26 / 30
第二章 キースの寄宿学校生活
年末パーティ 子供の部
しおりを挟む
年末パーティーの日、目一杯の盛装をした僕は、家中の者たちに大絶賛されていた。
伯父の見立てはさすがのもので、僕はいつも以上に美しく大人びて見えた。
迎えに来てくれた伯父が、最後に髪を少しいじってくれて、そうしたら更に垢抜けた印象に変わった。
今後は伯父に教えを請わねば。祖父母の目線では僕は何時までも可愛い子供だが、伯父はカッコ良く装わさせてくれる。
来年には十二歳。学園に新入生がくるまでに、もっと大人っぽくなりたい。
王宮に到着し、コートを脱いで使用人に預ける。コートの脱ぎ方も伯父に教わった。
もう子供じゃあないんだから、袖を引っ張ってもそもそ脱ぐな。肩から外してスルッといけ。
やってみたが、だらっとしか出来ない。
ふっと笑って、修行しろと言われた。
腹立つ、と思ったが、伯父の様子を見て納得した。
父親がいたら、こんな感じだったのかな。
そんな事を思っていたら、遠くにノーチェが見えた。もたもたとコートと格闘していて、あげくに父親が手伝って二人でもたもたしていた。父子にもよるか。
会場に入るともう既に子供と付き添いの大人達で一杯で、ざわざわと騒がしい。
「おい、仲の良い奴がいるか?」
見回してみるが、さっき入り口でもたついていたノーチェ以外見当たらない。彼はまだ入場していないようだ。
そこに、恰幅の良い陽気そうな中年の貴婦人が近付いて来た。
「グレッグ様。お久しぶりですわね。こちらに戻っていたのですね。
隣国の奥様やお子様達はお元気?」
「ご無沙汰しております。ナターシャ夫人。皆元気にしております。
今日は甥の付き添いなんです。
キース・ゲートです。お見知りおきを」
腕を軽く触って促され、僕もご挨拶した。
「キース。ゲートです」
「息子は学園の6年生なの。夜の部に備えて、すぐに出ていってしまったのよ。
キース君は、学園ではハッピーって呼ばれて人気者だそうね。噂を聞いているわ。ジョン王子とは親友だそうね」
少し疑わしげな目をしている。
その噂は少し間違っている。王子とは、ただの友達だ。
訂正しようと口を開きかけた。
「こんにちは。ナターシャ夫人。親友のキースを探していたのです。今日、約束をしていたので。
お話に割り込んでしまったようで、失礼しました」
申し訳無さそうな顔を作っているが、絶対にそう思っていない方に賭ける。
自称、親友の王子様は、はにかんだ様な顔で笑っていた。
思っていた以上に黒い奴なのかもしれない。僕はこの場で否定はできないのだ。
本当に、これを女の子相手にはやらないで欲しい。
ハハハと棒読みで笑っておいた。
ナターシャ夫人は、一大スクープゲットというような、ホクホク顔で、遠巻きにしている他の婦人たちの方へ離れていった。
グレッグ伯父は、へえーと言ったまま、まじまじと王子を見ている。
伯父さん、顔つきが不敬です。
学園での顔見知りもチラホラと増えてきて、だいぶ動きやすくなってきた。
学園でのようにハッピーと声が掛かり、肩を抱いてじゃれ合う。
それを王子様が時々邪魔して追い払う、いつも通りの様子になっていった。
周りからすごく見られているのはわかっていたが、だからってどうする必要も感じなかった。それに、見られるのには慣れている。
少し離れて見守ってくれていた伯父が寄って来て言った。
「キース、楽しそうだな。お前が幸せそうで嬉しいよ」
「ありがとう。伯父さん。
伯父さんって隣国に、家族と住んでいるの?」
「うん。赴任先で隣国の女性と結婚して、向こうに家があるんだ。今5歳の男の子と三歳の女の子がいる。お前の従弟妹だな。
今度連れてくるよ」
僕には思っていたよりたくさんの血縁がいるようだ。
「ところで、ジョン王子のあれはなんなんだ?なんで他の奴らを追っ払う?」
「なんだかねえ。嫉妬するっていうか、理解不能だよ。でも不思議と、皆もあんまり気にしていないんだ。普通さあ、王子様に追い払われたら青くならない?」
「うーん。どうだろう」
伯父に聞いた僕がバカだった。
「じゃれているっぽくて、ごっこ遊びみたいな感じ。
あれ、本気だったら怖いよね」
グレッグは、お前がそういう風に気楽にしているから、必死で追い払う王子もふざけて見えるだけなのでは、と思ったが、バランスが取れているので黙っておいた。
アトレーに対して、サイラスもあんな感じだった。独占欲の強さは遺伝だな。
ざわつきが大きくなったので、自然と皆でそちらを見た。
子供を三人連れた夫婦が入場してきたな、と思う間に人垣が出来た。
「おお、さすがソフィ。相変わらずの人気だ」
「え、あれは母の家族なの?」
さすがに体に緊張が走った。憎んでいると言われてから、二度目の接触だ。
しかし少しすると、とても話しかけるどころでは無いのがわかった。
近寄ることも出来ない。
ホッとしたような、残念な様な。
伯父の見立てはさすがのもので、僕はいつも以上に美しく大人びて見えた。
迎えに来てくれた伯父が、最後に髪を少しいじってくれて、そうしたら更に垢抜けた印象に変わった。
今後は伯父に教えを請わねば。祖父母の目線では僕は何時までも可愛い子供だが、伯父はカッコ良く装わさせてくれる。
来年には十二歳。学園に新入生がくるまでに、もっと大人っぽくなりたい。
王宮に到着し、コートを脱いで使用人に預ける。コートの脱ぎ方も伯父に教わった。
もう子供じゃあないんだから、袖を引っ張ってもそもそ脱ぐな。肩から外してスルッといけ。
やってみたが、だらっとしか出来ない。
