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従姉たちから聞いたスキャンダラスなうわさ話
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人気のない場所でゆっくり話しましょうということになり、庭の東屋で昼食を摂ることになった。
周りを花が埋め尽くすロマンティックな庭園の端っこに位置していて、知らない人には、なかなか見つけられない場所だそうだ。
使用人に昼食の支度を頼み、敷物やクッションを置いてくつろげるようにしてもらった。
部屋に戻って着替えた際に、侍女のノーマにしっかりお小言を言われた。ノーマは小さい頃からマチルダ専任の侍女をしているため、言葉に遠慮がない。
昨晩はミシェルとあちこち移り歩いて、結局ミシェルの部屋に泊まり込んでしまったと言いつくろっておいた、
東屋でミシェルと向き合うと、食事の合間に早速質問が飛んできた。
「なんで、ロイドの部屋に行ったの」
「階を間違えたみたい。酔っていたので、ぼんやりしていたのでしょうね。
部屋に入ったらベッドにルークが潜り込んでいたの。だから私、ドレスを脱いでベッドに入ってルークの頭を撫でながら眠ったの」
ティーポットからお茶を注ぎ、ミルクを垂らす。シュガーは一匙だけ。
「それが、ロイドだったってこと? でも、やっちゃったわけでしょ」
「少しだけ思い出したのだけど、すごく甘やかされて、可愛がられたような覚えがあるの。小さな子供のようにね。すごく幸せな気分になったわ」
「ほお~。それで痛くなかった?」
「う~ん、痛かったような気がするけど、やっぱり、よしよしってされて、うれしかったような? あまりはっきりとは覚えていないのよ」
ワッフルにベーコンと半熟の目玉焼きを載せ、ナイフで切って口に運ぶ。
溶けてトロッと垂れる黄味が濃厚でおいしい。
「じゃあ、悪くはなかったのね。さすが、噂は伊達じゃないってことね。で、この先、彼と付き合う約束とかしたの?」
「ううん、彼が寝ているうちに急いで逃げてきたから、何も話していないの。私の名前すら知らないと思うわ」
ピクルスを口に放り込むと、酸味で口の中がすっきりする。
「……それじゃあ、彼にとったら、知らない女、しかも処女が突然夜這いをかけてきて、そのまま名も名乗らずに逃げたってことね。目覚めたときにどう思ったか、聞いてみたいものだわ」
「やめてよ。やっぱり変な女よね。絶対、顔を合わせたくないわ」
気分が落ち込んだので、お茶にシュガーを二匙追加して飲んだ。甘味で気持ちが少し落ち着いた。
「無かったことにする? でも、あちらはマチルダの顔を覚えているでしょうから、何か言ってくるかもよ。女性関係が派手な男だし、このまま無視はないと思うわ」
「私は遊びで付き合える程、軽い性格じゃあないわ。あれは事故よ。
あれは、ちょっとした手違いから起こった事故でした。忘れてくださいって言えばいいかしらね」
「いいのじゃない? でも未練はないの? とびっきりのいい男だし、幸せだったのでしょ」
「こんなの本当のお付き合いじゃないもの。すぐ忘れるわ」
お茶をもう一杯注ぎ、シュガーをはじめから三匙分入れて飲んだ。
「ねえ、じゃあ何で泣いているの?」
言われて頬を触ると涙が出ていた。驚いたが、すぐに理由に思い至った。
なぜって、朝のキスがあんまり優しかったから。あんな風に愛される人が羨ましいと思ってしまったから。そして、とてもかなわない望みだと知っているから。
「なんでもないわよ」
「ふ~ん」
そこにミシェルの従妹たちがやってきた。
従姉のナンシーとリンダは、もう食事を済ませているので、お茶だけいただくわと言ってお茶とクルミのクッキーを摘まんだ。
何か浮き浮きした様子だ。
「ねえ、昨日の夜会で面白い事件があったのよ。ロイドの件、もう聞いている?」
ミシェルとマチルダは顔を見合わせた。
ミシェルがマチルダに頷いて見せてから言った。
「私達、さっき起きたばかりで、今朝食を兼ねた食事中なの。何かあったの?」
「私が話していい?」
「あら私の方が先に聞いてきたのよ」
「じゃあ、半分ずつね」
「二人は、ミリアム・ユースタス嬢って知っているかしら。それと、ロイド・スミスは知っているわよね」
「もちろんよ。美人で有名な社交界の華でしょ。特別に話したことはないけど。その方がロイド・スミスと何かあったの?」
「それがね」
と言って、ナンシーは急に声を潜めた。
「媚薬を使って既成事実に持ち込もうとしたのですって」
「なに、それ。それで、どうなったの?」
「失敗したのよ」
そこで、じらすようにゆっくりお茶を飲んだ。
「ちょっと、早く先を教えてよ」
「ダンスの後にカクテルを渡して、そこに薬を仕込んだの。暗示にかかりやすくなるタイプの媚薬ね。それで、あろうことか、母親のユースタス夫人が彼に『今から初夜ですよ。私が寝室までご案内します』って言って、娘の元へ連れて行こうとしたのですって」
ナンシーとリンダはキャーッと声を上げた。
リンダがその後を続けて話した。
「ところが、ロイドは途中でユースタス夫人の手を振り切って、逃げてしまったの。おかげでスケスケの夜着で待っていたミリアムは見事にすっぽかされたわけ」
もう、全然小声ではなくなっていた。でも、ここには人が来ないから、いいのかしらね?
