、どういう事ですか!?」
春一
「そうか、そういう事か……」
指名手配の紙と突然現れた男に混乱する私を後目に、1人納得する春一。
詩乃
「え、何?」
春一
「こないだは気付かなかったけどこの男、悪い奴なんかじゃねぇ。
王族の犬だ」
詩乃
「王族の、犬……?」
???
「犬呼ばわりとは、我々も舐められたものだな」
眉間に皺を寄せたが、私を見て鼻で笑った。
???
「そちらの小娘は分かっていないようだから、直々に名乗ってやろう」
そして真面目な顔で、大声で名乗る。
???
「私は王族専属聖騎士団第一団長クロード・ハリントンだ!」
王族専属聖騎士団!?
詩乃
「って、何それ?」
クロード
「ここまで私に言わせておいて、まだ分からぬのか……!」
春一
「要は警察的な集団。
クロード・ハリントン、名前だけは聞いた事がある。
アイツは中でも1番偉く腕が立つ男だ」
詩乃
「警察!?
て事はあの女の人は悪い人に追われてたんじゃなくて、悪い事したから警察に追われてたって事!?」
春一
「そ。で、お前はまんまと悪人に利用されたって訳だ」
そんなぁ!
でも嘆いても状況は変わらない。
何とかして誤解を解かないと!
クロード
「盗みだけでなく子供まで誘拐するとは良い度胸しているな、小娘」
子供!?
子供なんてどこに居るのよ!
……あ。
私は隣に立つ春一を見た。
そうか、見た目は子供だからあの時の煙幕男だとは思ってないのか!
詩乃
「違うんです!私、誘拐なんて」
春一
「助けて!団長さん!」
春一は私をドンッと横に突き飛ばすと、駆け足で男の長い脚にしがみついた。
詩乃
「はぁぁぁぁああああ!!??」
突然の裏切りに叫ぶ私をよそに、うるうると目を潤ませて男を見上げる。
春一
「僕、急にあの女の人に連れ去られたんだ!」
何いけしゃあしゃあと言ってんのよ!?
クロード
「怖かったろう、私が来たからにはもう安心だ」
優しく微笑み片膝を付き目線を合わせると、春一の頭に大きな手をポンと置いた。
あんな顔、見た事無い……。
初めて会った時から、しかめっ面な顔や怒った顔しか見た事が無かった。
笑ったとしてもバカにしたような顔とか。
でもあんな優しい顔、出来るんだ。
暫しの間この状況を忘れ、見とれていた。
すると春一はポケットからスプレーを取り出し、クロードの顔を目掛け発射した。
プシューという音と共に白いガスがクロードを襲う。
クロード
「なっ!何をっ!」
顔も目も真っ赤にさせて狼狽えるクロード。
春一
「悪ぃな、おっさん!」
春一はポケットにスプレーをしまうと、私に駆け寄り右手首を掴んだ。
顔を押さえながら私達を探すクロードをチラッと見るも、春一に引っ張られたのでそのまま走った。
クロードから逃げて辿り着いたのは1軒のお店。
春一曰く、1番頼れる武器屋だそうだ。
私達は店内へ入った。
茶色を基調としたアンティーク調の広々とした店内。
武器屋と言う割には、武器らしき物は見当たらない。
店員も居ないし……。
キョロキョロ辺りを見回していると、すぐ後ろから声がした。
???
「ようこそいらっしゃいました」
詩乃
「うぎゃあ!!!」
突然の声に、驚きのあまり変な声を出してしまった。
振り返ると、黒髪で七三分けの何とも物腰柔らかそうな初老の紳士が立っていた。
黒のスーツに胸元には白いポケットチーフ。
鼻の下の整えられた黒ひげがとっても良く似合っている。
彼は常にお辞儀しているかの如く、腰を曲げていた。
???
「申し訳ございません、驚かすつもりは無かったのですが……」
詩乃
「あ、いえ、大丈夫です……」
苦笑いの私。
本当は全然大丈夫じゃないし、まだ心臓バックバクだけど。
春一
「ウソつけ、一見さん驚かす遊びいい加減やめろよなぁ」
???
「私の大事な趣味ですので、こればっかりは……」
俯き気味の男はニヤリと口角を上げた。
???