ふっと笑って、修行しろと言われた。
腹立つ、と思ったが、伯父の様子を見て納得した。
父親がいたら、こんな感じだったのかな。
そんな事を思っていたら、遠くにノーチェが見えた。もたもたとコートと格闘していて、あげくに父親が手伝って二人でもたもたしていた。父子にもよるか。
会場に入るともう既に子供と付き添いの大人達で一杯で、ざわざわと騒がしい。
「おい、仲の良い奴がいるか?」
見回してみるが、さっき入り口でもたついていたノーチェ以外見当たらない。彼はまだ入場していないようだ。
そこに、恰幅の良い陽気そうな中年の貴婦人が近付いて来た。
「グレッグ様。お久しぶりですわね。こちらに戻っていたのですね。
隣国の奥様やお子様達はお元気?」
「ご無沙汰しております。ナターシャ夫人。皆元気にしております。
今日は甥の付き添いなんです。
キース・ゲートです。お見知りおきを」
腕を軽く触って促され、僕もご挨拶した。
「キース。ゲートです」
「息子は学園の6年生なの。夜の部に備えて、すぐに出ていってしまったのよ。
キース君は、学園ではハッピーって呼ばれて人気者だそうね。噂を聞いているわ。ジョン王子とは親友だそうね」
少し疑わしげな目をしている。
その噂は少し間違っている。王子とは、ただの友達だ。
訂正しようと口を開きかけた。
「こんにちは。ナターシャ夫人。親友のキースを探していたのです。今日、約束をしていたので。
お話に割り込んでしまったようで、失礼しました」
申し訳無さそうな顔を作っているが、絶対にそう思っていない方に賭ける。
自称、親友の王子様は、はにかんだ様な顔で笑っていた。
思っていた以上に黒い奴なのかもしれない。僕はこの場で否定はできないのだ。
本当に、これを女の子相手にはやらないで欲しい。
ハハハと棒読みで笑っておいた。
ナターシャ夫人は、一大スクープゲットというような、ホクホク顔で、遠巻きにしている他の婦人たちの方へ離れていった。
グレッグ伯父は、へえーと言ったまま、まじまじと王子を見ている。
伯父さん、顔つきが不敬です。
学園での顔見知りもチラホラと増えてきて、だいぶ動きやすくなってきた。
学園でのようにハッピーと声が掛かり、肩を抱いてじゃれ合う。
それを王子様が時々邪魔して追い払う、いつも通りの様子になっていった。
周りからすごく見られているのはわかっていたが、だからってどうする必要も感じなかった。それに、見られるのには慣れている。
少し離れて見守ってくれていた伯父が寄って来て言った。
「キース、楽しそうだな。お前が幸せそうで嬉しいよ」
「ありがとう。伯父さん。
伯父さんって隣国に、家族と住んでいるの?」
「うん。赴任先で隣国の女性と結婚して、向こうに家があるんだ。今5歳の男の子と三歳の女の子がいる。お前の従弟妹だな。
今度連れてくるよ」
僕には思っていたよりたくさんの血縁がいるようだ。
「ところで、ジョン王子のあれはなんなんだ?なんで他の奴らを追っ払う?」
「なんだかねえ。嫉妬するっていうか、理解不能だよ。でも不思議と、皆もあんまり気にしていないんだ。普通さあ、王子様に追い払われたら青くならない?」
「うーん。どうだろう」
伯父に聞いた僕がバカだった。
「じゃれているっぽくて、ごっこ遊びみたいな感じ。
あれ、本気だったら怖いよね」
グレッグは、お前がそういう風に気楽にしているから、必死で追い払う王子もふざけて見えるだけなのでは、と思ったが、バランスが取れているので黙っておいた。
アトレーに対して、サイラスもあんな感じだった。独占欲の強さは遺伝だな。
ざわつきが大きくなったので、自然と皆でそちらを見た。
子供を三人連れた夫婦が入場してきたな、と思う間に人垣が出来た。
「おお、さすがソフィ。相変わらずの人気だ」
「え、あれは母の家族なの?」
さすがに体に緊張が走った。憎んでいると言われてから、二度目の接触だ。
しかし少しすると、とても話しかけるどころでは無いのがわかった。
近寄ることも出来ない。
ホッとしたような、残念な様な。
2,267
お気に入りに追加
5,524
あなたにおすすめの小説
婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい
矢口愛留
恋愛
【全11話】
学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。
しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。
クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。
スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。
※一話あたり短めです。
※ベリーズカフェにも投稿しております。
けじめをつけさせられた男
杜野秋人
恋愛
「あの女は公爵家の嫁として相応しくありません!よって婚約を破棄し、新たに彼女の妹と婚約を結び直します!」
自信満々で、男は父にそう告げた。
「そうか、分かった」
父はそれだけを息子に告げた。
息子は気付かなかった。
それが取り返しのつかない過ちだったことに⸺。
◆例によって設定作ってないので固有名詞はほぼありません。思いつきでサラッと書きました。
テンプレ婚約破棄の末路なので頭カラッポで読めます。
◆しかしこれ、女性向けなのか?ていうか恋愛ジャンルなのか?
