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第二章 キースの寄宿学校生活
かしましい妹たち
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母の横に立つ男性が、僕と目が合うと、母の肘を支えて、こちらを向かせた。
母が、僕を見てパアっと光を放つような感じで微笑んだ。
紅い唇から白い歯が見え、その映像が脳裏に焼き付いた。
周囲を囲む人たちが、一瞬びっくりした様な顔をした。
僕の周囲にいた学友たちは、うっと声を詰まらせ呆然としている。
「こりゃあパワーアップしたなあ。おい、周りの奴ら、軽く叩いて正気に戻せ」
伯父が言いながら周囲の学友たちの背中を叩く。
おおい、しっかりしろ。間抜け面を元に戻せ、と言いながら周囲の友人たちをパタパタと叩く。
王子様は、と見ると、びっくりしているが正気だ。
「君の母上って、魔法使いみたいだね」
うーん? どういう意味だろう。
男の人が、子供を三人連れて、僕の方にやって来る。
小さい女の子二人と、もっと小さい男の子だ。庭に忍び込んだ時に見た子供たちだった。
僕の前に立ち止まると、静かな声で言った。
「僕はニコラス・モートン。ソフィの夫だよ。
そして、この子達は君の妹弟だ。紹介させて貰いたいのだけど、いいかな」
一目見て、一言話しただけで、いい人だとわかる人だった。
僕は黙って頷いた。
伯父もやってきて挨拶している。2人はだいぶ親しげだ。
「僕は君の母親の夫なので、呼び方はニコラスおじさんでどうだろう。
子供は、右の少しだけ髪の色が濃い茶色なのがマリベル、もう一人がルースで、今6歳。
こちらがハーレイで四歳だよ。
さあ、3人共、お兄様にご挨拶して」
女の子二人は、僕の顔に見惚れている。口を開けて、間の抜けた顔で見ている。
これは先に僕が挨拶したほうがいいかな、と思ったら、別の子が割り込んで来た。
「こんにちは。キース様。
お兄様ったら、私を置いて先に出てしまうんですもの。一緒に行こうって言ったのにひどい」
後ろに侍女が付いて来ていた。
そう言えば、王子様は単身で来ている。おかしいな、と思って目で問いかけると、すっと逸らされた。
会場を見回すと、顔を見たことのある侍従が一人、会場の端にいた。護衛らしき人も二人一緒にいる。この王子様、護衛たちもろとも、王女を撒いて来たな。
リデル王女様は、また僕の真ん前に立って喋っている。お兄様に文句を言うのなら、お兄様のところに行って言いなさい。
面倒くさい王子様と王女様、見事に兄妹だ。
せっかくの兄妹弟の挨拶が進まないのだけど、どうしようか。そう思ったら、急にマリベルが一歩前に出てきた。
「お兄様、私はマリベルです。これからよろしくお願いします。あちらで座ってお話しませんか」
もう一人も一歩前に出てきた。そして二人で、僕を囲むように立つ。
そのまま王女対僕の妹たちで睨み合いが始まってしまった。まだ6歳なのに眼光の鋭さは一丁前だ。
「私、キース様にお話があるの。少しどいていてくださる」
「私達、今日初めてお兄様とお話するんです。大切な日なので、お話は別の日にお願いできますか」
「私も大切なお話があるのよ」
「私達、キース兄様の妹なんだけど」
「私、この国の王女なんだけど」
また、無言の睨み合いになった。
伯父や、ニコラスおじさんに救いを求めたが、片や、にやにや笑い、片や困った顔で、助けに入ってくれそうにない。
ジョン王子が僕のスーツの背中をつんつんと引っ張った。
小さい声で言う。
「逃げよう」
賛成だ。
「御免ね。ちょっと用事を思い出した」
そう言うと、くるっと回って、空いている後方に走り出した。王子も付いて来る。
丁度、3,4人の女の子たちが、僕らの方に話し掛けに来たようで、今度はその子たちに妹たちと王女様が食ってかかっている。元気だなあ。
会場から逃げ出して、ほっとしてから、王子に聞いた。
「リデル王女は、何の用なのか知っていますか?」
「多分、君と結婚したいって話じゃあないかな」
そういう冗談はいいよ。
「妹って初めてだけど、めんどくさそうですね」
「ああ、そうさ。やっと、君の方に興味を移してくれたので、僕は少し楽になったかな」
「もしかして、押し付けるために僕を家に呼んだんですか?」
あははは、まさか。と笑っているが、どうだろう。
キース達が逃げた後、一緒に戦ったマリベルとルースとリデルの間になぜか連帯感が生まれたらしい。
すっかり仲良くなって、三人でキースお兄様の話に花を咲かせている。
三人共、大してキースの事を知っているわけではないが、他の女の子たちも同様で、それに比べると妹という特権、王女は一度話した事があると言う優越感で高笑いの最中だ。
父親のニコラスは、これどうしようか、とグレッグにぼやいている。
王室の侍女は、後で王妃様にご報告しなければ、と心の中でメモしていた。侯爵家の娘で、両親ともに評判が良いので、王女の友人として申し分ない。これは朗報だ。
ハーレイが父親に向かって涙目で文句を言っていた。
「僕だけ、お兄様とお話できなかった。僕もお話したいの」
「今度会ったら、ご挨拶しようね。絶対今度はお前が一番にお話しできるよう頑張るよ」
娘たちの新しい一面に、ニコラスは戸惑っていた。