「それにしても随分と思い切ったイメチェンですねぇ、春一様」
春一
「あはは!可愛いだろ?」
あれ、この人はルイスさんと同様春一だって見抜いてるんだ。
春一
「ああ、紹介するよ。
武器屋シュバリエ・オルグイユの主人アドルフさんだ」
アドルフ
「アドルフでございます、以後お見知りおきを」
常にお辞儀している状態のアドルフさんだけど、更に深くお辞儀した。
詩乃
「あ、東雲詩乃です!よろしくお願いします!」
私も釣られて深々とお辞儀した。
春一
「ま、挨拶はこれくらいにして。
ここに来たって事はどういう事か分かるよな?」
アドルフ
「ええ、承知致しておりますとも」
そう言って私に向き直る。
アドルフ
「詩乃様、貴女様に相応しい武器を只今お持ち致しますので少々お待ちくださいませ」
アドルフさんは一礼すると、カウンターの先の奥の部屋へ向かった。
詩乃様、かぁ……!
様付けで呼ばれる事なんて皆無だから、嬉しいような恥ずかしいような、何だかむず痒い。
春一
「俺の武器もアドルフさんに見繕ってもらったんだ。
マジで世界一の武器商人だから期待すると良い」
自信満々に微笑む。
こんなに楽しそうな春一は珍しい。
本当に信頼してるんだなぁ。
しばらく待っていると、アドルフさんが戻って来た。
アドルフ
「お待たせ致しました。少々悩んでしまいました」
春一
「アドルフさんが迷うなんて珍しいな」
アドルフ
「詩乃様は特殊な方のようでしたので判断に苦しみましたが、キチンとお持ち致しましたよ」
アドルフさんがカウンターに近付いたので、私達もカウンターを挟んで前に立つ。
アドルフ
「こちらが詩乃様にお似合いの武器でございます」
コト、と置かれたのはひとつの小さなケース。
アドルフさんがパカッと蓋を開けると指輪が入っていた。
緑色の細めの指輪で、外側には桜の絵が施されている。
詩乃
「えーっとこの指輪が武器、なんですか?」
アドルフ
「ええ」
詩乃
「これでどうやって戦うんですか?」
アドルフ
「さあ?」
詩乃
「さあ!?さあって分からないんですか!?」
アドルフ
「申し訳ございません。私にもよく分からないのです。
貴女様のようなタイプは初めてでございまして……。
ですが、きっと詩乃様なら上手に扱えると思いますよ」
詩乃
「え~使い方も分からない武器、扱える自信無いんですけど……」
アドルフ
「詩乃様に自信が無くとも、その指輪は詩乃様を選んだ。
指輪は貴女様に使われたいと願っております故、お持ちください」
詩乃
「はあ、指輪がねぇ……」
春一
「ほら、試しに付けてみろよ。
合う武器ならしっくりくるはずだぞ」
春一に促され、指輪を箱から取り出した。
うーん、どの指にしっくりくるかな……。
左手の親指にはめた時、不思議な感覚がした。
まるで最初から付けていたかのような違和感の無さ。
じんわり温かくなる感じが心地良い。
アドルフ
「その指が宜しいようですね、指輪も喜んでおりますよ。
詩乃様の瞳の色とも合っておりますし」
指輪が喜んでいるという表現はよく分からないけど、しっくりきてるのは事実だ。
緑色の目だし。
詩乃
「私、これにします。おいくらですか?」
アドルフ
「ああ、お金は結構です。それ、誰にも合わなくて困っていたのです。どうかお引取りください」
詩乃
「え、良いんですか?ありがとうございます!」
お言葉に甘えて無料で頂いておこう。
助かるなぁ、バカ高い値段言われたらどうしようかとハラハラしてた。
アドルフ
「是非大事に可愛がってあげてくださいね」
詩乃
「はい!」
私はそのまま付けていく事にした。
春一
「ありがとな、これでやっとこ冒険に行けそうだ」
アドルフ
「左様でございますか、素敵な旅になる事を祈っております」
お辞儀するアドルフさんに頭を下げると店を出る。
あ、と春一が止まり振り返る。
春一
「あの煙幕玉と催涙スプレー、マジで役に立った、サンキューな!」
アドルフ
「お役に立てて何よりでございます。
またのご購入お待ちしておりますよ」
あの目くらまし系の道具達は、イタズラ好きの彼から買った物だったのか……。
私達は、満足気にニヤニヤと笑うアドルフさんのお店を後にした。
そして今日は、週に1度の街へのお買い物の日。
私は少し早いけどルイスさんにお給料を貰って、武器も一緒に買う事にした。
街へ出る時は宿の宣伝も兼ねて行くんだそう。
ルイスさんから頼まれた買い物メモと宿のチラシを持って、私と春一は街へ出た。
市場は既に賑わっていて、新鮮な野菜や魚やお肉を求め沢山の人や獣人が居た。
私達もルイスさんから頼まれた物を買っていく。
詩乃
「いやぁ、久々の街はテンション高まりますなぁ!春一氏!」
春一
「今日のお前、なんかウゼェな」
春一の暴言にはもう慣れたもので、華麗にスルーする私。
ふと、居心地の悪さを感じた。
詩乃
「ねぇ、なんかみんな、ジロジロ見てきてない?」
春一
「そらぁ、こんな変なテンションの奴が居たら変な目で見るわな」
詩乃
「え~、そういう事なの?違うと思うんだけど……」
落ち着いて歩いてみても、やっぱり私に向けられる視線は変わらない。
チラチラとこちらを伺うように見ては、コソコソと内緒話。
本当に居心地が悪い。
ふと、掲示板が目に入った。
あ、ここにチラシ貼ろっと!
