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1.アイリーン

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「あ~、今日も疲れた~」

 そう言って俺の隣にぐでーっとだらしなく座っているのは、幼馴染のアイリーンだ。
 手入れの行き届いた綺麗な赤髪に、透明感のある真っ白な柔肌、そして聞いているだけで幸せになれる心地いい声。
 細身にも関わらずしっかりと実った胸が、今にも俺に触れてしまいそうなくらいの距離にあってドキドキする。
 どんな男でも虜にしてしまう超絶完璧美少女。それがアイリーンだ。

 うん。俺の幼馴染は今日も可愛い。

 そしてアイリーンは強い。桁外れに。
 幼い頃から学院で剣の才能を認められ、将来は凄腕の剣士になるだろうと期待されていた。
 二十歳になる今では世界トップクラスのギルド『月の騎士団』に所属し、その名を世界に轟かせている。アイリーンが、現在世界に四人しかいない剣聖になる日も近いだろうとの噂もあった。

 天は二物を与えずという言葉がある。
 あの言葉は全くの嘘だ。
 アイリーンを見ればわかる。
 アイリーンは可愛いし、強い。性格だって良い。ずっと一緒に育ってきたからわかるがアイリーンはとても優しい。ギルドに入って魔物と戦っているのも人々の笑顔を守るためだけにやっている。

 そんなアイリーンを幼馴染に持てて俺は幸せ者だと思う。

 アイリーンとは家が隣同士だった。
 俺は十歳の時に両親を亡くしている。両親の遺産のおかげで生きていくことはできたが、よくアイリーンの家にお邪魔してご飯をご馳走になったり、アイリーンがうちへ来て遊んでくれたり剣を教えてくれたりと色々お世話になっている。
 今日もいつものようにアイリーンがクエスト帰りにうちへ寄ってきてたわいもない会話をする。

「お疲れ様。今日はどんな魔物を倒してきたんだ?」
「今日はねー、『月の騎士団』総出でドラゴン退治」
「ドラゴンって……、まじか……」

 ドラゴンといえば町一つ滅ぼす力を持つという、Sランクの魔物だぞ……。
 さすがアイリーン。
 特に怪我もせずにとんでもない偉業を成してきたようだ。

「うん。本当疲れた~。今日はぐっすり寝られそう」

 ただ疲れはかなりきているようで、本当にしんどそうだった。
 アイリーンは自分の肩を抑えながら首を回して、ほぐしている。

「大丈夫か? あんま無理すんなよ」
「だいじょぶだいじょぶ~。今は疲れてるけど、寝て起きたら全快だから!」
「アイリーンはそれでマジで全快するからなぁ……。ま、それならいいけど」
「ハルトは今日はどんな魔物を倒したの?」
「俺か? 俺はゴブリンを倒したぞ」
「おお! Eランクの魔物じゃん! やったね!」

 アイリーンはパッと笑顔になり、俺のことを褒めてくれた。

 俺も一応冒険者をしている。

 ただ死ぬほど弱い。まじで弱い。クソ雑魚だ。
 生まれつき魔法の才能が一切なかった。色々な属性の初級魔法に挑戦したのだが、どの属性も成功しなかった。
 ならば剣を極めようと、アイリーンに剣を習ったのだが、剣の方も全くダメだった。素振りをしようとしただけで何度も手から剣がすっぽ抜けて、アイリーンに「剣はやめといた方がいいかもね……」と苦笑いされたほどだ。
 しかしそれでもなんとか剣を練習し続けて今日やっとゴブリンを倒すことに成功したのだ。

「だろ? そのうち剣聖にでもなってみせるさ」
「あはは、それは調子に乗りすぎ」

 と冷静にアイリーンにつっこまれる。。

「じゃ、疲れたしそろそろ帰って寝るね」
「ああ、ゆっくり休めよ」
「ほーい」

 アイリーンは手をひらひらと振ってうちを出ていった。

 いいなぁ。いつか、アイリーンみたいにギルドに入って仲間と一緒に戦いたいなぁ。
 アイリーンを見ていると時々羨ましくなることがある。
 あれほどの才能に恵まれた人生は一体どれだけ楽しいのだろうか。

 仲間と笑い合い、ともに苦難を乗り越え、人々のために戦う。
 ギルドに入って、そんなありふれた生活を送ることが、実は俺のひそかな夢だったりする。
 まあ剣も魔法も使えない俺を入れてくれるギルドなんてどこにもないんですけど。

「アイリーン……」

 俺は胸にかけてあるペンダントにそっと触れた。
 これは幼い頃アイリーンがくれた大切なペンダントだ。
 アイリーンの髪と同じ真っ赤な色の宝石がついている。

 俺はアイリーンのことが好きだ。
 どうしようもないくらい好きだ。

 初めて出会ったその瞬間、恋に落ちた。
 あの美貌に、あの剣の実力に、そしてすべてを包み込むようなあの優しさに。
 恋に落ちずにはいられなかった。

 アイリーンと一緒に過ごす時間が重なるごとに、アイリーンのことをもっと好きになっていく。

 明日、俺は誕生日を迎えて、二十歳になる。

 二十歳といえばもう立派な大人だ。
 節目の歳ともいえる。

 だから俺は明日アイリーンに告白しようと思う。

 ずっと胸に秘めていたこの気持ちをアイリーンに伝えるのだ。
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