氷の貴婦人

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話し合いの結果

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 ランス伯爵はそこまで言ってから、今度はマーシャの方に向いた。

「マーシャは自分で勝手に生きろ。既にサウザン子爵家に嫁いだ時に離籍している。今後も関係を持つ気は無い。我が家に接近することを禁じる」 


 これには流石にマーシャも驚いた。婚家から離縁されるのは想定内だったが、実家は考えてもいなかった。

「なぜなの。ソフィだって結婚した時に離籍しているし、条件は同じじゃないの」

 グレッグが怒鳴りつけた。

「同じじゃないだろう。お前はランス伯爵家の名にも泥を塗ったんだぞ。金輪際顔を見たくない」

「マックスは孫だし、甥よ」

「知らないね。誰の子かもわからない私生児など、我らは知ったこっちゃない」

「ひどい。アトレーの子よ。あの顔を見たら一目瞭然じゃない」

 そこで、心底不思議そうに、グレッグがマーシャに尋ねた。

「お前、貴族社界に知れ渡るような真似を、なぜした?なんの為に?」

 マーシャに代わってゲート伯爵夫人が答えた。

「キースより可愛いと、皆に言わせたかったのですって。それとアトレーの子供だと広めて、アトレーの後妻の地位を狙ったそうよ」

 グレッグも、他の者も、しばし絶句した。
 グレッグが頭を振りながら絞り出すように言った。

「馬鹿馬鹿しい」

「同感よ。それで失うものが、分からないほど馬鹿なのね。悪いけど、ランス家の教育を疑ってしまったわ」

「そうですね。こいつはソフィと違って昔からそんなだった。
 だからアトレーにはソフィを紹介したのに、お前がそれほど悪趣味だったなんて知らなかったよ。
 マーシャと生涯の恋人?好きにしてくれ」

 ヒートアップする場とは正反対の、のんびりとした口調でランス伯爵が言った。

「ではこれで話しは終わリでいいな。サウザン子爵家への対応は、各々で行う。では、帰ってくれるかね」

 背を向けかけた伯爵に向かって、マーシャが叫んだ。

「いつもソフィにばかり良くしてひどい。お兄様だってアトレーを私に紹介してくれたら良かったじゃないの。
 私は田舎の子爵家に嫁がさせられたのよ。遊ぶ場所もないところに」

 ランス伯爵が振り向いた。

「お前がそんなだからだ。何度も言い聞かせただろう。貴族社会のルールを学ばないなら、貴族の家に嫁がせられないと」

 そして疲れたように言った。

「それでも、できれば貴族の家に嫁がせてやろうと、大丈夫そうな相手を選んだのに、何の意味も無かったな」

 マーシャは怒りで真っ赤になって叫んだ。

「私は、アトレーと再婚するんだから。
 後で後悔しても、孫には会わせてあげないわよ。それにゲート伯爵家のほうが格上なのよ、残念ながら」

 溜息をついて、グレッグがアトレーに尋ねた。

「仕事、解雇されたんだろ。出世の道が閉ざされたな」

「ああ、昨日、解雇された」

「え、なぜなの?」

「君のせいだ。馬鹿は要らないそうだ」

 グレッグが焦れたように言った。

「まだ理解していないのか。お前のやったことは貴族社会では認められないんだよ。もうまともな家からは相手にされない。たぶん子供達も厳しいだろうな。可哀想に」

「なぜよ。わからないわ。子供を洗礼式に連れて来ただけじゃない」

「すぐにわかるよ。お前はアトレーと子供を道連れに、貴族界から脱落したんだ。友人達も、もうそっぽを向いているだろうな。平民として働いたらどうだ」

「馬鹿な事言わないで!」

「もう良いだろう。早く出て行きなさい」

 ゲート伯爵家の一同は追い出すように邸から出された。

 伯爵夫人はこのままマーシャを置いて行こうと言ったが、泣き叫ばれて結局馬車に載せてしまった。マーシャだけならいいが、アトレーの息子が一緒だ。
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