私は駆け足で掲示板に近寄った。
詩乃
「ウ、ウソでしょ!?」
春一
「突然走り出したかと思えば大声出しやがって……何なんだよ……!」
これ、これ!と私は掲示版を指差した。
WANTED!と書かれた文字の下には、私と春一の似顔絵が描かれていた。
そして、あの和服の女性も。
春一
「おい何だよこれ……!!」
私の後ろから駆け寄ってきた春一も、驚きが隠せない。
春一
「俺こんなブサイクじゃねぇぞ!この絵描いたのどこのどいつだ!?」
詩乃
「そっちかい」
呆れ顔でツッコミを入れたけど、すぐにこの危機的状況を思い出し我に返る。
詩乃
「じゃなくて!何で私達が指名手配されてる訳!?」
私達、何も悪い事なんてしてないのに……!
その時、こっちですという声と共に見覚えのある男が後ろから現れた。
???
「ノコノコと街に出るとは呑気なものだな」
振り返るとこないだの男が、街の人の案内で私達の前に立ちはだかった。
詩乃
「ちょっとこれ、どういう事ですか!?」
春一
「そうか、そういう事か……」
指名手配の紙と突然現れた男に混乱する私を後目に、1人納得する春一。
詩乃
「え、何?」
春一
「こないだは気付かなかったけどこの男、悪い奴なんかじゃねぇ。
王族の犬だ」
詩乃
「王族の、犬……?」
???
「犬呼ばわりとは、我々も舐められたものだな」
眉間に皺を寄せたが、私を見て鼻で笑った。
???
「そちらの小娘は分かっていないようだから、直々に名乗ってやろう」
そして真面目な顔で、大声で名乗る。
???
「私は王族専属聖騎士団第一団長クロード・ハリントンだ!」
王族専属聖騎士団!?
詩乃
「って、何それ?」
クロード
「ここまで私に言わせておいて、まだ分からぬのか……!」
春一
「要は警察的な集団。
クロード・ハリントン、名前だけは聞いた事がある。
アイツは中でも1番偉く腕が立つ男だ」
詩乃
「警察!?
て事はあの女の人は悪い人に追われてたんじゃなくて、悪い事したから警察に追われてたって事!?」
春一
「そ。で、お前はまんまと悪人に利用されたって訳だ」
そんなぁ!
でも嘆いても状況は変わらない。
何とかして誤解を解かないと!
クロード
「盗みだけでなく子供まで誘拐するとは良い度胸しているな、小娘」
子供!?
子供なんてどこに居るのよ!
……あ。
私は隣に立つ春一を見た。
そうか、見た目は子供だからあの時の煙幕男だとは思ってないのか!
詩乃
「違うんです!私、誘拐なんて」
春一
「助けて!団長さん!」
春一は私をドンッと横に突き飛ばすと、駆け足で男の長い脚にしがみついた。
詩乃
「はぁぁぁぁああああ!!??」
突然の裏切りに叫ぶ私をよそに、うるうると目を潤ませて男を見上げる。
春一
「僕、急にあの女の人に連れ去られたんだ!」
何いけしゃあしゃあと言ってんのよ!?
