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カモフラージュ
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鳥の姿から魚の姿へ見事な変身を遂げたものもいれば、完全には魚になりきれずに息絶えるものもいた。僕はそんな光景を目の当たりにしていたが、それが自然の厳しさというものだと納得した。
水が清らかで澄んでいる。鳥の方が自由な気がするが、魚に変身する必要はあったのだろうか。サケ科に属する淡水魚であるイトウより体長は大きかった。むしろ、不便になったのではあるまいか。外敵から身を守るために予想外の変化をして、外敵の目を欺いているのかもしれない。
僕は息絶えた魚である鳥の傍まで近寄ると、追悼の意を込めて黙祷をした。大きな岩があるのに、不器用なこの生き物は、方向転換することができずに衝突をしたのだ。
頬からは涙が流れていた。なぜだろう。僕もこの生き物と関係があるのか。黙祷が終わると、ある女性の姿が目に留まった。彼女も事の一部始終を見ていたのか涙を流しており、妙な親近感を覚えた。
※
魚に変化を遂げる鳥は、関係者の間では非常に高値で取引きされていた。
「何。猟銃でその鳥を追っていたが、見失なったって?」
「弾が入っているか確認しようとして少し目を離しただけですよ」
「畜生!それで、再び空を見上げた時には、鳥はいなかったってわけか」
「そうです」
その鳥の捕獲組織のメンバーの一員は、団長から叱責をくらっていた。
「ではなぜ、そのことを直ちにわしに報告しなかったんだ」
メンバーは必死に弁明していたが、団長の表情はますます険悪になった。
「団長、でもこれだけは言わしてください。あのわずかな隙にいなくなることは、何か別のものに姿を変えるかしないと、あり得ない話ですよ」
「馬鹿者。まだ言いわけをするつもりか。お前が一番捕獲数が少ないんだから、もっと頑張ってもらわなければ、クビにしちまうぞ」
※
僕と彼女はお互い軽く抱き合うと、しばらく魚に変化をした鳥の死骸を見つめていた。
「鳥は魚だけに変化するのだと思う?」
彼女が唐突に聞いてきた。
「どうだろう。他にも変化できるのなら、いろいろな生き物に姿を変えると思うよ」
「例えば?」
「僕なら、追われている外敵そのものに変身するだろうな。捕獲する方は、まさか自分たちと同じ姿に変化しているなんてことはよもや考えないからね」
「あなたなかなか賢いわね。なら、私たちがその鳥である可能はあるかしら」
「仮に外敵が人間ならば、その可能性は大いにあるね」
彼女は僕の方に顔を向けてきた。その瞳は大きく、鳥が魚に姿を変えて飛び込んだ川の水のように澄んでいた。
水が清らかで澄んでいる。鳥の方が自由な気がするが、魚に変身する必要はあったのだろうか。サケ科に属する淡水魚であるイトウより体長は大きかった。むしろ、不便になったのではあるまいか。外敵から身を守るために予想外の変化をして、外敵の目を欺いているのかもしれない。
僕は息絶えた魚である鳥の傍まで近寄ると、追悼の意を込めて黙祷をした。大きな岩があるのに、不器用なこの生き物は、方向転換することができずに衝突をしたのだ。
頬からは涙が流れていた。なぜだろう。僕もこの生き物と関係があるのか。黙祷が終わると、ある女性の姿が目に留まった。彼女も事の一部始終を見ていたのか涙を流しており、妙な親近感を覚えた。
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魚に変化を遂げる鳥は、関係者の間では非常に高値で取引きされていた。
「何。猟銃でその鳥を追っていたが、見失なったって?」
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「畜生!それで、再び空を見上げた時には、鳥はいなかったってわけか」
「そうです」
その鳥の捕獲組織のメンバーの一員は、団長から叱責をくらっていた。
「ではなぜ、そのことを直ちにわしに報告しなかったんだ」
メンバーは必死に弁明していたが、団長の表情はますます険悪になった。
「団長、でもこれだけは言わしてください。あのわずかな隙にいなくなることは、何か別のものに姿を変えるかしないと、あり得ない話ですよ」
「馬鹿者。まだ言いわけをするつもりか。お前が一番捕獲数が少ないんだから、もっと頑張ってもらわなければ、クビにしちまうぞ」
※
僕と彼女はお互い軽く抱き合うと、しばらく魚に変化をした鳥の死骸を見つめていた。
「鳥は魚だけに変化するのだと思う?」
彼女が唐突に聞いてきた。
「どうだろう。他にも変化できるのなら、いろいろな生き物に姿を変えると思うよ」
「例えば?」
「僕なら、追われている外敵そのものに変身するだろうな。捕獲する方は、まさか自分たちと同じ姿に変化しているなんてことはよもや考えないからね」
「あなたなかなか賢いわね。なら、私たちがその鳥である可能はあるかしら」
「仮に外敵が人間ならば、その可能性は大いにあるね」
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