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第二章 キースの寄宿学校生活
我が家の事情を話してみた
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あ、と王子周辺の1年生の誰かが声を上げた。大柄で鼻っ柱の強そうなやつだ。
「君、ゲート家のキースじゃないの。
ジョン王子、こいつには近寄らないほうがいいですよ。僕は親からそう言われています」
「どうして?」
「こいつの親って、以前すごいスキャンダルを巻き起こした恥知らずだって聞いていませんか?」
「うん。知らないよ。でも親と子は関係ないでしょう」
王子は曇りなき眼で、大柄な奴を見つめている。
ああ、やはり聞かされていないのか。
やれやれだ。
僕は不敬にならないよう、一応立ち上がり、言葉を選びながら言った。
「殿下、できれば僕に話しかけるのは、我が家に関するスキャンダルを、聞いてからにしていただけませんか」
「君の親が何か失態を犯したのなら、君だって今ここには居ないはずでしょう?」
「失態の種類が、政治や執務上のものではないので、表立った処罰は受けていません。単なるスキャンダルです。
では、お先に失礼します」
ああ、お腹空きそうだな、と恨めしげにトレーに残った料理を見つめつつ、厨房に返した。
トレーを受け取ったおばさんが、ちょっと待ってくださいね、と僕を引き止めた。
手早く、残った肉やソーセーをパンに挟み、紙に包んで渡してくれた。にっと笑いながら、キースお坊ちゃま、大きくなられましたね、と小声で言う。
手で早く行きなさいと示され、足早にそこから立ち去りながら、僕は記憶を辿っていた。思い出せない。
部屋に帰り着き、パンを食べながら、思い出せないけど、ここには自分の味方が1人は居そうだと考えていた。
戻ってきたルームメイトは、気まずそうな様子で机の中を整理したり、部屋着に着替えたりしている。
僕も部屋着に着替え、明日の授業の支度をしながら無言で居た。だが同室でこのままの雰囲気の生活は耐えられないので、こちらから切り出してみた。
「さっきの騒ぎだけど、君たちは僕の家のスキャンダルを知っている?」
一人は頷き、もう一人は首を振った。
知っている方がモートン、知らない方がノーチェだ。
「かいつまんで話すね。僕が三才の頃に、父親の浮気が発覚したんだ。それも、浮気相手が洗礼式に子供を連れて乗り込むという派手な方法で。そのせいで、家の評判が悪くなったんだ」
説明してみたら、結構あっけない。大した事じゃないなとまで思えた。
聞いた二人も、ノーチェは、へえー、だし、モートンも、あれっ、そんなんだった?という反応をしている。
三人で、で、何? となってしまった。
なんとなく、もう少し何か話さないといけない気がして続けた。
「あ~、それで離婚して、両親とも再婚してるんだ。僕は祖父母と幸せに暮らしている」
ちょっと気まずい沈黙の後、モートンがぷっと吹き出した。
「なんだよ、それ。もっとすごい何かかと思っちまった。おまけに幸せなのかよ?」
ブハハハ、と笑い出した。
もう笑いだしたら止まらなかった。
他の部屋の奴らが、何々? 楽しそう、と集まってきたので、同じ話をしたら受けた。
噂を知っている奴のほうが受けた。
知らない奴らは、たまに、【それがどうかした?】 とかのボケをかましてくる。
腹が痛くなるまで皆で笑った。
その話が広まるのは早かったので、僕の学園生活は、驚くほど楽しいものになった。
付いたあだ名が 【ハッピー】 だった。
えーと、そして面倒くさい子、つまり王子が話しかけてきたのは、一週間後だった。
週末に自宅の宮殿 (って、すごいなあ) に帰って、御両親に聞いてきたらしい。そして、すごくストレートにこう言った。
「聞いてきたから話しかけていいよね」
言葉は綺麗に、だ。
「もちろんです。どういったご要件でしょう」
「友達にならない?」
はあ、何でだ。
僕は別に良いけど、君の立場上、良いのか?と疑問に思った。
僕の家は高位貴族にハブられているわけで、王族は高位貴族のトップじゃあないか!
この子、困ったタイプだな。親は何をどう聞かせたんだろう。
「嬉しいお申し出ですが、我が家の醜聞の件もあります。僕としては、あまり目立たないように、学園生活を送りたいと思っております」
「君、もう目立っているじゃない。ハッピー君」
まあ、そうだけど。
でも、そういうキャラ目立ちと、王子様と仲良しは別次元だ。そっちは大人のチェックや、思惑も入ってくる。
お友達になろうよ。うん、なろうで済むものではない。僕は確実に人選から外される人間のはずだ。
「あの、たぶん大人達から止められると思いますが」
「大丈夫、両親がいいと言っていたから」
ゲー。なんで?