クロード
「怖かったろう、私が来たからにはもう安心だ」
優しく微笑み片膝を付き目線を合わせると、春一の頭に大きな手をポンと置いた。
あんな顔、見た事無い……。
初めて会った時から、しかめっ面な顔や怒った顔しか見た事が無かった。
笑ったとしてもバカにしたような顔とか。
でもあんな優しい顔、出来るんだ。
暫しの間この状況を忘れ、見とれていた。
すると春一はポケットからスプレーを取り出し、クロードの顔を目掛け発射した。
プシューという音と共に白いガスがクロードを襲う。
クロード
「なっ!何をっ!」
顔も目も真っ赤にさせて狼狽えるクロード。
春一
「悪ぃな、おっさん!」
春一はポケットにスプレーをしまうと、私に駆け寄り右手首を掴んだ。
顔を押さえながら私達を探すクロードをチラッと見るも、春一に引っ張られたのでそのまま走った。
クロードから逃げて辿り着いたのは1軒のお店。
春一曰く、1番頼れる武器屋だそうだ。
私達は店内へ入った。
茶色を基調としたアンティーク調の広々とした店内。
武器屋と言う割には、武器らしき物は見当たらない。
店員も居ないし……。
キョロキョロ辺りを見回していると、すぐ後ろから声がした。
???
「ようこそいらっしゃいました」
詩乃
「うぎゃあ!!!」
突然の声に、驚きのあまり変な声を出してしまった。
振り返ると、黒髪で七三分けの何とも物腰柔らかそうな初老の紳士が立っていた。
黒のスーツに胸元には白いポケットチーフ。
鼻の下の整えられた黒ひげがとっても良く似合っている。
彼は常にお辞儀しているかの如く、腰を曲げていた。
???
「申し訳ございません、驚かすつもりは無かったのですが……」
詩乃
「あ、いえ、大丈夫です……」
苦笑いの私。
本当は全然大丈夫じゃないし、まだ心臓バックバクだけど。
春一
「ウソつけ、一見さん驚かす遊びいい加減やめろよなぁ」
???
「私の大事な趣味ですので、こればっかりは……」
俯き気味の男はニヤリと口角を上げた。
???
「それにしても随分と思い切ったイメチェンですねぇ、春一様」
春一
「あはは!可愛いだろ?」
あれ、この人はルイスさんと同様春一だって見抜いてるんだ。
春一
「ああ、紹介するよ。
武器屋シュバリエ・オルグイユの主人アドルフさんだ」
アドルフ
「アドルフでございます、以後お見知りおきを」
常にお辞儀している状態のアドルフさんだけど、更に深くお辞儀した。
詩乃
「あ、東雲詩乃です!よろしくお願いします!」
私も釣られて深々とお辞儀した。
春一
「ま、挨拶はこれくらいにして。
ここに来たって事はどういう事か分かるよな?」
アドルフ
「ええ、承知致しておりますとも」
そう言って私に向き直る。
アドルフ
「詩乃様、貴女様に相応しい武器を只今お持ち致しますので少々お待ちくださいませ」
アドルフさんは一礼すると、カウンターの先の奥の部屋へ向かった。
詩乃様、かぁ……!
様付けで呼ばれる事なんて皆無だから、嬉しいような恥ずかしいような、何だかむず痒い。
春一
「俺の武器もアドルフさんに見繕ってもらったんだ。
マジで世界一の武器商人だから期待すると良い」
自信満々に微笑む。
こんなに楽しそうな春一は珍しい。
本当に信頼してるんだなぁ。
しばらく待っていると、アドルフさんが戻って来た。
アドルフ
「お待たせ致しました。少々悩んでしまいました」
春一
「アドルフさんが迷うなんて珍しいな」
アドルフ
「詩乃様は特殊な方のようでしたので判断に苦しみましたが、キチンとお持ち致しましたよ」
アドルフさんがカウンターに近付いたので、私達もカウンターを挟んで前に立つ。
アドルフ
「こちらが詩乃様にお似合いの武器でございます」
コト、と置かれたのはひとつの小さなケース。
アドルフさんがパカッと蓋を開けると指輪が入っていた。
緑色の細めの指輪で、外側には桜の絵が施されている。
詩乃
「えーっとこの指輪が武器、なんですか?」
アドルフ
「ええ」
詩乃
「これでどうやって戦うんですか?」
アドルフ
「さあ?」
詩乃
「さあ!?さあって分からないんですか!?」
アドルフ
「申し訳ございません。私にもよく分からないのです。
貴女様のようなタイプは初めてでございまして……。
ですが、きっと詩乃様なら上手に扱えると思いますよ」
詩乃
「え~使い方も分からない武器、扱える自信無いんですけど……」
アドルフ
「詩乃様に自信が無くとも、その指輪は詩乃様を選んだ。
指輪は貴女様に使われたいと願っております故、お持ちください」
詩乃
「はあ、指輪がねぇ……」
春一
「ほら、試しに付けてみろよ。
合う武器ならしっくりくるはずだぞ」
春一に促され、指輪を箱から取り出した。
うーん、どの指にしっくりくるかな……。
左手の親指にはめた時、不思議な感覚がした。
まるで最初から付けていたかのような違和感の無さ。
じんわり温かくなる感じが心地良い。
アドルフ
