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Chapter1

12 チョココロニー

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「うぼぇええええ」

 転送魔法、下降するエレベーターの中で逆さまになって駒みたいにぐるんぐるん高速回転するみたいな感じ。つまり気持ち悪くて酔った。

「ニーナ、お気を確かに……!」

 地面に膝をつく俺の背中をリュカがさすってくれる。

「魔法陣で移動すんの、結構しんどいよな」

 そう言いはするけど、ハオシェンはけろりとした顔をしている。お前らの三半規管はオリハルコンでできてんの?

 到着したのは山の中だった。深呼吸したら空気がおいしい感じがして、気持ち悪いのも少しずつやわらいできた。
 リュカの手を借りつつよろよろと立ち上がる。木々の合間から、裾野に畑が広がっているのが見えた。いい景色。ここからは見えないけど、近くに村があるんだろうな。

 目的を忘れてほのぼのしてたら、周囲を探索していたアルシュが戻ってきた。無言で山の奥を指差す。示された方向を目で追うと、石造りの何かが見えた。
 垂直に切り立った崖に作られた大きな門。扉は外側に開け放たれている。
 これがダンジョンの入り口のようだった。昨日は全然周りを見る余裕がなかったけど、リュカの愛馬エクレールに乗ってここから脱出したんだよな。

「よーし、じゃあ行ってみよっか」

 俺がそう言うと、みんなそれぞれ気合の入った返事をしてくれた。
 モンスターは怖いけど、仲間が三人もいるんだから大丈夫! 冒険すんの楽しみ!

 二車線の道路ぐらいの幅と高さがある洞窟を、リュカを先頭にして進む。
 緩やかな坂をどんどん下っていく。壁に松明みたいなのが等間隔に設置されていて、俺たちが進むと反応して火がつく。なにこれ魔法?

 俺の体感で一キロ以上は進んだと思う。これ帰りは上り坂なん? 結構きっついな……と思いながら歩いていたら奥が明るくなってきて、やがて開けた場所に出た。

「おおー、水道橋だ!」

 街並みはどっからどう見ても水道橋に見えるのだけれど、昨日よりも濃い霧が立ち込めていて、異様な雰囲気が増している。
 洞窟の出口付近には光る苔がびっしりと生えていて、これがダンジョン内の壁一面に続いているのだろう。そのおかげで曇りの日ぐらいには明るい。

「ここが、俺の元いた世界……のはずなんだけど……」

 なぜ水道橋がトリファンの世界の地下にめり込んでるのか。意味がわからんけど、とりあえず調べてみよう。

 相変わらず人の気配はない。霧のせいで視界もあんまり良くない。でもそれ以外は普通に水道橋なんだよな。これ白山通りでしょ。向かって右手に遊園地とドームがあって。あのでっかい建物はホテルで。一つ目のゴリラがいて。マシュロマがいて。違う。水道橋にモンスターはいない。

 ポケットに入っていたスマホから、戦闘開始の時の効果音が響く。

「うわぁああ!?」

 ――俺が敵を認識して叫ぶ間に、全てが終わった。

 風が巻き起こって、気がついたらハオシェンの背中を見ていた。

「よう、大丈夫?」

 ハオシェンが俺を振り返る。周囲を見ると、俺の後ろにいたはずのリュカは既に一つ目ゴリラを倒していた。地面に倒れているマシュロマたちには眉間の辺りに深々とナイフが刺さっている。アルシュが放った投げナイフで一掃されたらしい。

「すっっっげえ! 超つええええ!!!!」
「お褒めに預かり光栄です」

 リュカが右手を胸に添えて、まばゆいばかりに微笑む。イケメンスマイルも攻撃力高い。まぶしっ。目ぇ痛っ。

「次は俺が倒すかんな」

 俺をガードする役目だったらしいハオシェンはちょっとだけすねたみたいな口調でリュカに言った。いつの間にか三人の間で役割分担が決まってたのか。なんつー頼もしさよ。

「よーし俺も! 俺は……戦うのはちょっとアレだから……でも水道橋には詳しいから!」

 完全に俺の都合でみんなを付き合わせてるわけだけど、ちょっとした観光的な感じで道案内ぐらいなら出来る。

「あっ、コンビニだ」

 とりあえずコンビニに行ってみよう。

 自動ドアを無理矢理こじ開ける。中は電気が通ってないけど、荒れた感じは全然しなかった。

 人のいない、薄暗い店内に、ちょっとテンションが上がる。ゾンビ映画とかで廃墟になった街を探索するのって楽しそうだな~って思ってたんだよな。ゾンビには遭遇したくないけど。

「なんか色々トリファンの世界の物とは違くて面白くない?」
「はい、興味深いですね」

 リュカはそう答えたけど、商品の方を気にする様子もなく俺ばかり見ている。ハオシェンは真っ先に棚の影を見て回り、バックヤードに入っていった。興味があるとかじゃなくて、モンスターが隠れてないか確認してる感じだ。アルシュは店内にすら入らず外を警戒している。

 もしかしてみなさん、あまり興味がない感じで? まあトリファンの世界にある物の方が魔法がブワーってなるし……俺の世界の物は特に面白くもないか……。

 ちょっぴり寂しさを覚えつつ、棚のものを見て回る。いつも買ってる週間漫画雑誌は今週の最新号だ。カウンターにあるおでんは……カラッカラに干からびている。その他のホットスナックもケースの中で消し炭みたいになっている。雑誌や日用品は普通に見えたけど、食べ物系はもしかして軒並み劣化しているのだろうか。

 ――ってことは、チョココロニーもダメになってんのかな。

 俺の大好物のチョコレート菓子。俺はゲームで名前をつける時、考えるのがめんどいからいつも適当に「チョココロニー」にしていた。その結果「チョココロニー神」を崇める愉快な教団が爆誕してしまったわけで……まさかこんなことになるとは……。

 駄菓子が集められている棚を覗くと、一番下にチョココロニーの箱が置いてあった。ひとつ三十円のお手軽さでキッズに大人気。細菌のコロニーをイメージしてて、うねうねした部分を組み合わせて合体させることができる。いつかチョココロニーで巨大なコロニーを形成するのが俺のささやかな夢だ。

 食べ物系は劣化してるっぽいけど……ワンチャンいけるかもしれん。
 包装を破って、中身をつまんで取り出してみる。指先に妙にべとついた感触がするけど、見た感じは特に変わりない。よしいける! ぱくりと口に放り込む。

「んおえええええええ! まずぅうううううううい!」

 くっそまず! 泥! 油粘土! 食物とみなされない系の! 無機物!

「ニーナ! 吐き出して!! ぺってしてください!!!!」

 リュカはすばやく駆け寄り、床に這いつくばった俺の背中をぽんぽんと叩いてくれた。俺は赤ちゃんかよ。

「どうした!」

 俺の絶叫を聞きつけて、外にいたアルシュが駆け込んでくる。ハオシェンも血相を変えてバックヤードから戻ってきた。

「い、いや……だいじょうぶっス……うぉえ……」

 とりあえず水……ペットボトルの水も劣化してんのかな……ウェエエン……口の中が地獄……。
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