氷の貴婦人

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第二章 キースの寄宿学校生活

年末パーティ 子供の部

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 年末パーティーの日、目一杯の盛装をした僕は、家中の者たちに大絶賛されていた。

 伯父の見立てはさすがのもので、僕はいつも以上に美しく大人びて見えた。

 迎えに来てくれた伯父が、最後に髪を少しいじってくれて、そうしたら更に垢抜けた印象に変わった。

 今後は伯父に教えを請わねば。祖父母の目線では僕は何時までも可愛い子供だが、伯父はカッコ良く装わさせてくれる。

 来年には十二歳。学園に新入生がくるまでに、もっと大人っぽくなりたい。

 王宮に到着し、コートを脱いで使用人に預ける。コートの脱ぎ方も伯父に教わった。
 もう子供じゃあないんだから、袖を引っ張ってもそもそ脱ぐな。肩から外してスルッといけ。

 やってみたが、だらっとしか出来ない。

 ふっと笑って、修行しろと言われた。

 腹立つ、と思ったが、伯父の様子を見て納得した。

 父親がいたら、こんな感じだったのかな。
 そんな事を思っていたら、遠くにノーチェが見えた。もたもたとコートと格闘していて、あげくに父親が手伝って二人でもたもたしていた。父子にもよるか。

 会場に入るともう既に子供と付き添いの大人達で一杯で、ざわざわと騒がしい。

「おい、仲の良い奴がいるか?」

 見回してみるが、さっき入り口でもたついていたノーチェ以外見当たらない。彼はまだ入場していないようだ。
 そこに、恰幅の良い陽気そうな中年の貴婦人が近付いて来た。

「グレッグ様。お久しぶりですわね。こちらに戻っていたのですね。
 隣国の奥様やお子様達はお元気?」

「ご無沙汰しております。ナターシャ夫人。皆元気にしております。
 今日は甥の付き添いなんです。
 キース・ゲートです。お見知りおきを」

 腕を軽く触って促され、僕もご挨拶した。

「キース。ゲートです」

「息子は学園の6年生なの。夜の部に備えて、すぐに出ていってしまったのよ。
 キース君は、学園ではハッピーって呼ばれて人気者だそうね。噂を聞いているわ。ジョン王子とは親友だそうね」

 少し疑わしげな目をしている。
 その噂は少し間違っている。王子とは、ただの友達だ。

 訂正しようと口を開きかけた。

「こんにちは。ナターシャ夫人。親友のキースを探していたのです。今日、約束をしていたので。
 お話に割り込んでしまったようで、失礼しました」

 申し訳無さそうな顔を作っているが、絶対にそう思っていない方に賭ける。
 自称、親友の王子様は、はにかんだ様な顔で笑っていた。

 思っていた以上に黒い奴なのかもしれない。僕はこの場で否定はできないのだ。

 本当に、これを女の子相手にはやらないで欲しい。

 ハハハと棒読みで笑っておいた。


 ナターシャ夫人は、一大スクープゲットというような、ホクホク顔で、遠巻きにしている他の婦人たちの方へ離れていった。

 グレッグ伯父は、へえーと言ったまま、まじまじと王子を見ている。
 伯父さん、顔つきが不敬です。

 学園での顔見知りもチラホラと増えてきて、だいぶ動きやすくなってきた。

 学園でのようにハッピーと声が掛かり、肩を抱いてじゃれ合う。

 それを王子様が時々邪魔して追い払う、いつも通りの様子になっていった。

 周りからすごく見られているのはわかっていたが、だからってどうする必要も感じなかった。それに、見られるのには慣れている。

 少し離れて見守ってくれていた伯父が寄って来て言った。

「キース、楽しそうだな。お前が幸せそうで嬉しいよ」

「ありがとう。伯父さん。
 伯父さんって隣国に、家族と住んでいるの?」

「うん。赴任先で隣国の女性と結婚して、向こうに家があるんだ。今5歳の男の子と三歳の女の子がいる。お前の従弟妹だな。
 今度連れてくるよ」

 僕には思っていたよりたくさんの血縁がいるようだ。

「ところで、ジョン王子のあれはなんなんだ?なんで他の奴らを追っ払う?」

「なんだかねえ。嫉妬するっていうか、理解不能だよ。でも不思議と、皆もあんまり気にしていないんだ。普通さあ、王子様に追い払われたら青くならない?」

「うーん。どうだろう」

 伯父に聞いた僕がバカだった。

「じゃれているっぽくて、ごっこ遊びみたいな感じ。
 あれ、本気だったら怖いよね」

 グレッグは、お前がそういう風に気楽にしているから、必死で追い払う王子もふざけて見えるだけなのでは、と思ったが、バランスが取れているので黙っておいた。

 アトレーに対して、サイラスもあんな感じだった。独占欲の強さは遺伝だな。


 ざわつきが大きくなったので、自然と皆でそちらを見た。

 子供を三人連れた夫婦が入場してきたな、と思う間に人垣が出来た。

「おお、さすがソフィ。相変わらずの人気だ」

「え、あれは母の家族なの?」

 さすがに体に緊張が走った。憎んでいると言われてから、二度目の接触だ。
 しかし少しすると、とても話しかけるどころでは無いのがわかった。

 近寄ることも出来ない。
 ホッとしたような、残念な様な。

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