「その指が宜しいようですね、指輪も喜んでおりますよ。
詩乃様の瞳の色とも合っておりますし」
指輪が喜んでいるという表現はよく分からないけど、しっくりきてるのは事実だ。
緑色の目だし。
詩乃
「私、これにします。おいくらですか?」
アドルフ
「ああ、お金は結構です。それ、誰にも合わなくて困っていたのです。どうかお引取りください」
詩乃
「え、良いんですか?ありがとうございます!」
お言葉に甘えて無料で頂いておこう。
助かるなぁ、バカ高い値段言われたらどうしようかとハラハラしてた。
アドルフ
「是非大事に可愛がってあげてくださいね」
詩乃
「はい!」
私はそのまま付けていく事にした。
春一
「ありがとな、これでやっとこ冒険に行けそうだ」
アドルフ
「左様でございますか、素敵な旅になる事を祈っております」
お辞儀するアドルフさんに頭を下げると店を出る。
あ、と春一が止まり振り返る。
春一
「あの煙幕玉と催涙スプレー、マジで役に立った、サンキューな!」
アドルフ
「お役に立てて何よりでございます。
またのご購入お待ちしておりますよ」
あの目くらまし系の道具達は、イタズラ好きの彼から買った物だったのか……。
私達は、満足気にニヤニヤと笑うアドルフさんのお店を後にした。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?

すべてを奪われた英雄は、
さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。
隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。
それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。
すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。
【完結】マギアアームド・ファンタジア
こすもすさんど(元:ムメイザクラ)
ファンタジー
ハイファンタジーの広大な世界を、魔法装具『マギアアームド』で自由自在に駆け巡る、世界的アクションVRゲーム『マギアアームド・ファンタジア』。
高校に入学し、ゲーム解禁を許された織原徹矢は、中学時代からの友人の水城菜々花と共に、マギアアームド・ファンタジアの世界へと冒険する。
待ち受けるは圧倒的な自然、強大なエネミー、予期せぬハーレム、そして――この世界に花咲く、小さな奇跡。
王道を以て王道を征す、近未来風VRMMOファンタジー、ここに開幕!

超文明日本
点P
ファンタジー
2030年の日本は、憲法改正により国防軍を保有していた。海軍は艦名を漢字表記に変更し、正規空母、原子力潜水艦を保有した。空軍はステルス爆撃機を保有。さらにアメリカからの要求で核兵器も保有していた。世界で1、2を争うほどの軍事力を有する。
そんな日本はある日、列島全域が突如として謎の光に包まれる。光が消えると他国と連絡が取れなくなっていた。
異世界転移ネタなんて何番煎じかわかりませんがとりあえず書きます。この話はフィクションです。実在の人物、団体、地名等とは一切関係ありません。

伯爵夫人のお気に入り
つくも茄子
ファンタジー
プライド伯爵令嬢、ユースティティアは僅か二歳で大病を患い入院を余儀なくされた。悲しみにくれる伯爵夫人は、遠縁の少女を娘代わりに可愛がっていた。
数年後、全快した娘が屋敷に戻ってきた時。
喜ぶ伯爵夫人。
伯爵夫人を慕う少女。
静観する伯爵。
三者三様の想いが交差する。
歪な家族の形。
「この家族ごっこはいつまで続けるおつもりですか?お父様」
「お人形遊びはいい加減卒業なさってください、お母様」
「家族?いいえ、貴方は他所の子です」
ユースティティアは、そんな家族の形に呆れていた。
「可愛いあの子は、伯爵夫人のお気に入り」から「伯爵夫人のお気に入り」にタイトルを変更します。
没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます
六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。
彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。
優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。
それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。
その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。
しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる