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第二章 キースの寄宿学校生活
年末パーティ 子供の部
しおりを挟む 妹の肩を支えたまま元の場所に戻ると、従者にガラスの靴を差し出されたシンデレラが今にもそれに足を入れようとしているところだった。
皆が見守る中、シンデレラがガラスの靴に右足を入れると、少しもつっかえることもなく、ぴたりと入る。
「おお……! 貴方こそがシンデレラだったのですね……」
まるでシンデレラのためにあつらえたようにぴたりとはまり、従者が感嘆の声をあげた。
「そんな……。まさかシンデレラが……。ありえないわ……」
母上は信じられないといった様子で目を見開いているし、落胆したような一番目の妹、二番目の妹にいたってはギリギリと悔しそうに歯ぎしりをしている。
私にいたっては、ある程度予測出来ていた状況なので驚いてはいない。
私が履いていた靴だが、シンデレラも私と同じく小さな足であるし、それに元々シンデレラの魔法で出した靴だ。ぴたりとはまるのも無理はないだろう。
「本当に、君が?」
「ええ、私がシンデレラでございます」
ガラスの靴がぴたりとはまっても、まだ信じられない様子のエリオット様にシンデレラは小さく礼をする。
「少し二人で話せるかな?」
そうエリオット様に告げられると、シンデレラはちらりと私を見てから、うやうやしく頷き、にこりと微笑む。
「はい、もちろんでございます。兄も一緒でよろしいでしょうか?」
なぜ私も? シンデレラ、お前は一体何を考えているんだ。シンデレラの考えが全く分からなかったが、断るわけにもいかない。
まだ呆然としている母上や妹たち、それからエリオット様の従者をその場に残し、仕方なく三人で客室へと向かうことになった。
*
「いきなりで悪いんだけど、本当に君がシンデレラなのか確信が持てないんだ」
三人だけになってからしばらくして、やはり困ったような笑みをお浮かべになられたエリオット様にもシンデレラは動じることなく口を開く。
「この姿では無理もございません。お見苦しい姿で失礼いたしました」
二人から少し離れたところで控えていると、シンデレラはスカートから濡れたハンカチを取り出し、おもむろに顔をふきだす。
「.......、っ」
シンデレラがすすだらけの顔をふき、白い肌があらわれると、なんとその顔は私と瓜二つ。
なんと……、なんということだ。こんなこと、ありえるはずがない。
思わず声を上げそうになってしまったが、すんでのところで息をこらえ堪える。
エリオット様のご様子を伺うと、たいそう驚いていらしたが、それでもシンデレラしか見えないといったご様子でくぎづけになっていらっしゃった。
エリオット様……。仕方ないことだとは分かっていても、シンデレラをお見つめになるエリオット様に胸がひどく痛む。
ご自身の衣服が汚れることも気にされず、シンデレラのすすだらけの手をしっかりと握ったエリオット様をシンデレラもうっとりと見つめる。
完全に二人の世界といった様子にやはり胸が切り裂かれるような痛みはやまず、ついに見ていられなくなって目を伏せてしまった。
エリオット様は王子様であらせられるだけではなく、見目麗しく、人の心を掴む不思議な魅力溢れるお方。シンデレラは心に決めた人がいると言っていたが、エリオット様を拝見して心が変わったとしても何もおかしくはない。
そもそも私はもとよりシンデレラの代役であったわけだし、シンデレラがエリオット様のおそばにいたいと言うのなら、私は譲るべきだろう。しかし……。
昨晩の娘は私でございます、お慕い申し上げております。本当は、今にもそう叫びたくてたまらない。
たった一晩のわずかな時間ではあったが、私は一瞬で恋に落ちてしまった。
これを人に言えば、浅はかで無知だと言われるだろうが、それでもこれはシンデレラの言っていたような「本物の恋」に間違いないと自分でははっきりと確信している。
しかし、常に騎士として自分を律してきた習性のためか、何一つ口に出すことができないまま、ただその場に控えることしかできなかった。
エリオット様のお顔を拝見すると、砂糖菓子のようにふわふわと甘く幸せがこみ上げてくる。しかし、そのまなざしが他の娘に注がれているかと思うと、身が切り裂かれるかのような痛みを感じる。
こんな気持ちは、今まで知らなかった。
自分の身に恋などということが訪れるなどと思いもしなかったが、それだけに頭からつま先まで全身が支配されてしまうほどの抗えない感情がわき起こる。
いっそ知らなかった方が良かったとさえ思ってしまうほどだったが、しかし今さらなかったことになんてできるわけもない。もう私は、確かに「恋」を知ってしまったのだから。
「一目見た瞬間から君のことが頭から離れないんだ。どうか、僕の妻となってほしい」
エリオット様のそのお言葉に伏せていた顔をあげてそのお姿を拝見すると、今までよりもいっそう胸が締め付けられ、剣で身体を貫かれたような痛みが走った。
王子様ともあろうお方が片膝をつき、シンデレラの手を取り求婚なさっている。
ああ……、シンデレラがひどくうらやましく妬ましくて仕方ない。
本来であれば、エリオット様に愛される幸せな娘は私であったはずなのに。いや、そもそも私は代役だったのだから、そんなことを思うのは筋違いではあることは十分に分かっている。