お兄様の人を引き付ける魅力はかなり大きい。アトレー似の容姿の力は絶大だが、それとは別の引力があり、やっぱりソフィの血だな、と思った。三人の子供達にも、その片鱗は見えてきている。先々が思いやられる。
母が、僕を見てパアっと光を放つような感じで微笑んだ。
紅い唇から白い歯が見え、その映像が脳裏に焼き付いた。
周囲を囲む人たちが、一瞬びっくりした様な顔をした。
僕の周囲にいた学友たちは、うっと声を詰まらせ呆然としている。
「こりゃあパワーアップしたなあ。おい、周りの奴ら、軽く叩いて正気に戻せ」
伯父が言いながら周囲の学友たちの背中を叩く。
おおい、しっかりしろ。間抜け面を元に戻せ、と言いながら周囲の友人たちをパタパタと叩く。
王子様は、と見ると、びっくりしているが正気だ。
「君の母上って、魔法使いみたいだね」
うーん? どういう意味だろう。
男の人が、子供を三人連れて、僕の方にやって来る。
小さい女の子二人と、もっと小さい男の子だ。庭に忍び込んだ時に見た子供たちだった。
僕の前に立ち止まると、静かな声で言った。
「僕はニコラス・モートン。ソフィの夫だよ。
そして、この子達は君の妹弟だ。紹介させて貰いたいのだけど、いいかな」
一目見て、一言話しただけで、いい人だとわかる人だった。
僕は黙って頷いた。
伯父もやってきて挨拶している。2人はだいぶ親しげだ。
「僕は君の母親の夫なので、呼び方はニコラスおじさんでどうだろう。
子供は、右の少しだけ髪の色が濃い茶色なのがマリベル、もう一人がルースで、今6歳。
こちらがハーレイで四歳だよ。
さあ、3人共、お兄様にご挨拶して」
女の子二人は、僕の顔に見惚れている。口を開けて、間の抜けた顔で見ている。
これは先に僕が挨拶したほうがいいかな、と思ったら、別の子が割り込んで来た。
「こんにちは。キース様。
お兄様ったら、私を置いて先に出てしまうんですもの。一緒に行こうって言ったのにひどい」
後ろに侍女が付いて来ていた。
そう言えば、王子様は単身で来ている。おかしいな、と思って目で問いかけると、すっと逸らされた。
会場を見回すと、顔を見たことのある侍従が一人、会場の端にいた。護衛らしき人も二人一緒にいる。この王子様、護衛たちもろとも、王女を撒いて来たな。
リデル王女様は、また僕の真ん前に立って喋っている。お兄様に文句を言うのなら、お兄様のところに行って言いなさい。
面倒くさい王子様と王女様、見事に兄妹だ。
せっかくの兄妹弟の挨拶が進まないのだけど、どうしようか。そう思ったら、急にマリベルが一歩前に出てきた。
「お兄様、私はマリベルです。これからよろしくお願いします。あちらで座ってお話しませんか」
もう一人も一歩前に出てきた。そして二人で、僕を囲むように立つ。
そのまま王女対僕の妹たちで睨み合いが始まってしまった。まだ6歳なのに眼光の鋭さは一丁前だ。
「私、キース様にお話があるの。少しどいていてくださる」
「私達、今日初めてお兄様とお話するんです。大切な日なので、お話は別の日にお願いできますか」
「私も大切なお話があるのよ」
「私達、キース兄様の妹なんだけど」
「私、この国の王女なんだけど」
また、無言の睨み合いになった。
伯父や、ニコラスおじさんに救いを求めたが、片や、にやにや笑い、片や困った顔で、助けに入ってくれそうにない。
ジョン王子が僕のスーツの背中をつんつんと引っ張った。
小さい声で言う。
「逃げよう」
賛成だ。
「御免ね。ちょっと用事を思い出した」
そう言うと、くるっと回って、空いている後方に走り出した。王子も付いて来る。
丁度、3,4人の女の子たちが、僕らの方に話し掛けに来たようで、今度はその子たちに妹たちと王女様が食ってかかっている。元気だなあ。
会場から逃げ出して、ほっとしてから、王子に聞いた。
「リデル王女は、何の用なのか知っていますか?」
「多分、君と結婚したいって話じゃあないかな」
そういう冗談はいいよ。
「妹って初めてだけど、めんどくさそうですね」
「ああ、そうさ。やっと、君の方に興味を移してくれたので、僕は少し楽になったかな」
「もしかして、押し付けるために僕を家に呼んだんですか?」
あははは、まさか。と笑っているが、どうだろう。
キース達が逃げた後、一緒に戦ったマリベルとルースとリデルの間になぜか連帯感が生まれたらしい。
すっかり仲良くなって、三人でキースお兄様の話に花を咲かせている。
三人共、大してキースの事を知っているわけではないが、他の女の子たちも同様で、それに比べると妹という特権、王女は一度話した事があると言う優越感で高笑いの最中だ。
父親のニコラスは、これどうしようか、とグレッグにぼやいている。
王室の侍女は、後で王妃様にご報告しなければ、と心の中でメモしていた。侯爵家の娘で、両親ともに評判が良いので、王女の友人として申し分ない。これは朗報だ。
ハーレイが父親に向かって涙目で文句を言っていた。
「僕だけ、お兄様とお話できなかった。僕もお話したいの」
「今度会ったら、ご挨拶しようね。絶対今度はお前が一番にお話しできるよう頑張るよ」
娘たちの新しい一面に、ニコラスは戸惑っていた。
お兄様の人を引き付ける魅力はかなり大きい。アトレー似の容姿の力は絶大だが、それとは別の引力があり、やっぱりソフィの血だな、と思った。三人の子供達にも、その片鱗は見えてきている。先々が思いやられる。
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