アルファポリスにもヒューマンドラマジャンルが欲しい……(笑)。
あ、久々にランクインした恋愛ランキングは113位止まりのようです。HOTランキング入りならず。残念!
◆読むにあたって覚えることはひとつだけ。
白金貨=約100万円、これだけです。
◆全5話、およそ8000字の短編ですのでお気軽にどうぞ。たくさん読んでもらえると有り難いです。
ていうかいつもほとんど読まれないし感想もほぼもらえないし、反応もらえないのはちょっと悲しいです(T∀T)
◆アルファポリスで先行公開。小説家になろうでも公開します。
◆同一作者の連載中作品
『落第冒険者“薬草殺し”は人の縁で成り上がる』
『熊男爵の押しかけ幼妻〜今日も姫様がグイグイ来る〜』
もよろしくお願いします。特にリンクしませんが同一世界観の物語です。
◆(24/10/22)今更ながら後日談追加しました(爆)。名前だけしか出てこなかった、婚約破棄された側の侯爵家令嬢ヒルデガルトの視点による後日談です。
後日談はひとまず、アルファポリス限定公開とします。
【完結】もう辛い片想いは卒業して結婚相手を探そうと思います
ユユ
恋愛
大家族で大富豪の伯爵家に産まれた令嬢には
好きな人がいた。
彼からすれば誰にでも向ける微笑みだったが
令嬢はそれで恋に落ちてしまった。
だけど彼は私を利用するだけで
振り向いてはくれない。
ある日、薬の過剰摂取をして
彼から離れようとした令嬢の話。
* 完結保証付き
* 3万文字未満
* 暇つぶしにご利用下さい
夫が寵姫に夢中ですので、私は離宮で気ままに暮らします
希猫 ゆうみ
恋愛
王妃フランチェスカは見切りをつけた。
国王である夫ゴドウィンは踊り子上がりの寵姫マルベルに夢中で、先に男児を産ませて寵姫の子を王太子にするとまで嘯いている。
隣国王女であったフランチェスカの莫大な持参金と、結婚による同盟が国を支えてるというのに、恩知らずも甚だしい。
「勝手にやってください。私は離宮で気ままに暮らしますので」
悪役断罪?そもそも何かしましたか?
SHIN
恋愛
明日から王城に最終王妃教育のために登城する、懇談会パーティーに参加中の私の目の前では多人数の男性に囲まれてちやほやされている少女がいた。
男性はたしか婚約者がいたり妻がいたりするのだけど、良いのかしら。
あら、あそこに居ますのは第二王子では、ないですか。
えっ、婚約破棄?別に構いませんが、怒られますよ。
勘違い王子と企み少女に巻き込まれたある少女の話し。
旦那様は私に隠れて他の人と子供を育てていました
榎夜
恋愛
旦那様が怪しいんです。
私と旦那様は結婚して4年目になります。
可愛い2人の子供にも恵まれて、幸せな日々送っていました。
でも旦那様は.........
私が死ねば楽になれるのでしょう?~愛妻家の後悔~
希猫 ゆうみ
恋愛
伯爵令嬢オリヴィアは伯爵令息ダーフィトと婚約中。
しかし結婚準備中オリヴィアは熱病に罹り冷酷にも婚約破棄されてしまう。
それを知った幼馴染の伯爵令息リカードがオリヴィアへの愛を伝えるが…
【 ⚠ 】
・前半は夫婦の闘病記です。合わない方は自衛のほどお願いいたします。
・架空の猛毒です。作中の症状は抗生物質の発明以前に猛威を奮った複数の症例を参考にしています。尚、R15はこの為です。
目が覚めました 〜奪われた婚約者はきっぱりと捨てました〜
鬱沢色素
恋愛
侯爵令嬢のディアナは学園でのパーティーで、婚約者フリッツの浮気現場を目撃してしまう。
今まで「他の男が君に寄りつかないように」とフリッツに言われ、地味な格好をしてきた。でも、もう目が覚めた。
さようなら。かつて好きだった人。よりを戻そうと言われても今更もう遅い。
ディアナはフリッツと婚約破棄し、好き勝手に生きることにした。
するとアロイス第一王子から婚約の申し出が舞い込み……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる