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本編

4.

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「阿呆」

 黒岩家に戻ってきたガンさんと黒狐は、魔法陣から動けない烏天狗に対して歓喜・頭を抱えるなど各々違う行動を見せたが、結局は黒狐の放った一言に集約された。
 お父さんはそのまま家でお母さんとお話し合いをしているとか。
 ちなみに烏天狗は家主が戻ってくるまで放置だった。
 だって光さんがご飯とお風呂準備してくれてたから。
 オムライスでした。うまうま。

「ゆうちゃん、見ててごらん」
 ガンさんが手招きするので魔法陣に近寄ってみる。
 うっかりこけても陣に触れない程度の位置で立ち止まると、黒狐に抱き上げられた。目線がガンさんと近くなる。
 近過ぎると何かやらかすと思われてるんだろうな、捕獲ですね知ってます。
「早く解放してくれ!」
「うん、ちゃんと魔法陣からは解放してあげるよ」
 魔法陣から『は』。

 ガンさんのお嫁さんが増えたって三丁目の広報の小母様に伝えておくかな。

 結論。烏天狗はめでたくガンさんのモノになりました。
「オイ、言い方」
「まちがってないもん」
 正確には光さんと同じくガンさんを主人として主従契約が結ばれた、であるが。
「おなかに絵が浮かぶんだね」
「私とは少し違いますね」
 光さんの契約紋は逆三角形に蔦が絡んだような形。
 烏天狗の契約紋も蔦が絡んだ逆三角形ではあるが、上の頂点二つから下の頂点に向かって楕円が重なる形だった。
 黒狐は眉間に皺を寄せ、何かを思い出そうとしているようだ。
 でもお腹、臍より下だから下腹部か。ラノベかな、下腹部の契約紋で有名なのがあった気がする。

「……イン紋?」

 いんもん。
 淫紋? あ、それかも。

「くろしゃん、いんもんってなに?」
 自分が知ってるものと同じか分からないから聞いたら、周囲が凍ったように動きを止めた。
 何で?

「「「くろしゃん!?」」」
「ちょっと待て何だその呼び名!」
 あれ、みんなそっちに反応するんだ。
「ゆうちゃん、ひょっとして彼の名前知らなかったのかい?」
「うん」
 だって教えてもらってないし。普通は視えない存在だし。
 狐さん、で大体分かってもらえたし。
「あー、確かに俺も『九尾の』って呼んでるわ」
「精霊間では『神社の御方』、と呼ばれてますね」
「そういえば僕も『神社の』で済ませてるかな」
 誰も名前で呼んでないらしい。
 御狐様、お名前なーに?
「……後でな」
 今教えてくれても良いのに。
 ぷくっと膨れると、髪の毛ぐしゃぐしゃにされた。
「お前、眠いなら寝とけ」
「ねむくないもん」
 やめて、一定のリズムでぽんぽんしないで寝ちゃうから。
 欠伸見られてない筈なのになぜバレた。


 淫紋じゃありませんでした。

 ガンさんが持ってる魔法書には、しっかりはっきり『この契約紋の形は単なる嫌がらせである。』と書かれていた。
 過去に何かあったんだろうか、この作者。
「まほーしょ、まだあるの?」
「あるよ。ほら、この棚に入ってるの全部そう」
「これだけの量、どうやって集めたんだか」
 ガンさんが示したのは襖一枚分の大きさの書棚。其処に収められている本全てが魔法書らしい。
 ほほう。
「……おい、ガン。ゆうが触らないように厳重にしまっとけ」
「「えー」」
「駄目だ」
 ガンさんがこれまでにやらかしたあれこれを例に、駄目な理由を挙げられる。
 確かに今の自分では何かあっても対処出来ない。仕方ない、今は諦めよう。
 そう決めてしまえばまた欠伸が出た。

「ほら、もう良いだろう。寝ろ」
「うー」
 愚図ってももう眠気の方が強いらしく。
 柱時計の鐘が鳴るのを聞きながら、黒狐の腕の中で目を閉じた。





***

「ねこさん、いんもんってなに?」
「インモン? ああ、陰紋か」
 ご町内でも物知りな猫又曰く、『陰紋』とは呪いのようなものだという。
「呪いなんて怖いもの、ゆうちゃんは近付くんじゃないよ」
「はーい」
 何だ、淫紋じゃなかったか。


「狐、ひとつ貸しだよ」
「……。」

 子供は知らなくて良いものもある。


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