氷の貴婦人

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届いた三通の手紙

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「とにかく、手紙を送って、彼女を、実家で引き取ってほしいと連絡しましょう。ずっといられたら困るわ」

 その場はそれで終わり、各自部屋に戻って気持ちを落ち着かせようと言うことになった。


 その翌朝、早いうちに三通の手紙が届いた。

 1通目の手紙は王宮から、アトレー宛のものだった。すぐにアトレーに渡し、中を改めさせた。
 見たくないが、見ないわけにもいかない。内容はやはり、現職からの異動の件だった。明日執務室に出向くよう書かれている。

 次にサウザン子爵家からの手紙を開封した。
 離婚届と廃籍届、事由書の控えが同封されていた。ランス伯爵家が手続きを手伝い、早急に進めていく予定だと書かれていた。慰謝料に関しては後日弁護士を挟んで連絡するそうだ。

 最後にランス伯爵家からの手紙を開けた。離婚届が入っていた。こちらに記入し、すぐに手続きを進めて欲しいと、書かれている。
 肝心のマーシャの処遇に関しては全く触れていない。

 朝からこの三通の手紙を読むのはきつく、伯爵夫妻とアトレーは疲れ果てた。

「食事にしましょうか」

 夫人が言い、食堂に向かった。
 マーシャ達の分は部屋に届けるように侍女に言いつけてある。彼女達の面倒を見る係を決めようと思ったが、使用人達も不愉快そうな様子だったので、三人でローテーションを組むことにした。

 食堂でホッとしたのも束の間、何故かマーシャとマックスがやって来た。

「食事を部屋に運ばせたはずだけど?」

 マーシャが、しおらしい様子を作って、子供を前に出した。

「二人きりでは寂しいですし、この子が父親に会いたがるので、参りました」

「父親は昨日までザカリー・サウザンだったでしょ。まさか昨日の今日で、もうアトレーをお父さんと呼ばせる気なの?」

「だって本当のお父さんですもの」

 呆れたが、マックスがキースに寄っていき、隣に座って話し始めたので、執事に席を用意させるしか無い。

 キースの向こう側の末席が用意されると、不服そうにアトレーの横でないなんて、と独り言を言ったが、皆、無視した。

 マーシャにしてみたら、結婚生活が破綻しているアトレーに、救いの手を差し伸べてあげたつもりだ。しかも嫡男というプレゼント付きで。
 感謝されると思い込んでいたので、今の状況が不思議でならない。

 昨晩もアトレーを待っていたのに、全く姿を見せなかった。友人達も、応援してくれているのに、何も報告出来ないじゃないの。なんてことでしょう。


 おまけに目玉焼きは焼き過ぎだし、ベーコンは今一つだし、気分が悪い。

 マックスがジュースのカップをひっくり返すと不機嫌が更にアップした。

「何しているの。ちゃんと持ちなさい」

「だって、いつものカップじゃないもん。持ちにくい」

 侍女がさっと片付けてくれた。

「さすが伯爵家ね。侍女の教育がいいわ。子爵家ではこうはいかないんですよ。ひどいったらないの」

 夫人は冷めた目でマーシャを見ていた。使用人の教育は女主人の仕事だ。自分のことを自分で貶しているようなものだ。

 この女、馬鹿なのね。そう思うと、その馬鹿に手を出した息子と、すっかり嵌められた自分たちに更に腹が立って仕方がない。


 伯爵がマーシャに今後の予定を尋ねた。

 マーシャはきょとんとしている。

「勿論ここに住みますよ。アトレーの生涯の恋人で、嫡男と、その母ですもの。
 当たり前でしょ」

「嫡男って、何のことなの?」

「だって、マックスの方がキースより数日誕生日が早いわ。長男でしょ」

 合っていると言えば合っているが、そんな理屈が通るものだろうか?


「改めて、ランス伯爵家と相談の席を設けよう。それまで部屋で静かにしていてくれ」

 ゲート伯爵がそう言って、この会話を打ち切った。

 部屋を出るときにマーシャがアトレーに近寄り、体を摺り寄せて部屋に誘ってきた瞬間、ぞわっと寒気が襲う。
 ソフィもこんな気分だったのだと、身をもって知ったのだった。


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