シンデレラを恨むのも羨ましく思うことも道理ではないと分かってはいるのだが、そう思わずにはいられない。
皆が見守る中、シンデレラがガラスの靴に右足を入れると、少しもつっかえることもなく、ぴたりと入る。
「おお……! 貴方こそがシンデレラだったのですね……」
まるでシンデレラのためにあつらえたようにぴたりとはまり、従者が感嘆の声をあげた。
「そんな……。まさかシンデレラが……。ありえないわ……」
母上は信じられないといった様子で目を見開いているし、落胆したような一番目の妹、二番目の妹にいたってはギリギリと悔しそうに歯ぎしりをしている。
私にいたっては、ある程度予測出来ていた状況なので驚いてはいない。
私が履いていた靴だが、シンデレラも私と同じく小さな足であるし、それに元々シンデレラの魔法で出した靴だ。ぴたりとはまるのも無理はないだろう。
「本当に、君が?」
「ええ、私がシンデレラでございます」
ガラスの靴がぴたりとはまっても、まだ信じられない様子のエリオット様にシンデレラは小さく礼をする。
「少し二人で話せるかな?」
そうエリオット様に告げられると、シンデレラはちらりと私を見てから、うやうやしく頷き、にこりと微笑む。
「はい、もちろんでございます。兄も一緒でよろしいでしょうか?」
なぜ私も? シンデレラ、お前は一体何を考えているんだ。シンデレラの考えが全く分からなかったが、断るわけにもいかない。
まだ呆然としている母上や妹たち、それからエリオット様の従者をその場に残し、仕方なく三人で客室へと向かうことになった。
*
「いきなりで悪いんだけど、本当に君がシンデレラなのか確信が持てないんだ」
三人だけになってからしばらくして、やはり困ったような笑みをお浮かべになられたエリオット様にもシンデレラは動じることなく口を開く。
「この姿では無理もございません。お見苦しい姿で失礼いたしました」
二人から少し離れたところで控えていると、シンデレラはスカートから濡れたハンカチを取り出し、おもむろに顔をふきだす。
「.......、っ」
シンデレラがすすだらけの顔をふき、白い肌があらわれると、なんとその顔は私と瓜二つ。
なんと……、なんということだ。こんなこと、ありえるはずがない。
思わず声を上げそうになってしまったが、すんでのところで息をこらえ堪える。
エリオット様のご様子を伺うと、たいそう驚いていらしたが、それでもシンデレラしか見えないといったご様子でくぎづけになっていらっしゃった。
エリオット様……。仕方ないことだとは分かっていても、シンデレラをお見つめになるエリオット様に胸がひどく痛む。
ご自身の衣服が汚れることも気にされず、シンデレラのすすだらけの手をしっかりと握ったエリオット様をシンデレラもうっとりと見つめる。
完全に二人の世界といった様子にやはり胸が切り裂かれるような痛みはやまず、ついに見ていられなくなって目を伏せてしまった。
エリオット様は王子様であらせられるだけではなく、見目麗しく、人の心を掴む不思議な魅力溢れるお方。シンデレラは心に決めた人がいると言っていたが、エリオット様を拝見して心が変わったとしても何もおかしくはない。
そもそも私はもとよりシンデレラの代役であったわけだし、シンデレラがエリオット様のおそばにいたいと言うのなら、私は譲るべきだろう。しかし……。
昨晩の娘は私でございます、お慕い申し上げております。本当は、今にもそう叫びたくてたまらない。
たった一晩のわずかな時間ではあったが、私は一瞬で恋に落ちてしまった。
これを人に言えば、浅はかで無知だと言われるだろうが、それでもこれはシンデレラの言っていたような「本物の恋」に間違いないと自分でははっきりと確信している。
しかし、常に騎士として自分を律してきた習性のためか、何一つ口に出すことができないまま、ただその場に控えることしかできなかった。
エリオット様のお顔を拝見すると、砂糖菓子のようにふわふわと甘く幸せがこみ上げてくる。しかし、そのまなざしが他の娘に注がれているかと思うと、身が切り裂かれるかのような痛みを感じる。
こんな気持ちは、今まで知らなかった。
自分の身に恋などということが訪れるなどと思いもしなかったが、それだけに頭からつま先まで全身が支配されてしまうほどの抗えない感情がわき起こる。
いっそ知らなかった方が良かったとさえ思ってしまうほどだったが、しかし今さらなかったことになんてできるわけもない。もう私は、確かに「恋」を知ってしまったのだから。
「一目見た瞬間から君のことが頭から離れないんだ。どうか、僕の妻となってほしい」
エリオット様のそのお言葉に伏せていた顔をあげてそのお姿を拝見すると、今までよりもいっそう胸が締め付けられ、剣で身体を貫かれたような痛みが走った。
王子様ともあろうお方が片膝をつき、シンデレラの手を取り求婚なさっている。
ああ……、シンデレラがひどくうらやましく妬ましくて仕方ない。
本来であれば、エリオット様に愛される幸せな娘は私であったはずなのに。いや、そもそも私は代役だったのだから、そんなことを思うのは筋違いではあることは十分に分かっている。
シンデレラを恨むのも羨ましく思うことも道理ではないと分かってはいるのだが、そう思わずにはいられない。
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