周りを花が埋め尽くすロマンティックな庭園の端っこに位置していて、知らない人には、なかなか見つけられない場所だそうだ。
使用人に昼食の支度を頼み、敷物やクッションを置いてくつろげるようにしてもらった。
部屋に戻って着替えた際に、侍女のノーマにしっかりお小言を言われた。ノーマは小さい頃からマチルダ専任の侍女をしているため、言葉に遠慮がない。
昨晩はミシェルとあちこち移り歩いて、結局ミシェルの部屋に泊まり込んでしまったと言いつくろっておいた、
東屋でミシェルと向き合うと、食事の合間に早速質問が飛んできた。
「なんで、ロイドの部屋に行ったの」
「階を間違えたみたい。酔っていたので、ぼんやりしていたのでしょうね。
部屋に入ったらベッドにルークが潜り込んでいたの。だから私、ドレスを脱いでベッドに入ってルークの頭を撫でながら眠ったの」
ティーポットからお茶を注ぎ、ミルクを垂らす。シュガーは一匙だけ。
「それが、ロイドだったってこと? でも、やっちゃったわけでしょ」
「少しだけ思い出したのだけど、すごく甘やかされて、可愛がられたような覚えがあるの。小さな子供のようにね。すごく幸せな気分になったわ」
「ほお~。それで痛くなかった?」
「う~ん、痛かったような気がするけど、やっぱり、よしよしってされて、うれしかったような? あまりはっきりとは覚えていないのよ」
ワッフルにベーコンと半熟の目玉焼きを載せ、ナイフで切って口に運ぶ。
溶けてトロッと垂れる黄味が濃厚でおいしい。
「じゃあ、悪くはなかったのね。さすが、噂は伊達じゃないってことね。で、この先、彼と付き合う約束とかしたの?」
「ううん、彼が寝ているうちに急いで逃げてきたから、何も話していないの。私の名前すら知らないと思うわ」
ピクルスを口に放り込むと、酸味で口の中がすっきりする。
「……それじゃあ、彼にとったら、知らない女、しかも処女が突然夜這いをかけてきて、そのまま名も名乗らずに逃げたってことね。目覚めたときにどう思ったか、聞いてみたいものだわ」
「やめてよ。やっぱり変な女よね。絶対、顔を合わせたくないわ」
気分が落ち込んだので、お茶にシュガーを二匙追加して飲んだ。甘味で気持ちが少し落ち着いた。
「無かったことにする? でも、あちらはマチルダの顔を覚えているでしょうから、何か言ってくるかもよ。女性関係が派手な男だし、このまま無視はないと思うわ」
「私は遊びで付き合える程、軽い性格じゃあないわ。あれは事故よ。
あれは、ちょっとした手違いから起こった事故でした。忘れてくださいって言えばいいかしらね」
「いいのじゃない? でも未練はないの? とびっきりのいい男だし、幸せだったのでしょ」
「こんなの本当のお付き合いじゃないもの。すぐ忘れるわ」
お茶をもう一杯注ぎ、シュガーをはじめから三匙分入れて飲んだ。
「ねえ、じゃあ何で泣いているの?」
言われて頬を触ると涙が出ていた。驚いたが、すぐに理由に思い至った。
なぜって、朝のキスがあんまり優しかったから。あんな風に愛される人が羨ましいと思ってしまったから。そして、とてもかなわない望みだと知っているから。
「なんでもないわよ」
「ふ~ん」
そこにミシェルの従妹たちがやってきた。
従姉のナンシーとリンダは、もう食事を済ませているので、お茶だけいただくわと言ってお茶とクルミのクッキーを摘まんだ。
何か浮き浮きした様子だ。
「ねえ、昨日の夜会で面白い事件があったのよ。ロイドの件、もう聞いている?」
ミシェルとマチルダは顔を見合わせた。
ミシェルがマチルダに頷いて見せてから言った。
「私達、さっき起きたばかりで、今朝食を兼ねた食事中なの。何かあったの?」
「私が話していい?」
「あら私の方が先に聞いてきたのよ」
「じゃあ、半分ずつね」
「二人は、ミリアム・ユースタス嬢って知っているかしら。それと、ロイド・スミスは知っているわよね」
「もちろんよ。美人で有名な社交界の華でしょ。特別に話したことはないけど。その方がロイド・スミスと何かあったの?」
「それがね」
と言って、ナンシーは急に声を潜めた。
「媚薬を使って既成事実に持ち込もうとしたのですって」
「なに、それ。それで、どうなったの?」
「失敗したのよ」
そこで、じらすようにゆっくりお茶を飲んだ。
「ちょっと、早く先を教えてよ」
「ダンスの後にカクテルを渡して、そこに薬を仕込んだの。暗示にかかりやすくなるタイプの媚薬ね。それで、あろうことか、母親のユースタス夫人が彼に『今から初夜ですよ。私が寝室までご案内します』って言って、娘の元へ連れて行こうとしたのですって」
ナンシーとリンダはキャーッと声を上げた。
リンダがその後を続けて話した。
「ところが、ロイドは途中でユースタス夫人の手を振り切って、逃げてしまったの。おかげでスケスケの夜着で待っていたミリアムは見事にすっぽかされたわけ」
もう、全然小声ではなくなっていた。でも、ここには人が来ないから、いいのかしらね?
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