ちょっと理解不能。
「すみません。次の休みに家に戻って祖父母に聞いてきます。その後でないと、何ともお答えできません」
そう言ってその場を立ち去った。
「君、ゲート家のキースじゃないの。
ジョン王子、こいつには近寄らないほうがいいですよ。僕は親からそう言われています」
「どうして?」
「こいつの親って、以前すごいスキャンダルを巻き起こした恥知らずだって聞いていませんか?」
「うん。知らないよ。でも親と子は関係ないでしょう」
王子は曇りなき眼で、大柄な奴を見つめている。
ああ、やはり聞かされていないのか。
やれやれだ。
僕は不敬にならないよう、一応立ち上がり、言葉を選びながら言った。
「殿下、できれば僕に話しかけるのは、我が家に関するスキャンダルを、聞いてからにしていただけませんか」
「君の親が何か失態を犯したのなら、君だって今ここには居ないはずでしょう?」
「失態の種類が、政治や執務上のものではないので、表立った処罰は受けていません。単なるスキャンダルです。
では、お先に失礼します」
ああ、お腹空きそうだな、と恨めしげにトレーに残った料理を見つめつつ、厨房に返した。
トレーを受け取ったおばさんが、ちょっと待ってくださいね、と僕を引き止めた。
手早く、残った肉やソーセーをパンに挟み、紙に包んで渡してくれた。にっと笑いながら、キースお坊ちゃま、大きくなられましたね、と小声で言う。
手で早く行きなさいと示され、足早にそこから立ち去りながら、僕は記憶を辿っていた。思い出せない。
部屋に帰り着き、パンを食べながら、思い出せないけど、ここには自分の味方が1人は居そうだと考えていた。
戻ってきたルームメイトは、気まずそうな様子で机の中を整理したり、部屋着に着替えたりしている。
僕も部屋着に着替え、明日の授業の支度をしながら無言で居た。だが同室でこのままの雰囲気の生活は耐えられないので、こちらから切り出してみた。
「さっきの騒ぎだけど、君たちは僕の家のスキャンダルを知っている?」
一人は頷き、もう一人は首を振った。
知っている方がモートン、知らない方がノーチェだ。
「かいつまんで話すね。僕が三才の頃に、父親の浮気が発覚したんだ。それも、浮気相手が洗礼式に子供を連れて乗り込むという派手な方法で。そのせいで、家の評判が悪くなったんだ」
説明してみたら、結構あっけない。大した事じゃないなとまで思えた。
聞いた二人も、ノーチェは、へえー、だし、モートンも、あれっ、そんなんだった?という反応をしている。
三人で、で、何? となってしまった。
なんとなく、もう少し何か話さないといけない気がして続けた。
「あ~、それで離婚して、両親とも再婚してるんだ。僕は祖父母と幸せに暮らしている」
ちょっと気まずい沈黙の後、モートンがぷっと吹き出した。
「なんだよ、それ。もっとすごい何かかと思っちまった。おまけに幸せなのかよ?」
ブハハハ、と笑い出した。
もう笑いだしたら止まらなかった。
他の部屋の奴らが、何々? 楽しそう、と集まってきたので、同じ話をしたら受けた。
噂を知っている奴のほうが受けた。
知らない奴らは、たまに、【それがどうかした?】 とかのボケをかましてくる。
腹が痛くなるまで皆で笑った。
その話が広まるのは早かったので、僕の学園生活は、驚くほど楽しいものになった。
付いたあだ名が 【ハッピー】 だった。
えーと、そして面倒くさい子、つまり王子が話しかけてきたのは、一週間後だった。
週末に自宅の宮殿 (って、すごいなあ) に帰って、御両親に聞いてきたらしい。そして、すごくストレートにこう言った。
「聞いてきたから話しかけていいよね」
言葉は綺麗に、だ。
「もちろんです。どういったご要件でしょう」
「友達にならない?」
はあ、何でだ。
僕は別に良いけど、君の立場上、良いのか?と疑問に思った。
僕の家は高位貴族にハブられているわけで、王族は高位貴族のトップじゃあないか!
この子、困ったタイプだな。親は何をどう聞かせたんだろう。
「嬉しいお申し出ですが、我が家の醜聞の件もあります。僕としては、あまり目立たないように、学園生活を送りたいと思っております」
「君、もう目立っているじゃない。ハッピー君」
まあ、そうだけど。
でも、そういうキャラ目立ちと、王子様と仲良しは別次元だ。そっちは大人のチェックや、思惑も入ってくる。
お友達になろうよ。うん、なろうで済むものではない。僕は確実に人選から外される人間のはずだ。
「あの、たぶん大人達から止められると思いますが」
「大丈夫、両親がいいと言っていたから」
ゲー。なんで?
ちょっと理解不能。
「すみません。次の休みに家に戻って祖父母に聞いてきます。その後でないと、何ともお答えできません」
そう言ってその場を立ち去った。
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