氷の貴婦人

文字の大きさ
上 下
29 / 56
第二章 キースの寄宿学校生活

幼馴染同士の会話1

しおりを挟む
 まずは三人で乾杯した。
 一口飲んですぐにローラがパッと顔を上げた。

「美味しいわね。さすが幻と言われるだけある。どうやって手に入れたの」

 自慢そうな表情を隠しもせず、グレッグは言い放つ。
「秘密だよ」

 ローラ妃がサイラスと婚約した当時からの付き合いなので、彼女も幼馴染枠だ。

「それで、どんな話なの?」

「先にソフィのことを話そうか。
 彼女に家にキースが忍び込んだのは知ってるか?」

「うん。キースから聞いたよ。行動力あるね」

「その後、ソフィがランス家に来て、キースとの交流を勧めてきたんだ。もう自分は大丈夫だと。それで今日の昼の部でも子供と夫をキースに接触させた。
 自分は前に出ないつもりのようだけど、笑いかけていたよ。すごい破壊力で、キースの学友たちが巻き込まれた」

「そこは聞いたよ。夜会でも話題になっていたからね。氷の貴婦人に血が通ったって」

 あはは、と一緒に笑った。

「今までだって幸せそうに見えたけど、あんなにイキイキした様子は初めて……いや、久しぶりなんだ」

「そうか」

「キースの行動で、色々なことが動き始めたよ。
 それに、もう彼が学園に入学する年になったんだ。早いなあ」

「そうだな。ずいぶん経ったよな、あれから」

「心配してた学園での居場所も、見事に掴みとってくれた。キースに感謝だよ。
 ところで、ジョン王子って、行動がサイラスそっくりだな。入学式でいきなりキースに飛びついたって」

「やめてくれ。私達だって、あの時はびっくりしたんだ。
 アトレーにそっくりな彼を見て驚いているうちに、もうジョンはキースの袖を引っ張っていた」

 幻の酒を注ぎ足してくれながら、ローラが言う。

「まるで、あの頃のアトレーとサイラスを見ているみたいだったわ。キースは、あからさまに迷惑そうだったけど、ジョンは引く気がなかったわね。
 あの子、押しと執着心が強いの」

 目に見えるようだ。思わず、クフフと笑ってしまった。

「知ってる。今日もすごかったよ。僕は親友だって言い張って、他の友人達を追い払うんだ。
 それをキースが理解不能、ふざけてるのかなって感じで軽~く捉えていて」

「え、そんなことしているのか?
 周囲が困ってないか?」

「それが、そうでもないんだ。みんな慣れた感じで追っ払われていたよ」

 あはは、とまた笑い、でもローラは、後で締めとくわ、と怖いことを付け加えた。

「ここまではいいんだ。
 ソフィとキースは大丈夫なんだよ。
 問題は、アトレーとその家族だよ」

 ローラが、せっかくの良い酒は、いい話で飲もうと提案した。
 ローラ、やっぱり君は賢い。

 それで話はリデルのことに移った。

「どうもリデルがキースを気に入っているみたいなの。今日も大騒ぎして出かけたのよ。
 まだ、六歳の子供なのに、もっときれいにしないと、キースが他の女の子の所に行っちゃうって、うるさいこと!」

 昼間に見た光景だ。あれは傑作だった。

「リデル王女は、モートン家の子供たちがキースに挨拶している所に乗り込んできて、モートンの双子の娘と言い合いになったんだよ。その挙句、仲良くなって、他の女の子をキースから遠ざける協定を結んだようだ。三人で仲良く高笑いしてた」

「うわ~、何やってるんだ。あの子は」

「高笑いって、あの、おーほっほっていう、あれ?」

「そう。それ。君達のお子さんは、二人共濃いね。性格」

 ローラが、ワインを一本手に取り、コルクを抜いた。チーズを勧めながら、どれを飲むか訪ねてきたので、グレッグは新しいウイスキーを開ける事にした。

 三人で一緒にチーズを食べながら新しい酒の味を確かめる。
 これも、悪くない。

「二人してキースに執着しているのね? 全くもう。ご迷惑を掛けるわね」

「大丈夫。キースはね」

 
 グレッグは、ランス家とゲート家の面々が集まった時の事を話した。

「アトレーとマックスの様子を、俺が聞いたんだが、両家とも詳しくは知らない様子だった。ゲート伯爵達も、一度も領地を訪ねてもいないらしい。
 それで俺が訪問してみようと手紙を出したのだが、断られた。仕方なしに調査を依頼して、報告がこれなんだ」

 グレッグは懐から書類を出し、広げてからサイラスに渡した。

 読んでからローラに回す。

 読み終わったローラが報告書を折りたたみ、グレッグに返した。

「どう思う?」

 まずローラが言った。

「子供が生まれているのは知らなかったから、驚いたわ。おめでとうと言っていいのかしら」

「君たちの耳にも入っていないのか?
 ますます、嫌な感じだ」

 サイラスも考え込んでいる。

「この子供の籍はどうなっているのかな」

「うん、今それも調べさせている。どういう子供か不安だったんでね」

 グラスをテーブルに置いて姿勢を正してサイラスが言った。

「それなら僕の方で出生届をすぐに調べられるよ。公にどういう立場の子供かって事だけだけどね」

「ありがとう。助かるよ。
 突撃訪問も考えたんだけど、その前に、王家の思惑を確認しないとまずいと思ったんだ」

「それでは、今度はこっちの番だな。まあ、聞いてくれよ。もちろん他言無用だよ」

 ローラが、氷を持って来させると言って、部屋を出て行った。


しおりを挟む
感想 266

あなたにおすすめの小説

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

私は貴方を許さない

白湯子
恋愛
甘やかされて育ってきたエリザベータは皇太子殿下を見た瞬間、前世の記憶を思い出す。無実の罪を着させられ、最期には断頭台で処刑されたことを。 前世の記憶に酷く混乱するも、優しい義弟に支えられ今世では自分のために生きようとするが…。

婚約者の恋人

クマ三郎@書籍発売中
恋愛
 王家の血を引くアルヴィア公爵家の娘シルフィーラ。  何不自由ない生活。家族からの溢れる愛に包まれながら、彼女は社交界の華として美しく成長した。  そんな彼女の元に縁談が持ち上がった。相手は北の辺境伯フェリクス・ベルクール。今までシルフィーラを手放したがらなかった家族もこの縁談に賛成をした。  いつかは誰かの元へ嫁がなければならない身。それならば家族の祝福してくれる方の元へ嫁ごう。シルフィーラはやがて訪れるであろう幸せに満ちた日々を想像しながらベルクール辺境伯領へと向かったのだった。  しかしそこで彼女を待っていたのは自分に無関心なフェリクスと、病弱な身体故に静養と称し彼の元に身を寄せる従兄妹のローゼリアだった……

痛みは教えてくれない

河原巽
恋愛
王立警護団に勤めるエレノアは四ヶ月前に異動してきたマグラに冷たく当たられている。顔を合わせれば舌打ちされたり、「邪魔」だと罵られたり。嫌われていることを自覚しているが、好きな職場での仲間とは仲良くしたかった。そんなある日の出来事。 マグラ視点の「触れても伝わらない」というお話も公開中です。 別サイトにも掲載しております。

立派な王太子妃~妃の幸せは誰が考えるのか~

矢野りと
恋愛
ある日王太子妃は夫である王太子の不貞の現場を目撃してしまう。愛している夫の裏切りに傷つきながらも、やり直したいと周りに助言を求めるが‥‥。 隠れて不貞を続ける夫を見続けていくうちに壊れていく妻。 周りが気づいた時は何もかも手遅れだった…。 ※設定はゆるいです。

【完結】お父様に愛されなかった私を叔父様が連れ出してくれました。~お母様からお父様への最後のラブレター~

山葵
恋愛
「エリミヤ。私の所に来るかい?」 母の弟であるバンス子爵の言葉に私は泣きながら頷いた。 愛人宅に住み屋敷に帰らない父。 生前母は、そんな父と結婚出来て幸せだったと言った。 私には母の言葉が理解出来なかった。

裏切られた令嬢は死を選んだ。そして……

希猫 ゆうみ
恋愛
スチュアート伯爵家の令嬢レーラは裏切られた。 幼馴染に婚約者を奪われたのだ。 レーラの17才の誕生日に、二人はキスをして、そして言った。 「一度きりの人生だから、本当に愛せる人と結婚するよ」 「ごめんねレーラ。ロバートを愛してるの」 誕生日に婚約破棄されたレーラは絶望し、生きる事を諦めてしまう。 けれど死にきれず、再び目覚めた時、新しい人生が幕を開けた。 レーラに許しを請い、縋る裏切り者たち。 心を鎖し生きて行かざるを得ないレーラの前に、一人の求婚者が現れる。 強く気高く冷酷に。 裏切り者たちが落ちぶれていく様を眺めながら、レーラは愛と幸せを手に入れていく。 ☆完結しました。ありがとうございました!☆ (ホットランキング8位ありがとうございます!(9/10、19:30現在)) (ホットランキング1位~9位~2位ありがとうございます!(9/6~9)) (ホットランキング1位!?ありがとうございます!!(9/5、13:20現在)) (ホットランキング9位ありがとうございます!(9/4、18:30現在))

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

処理中です...