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プロローグ

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ーーーああ、そうか。俺はここで終わるのか。


自分の胸に突き刺さった黄金に光輝く聖剣をぼんやりと眺めながら、俺は自分の敗北を認めていた。


心臓に聖剣を突き立てられては、もはやどうあがいても俺は助からない。


まだ俺に意識があるのは俺がアンデッドとしての高い不死性を有しているからに過ぎず、その不死性も勇者の強力な神聖魔法に長時間耐えられるものではない。


俺は必死に聖剣も持つ勇者と名乗った淡い金色に光り輝く青年を射殺さんばかりに睨みつけるが、もはやその行為に意味などなく、彼があと少し力を入れるだけで俺の意識は消滅するだろう。



勇者のことは昔から知っていた。

魔王様さえも滅ぼす神聖魔法を使い、数万人に一人しか発現しない固有魔法を複数持っている世界の守護者であり、
かつて何度も世界を救ったという....おとぎ話の中の英雄のとして。


曰く、勇者の神聖魔法は魔王さえ一撃で滅ぼす。

曰く、勇者は複数の固有魔法を行使する。

曰く、勇者は世界の窮地に必ず現れる。



人族のおとぎ話に出てくる救世の英雄であり、現実にそんな存在がいることなどありえないと、ずっとそう思っていた。


しかし、魔王軍が人族の国を9割以上支配し世界征服まであと一歩というところで、勇者は現れた。


現れて、しまった。



「これで終わりだ、外道」



勇者が吐き捨てるように呟くが、外道はお前のほうだろうと俺はそう思わずにはいられない。


散々俺たちの仲間を、多くの種族を殺しておいて、迫害しておいて、反撃されたら俺たちを悪者扱いか。


救世の英雄などと言いながら、人族しか救わない外道はお前だろうが...


魔王様はこのいけ好かない男に勝てるのだろうか。


この男に打ち勝って魔族の...俺たちの未来をつかみ取れるのだろうか。


認めたくはないが、この男の戦闘能力は常軌を逸している、きっと厳しい戦いになるだろう。




このまま消えるのだとしても、せめて...


「く、くはははっ...やるではないか勇者よ...」


突然話しかけられた勇者が驚いたようにその蒼い瞳を見開く。


俺は戦闘中はもちろん、勇者が自分の名前を名乗った時も言葉交わさなかった。


そんな男が消滅寸前に命乞いならばともかく、自分を称えるような言葉をかけてきたのだから驚くのも無理はない。


歴戦の戦士ならば敵の言葉に耳を貸すことなどないのだろうが、この勇者は...おそらくこれが初陣だ。


こんな化け物がいることが分かっているならば、魔王軍の四天王である俺には通達が来ているはず。


だから、この男はこれが初陣だ。初陣で魔王軍四天王の一人を打ち取ったのだ。



こいつをこのまま野放しにしてはいけない。魔王様と戦うまでにどれだけ成長するかわからない。



「俺を倒した褒美にいいことを教えてやろう...」


俺は心にも思っていない言葉をなんとか紡ぎながら、魔生最後の魔法を発動するために闇の魔力を練り上げる。


万が一にも勇者にバレないように、ゆっくりと、ゆっくりと...


「所詮俺は四天王最弱...魔王軍には俺より強いやつが魔王様を含め4人いる...」


嘘だ。俺は四天王最強だったし、魔王様が相手でも数分なら拮抗できるほどに強かった。魔王軍の中で魔王様の次に強い、そのことは俺の誇りでもあった。


しかし...そんな俺の言葉を聞いた勇者の顔にはどこか納得したような雰囲気があるった。



ああ、そうかよ


お前からすれば、俺はそんなに弱かったか


魔王様から強さを認められ、四天王の座を与えられたこの俺を...


お前は、弱いと感じたのか




「この4人の中でも魔王様は特に別格だ。具体的には俺の100倍の魔力を持っていて...」




必死に魔力を練り上げる。



一つの魔法に残りの魔力をすべて注ぎ込む。



どうせこれが最後の魔法だ惜しくはない。




だが、それでも足りない、おそらくこの程度では勇者に対して無意味だ。


ゆえに、俺は自分の魂を魔法の代償として闇の神々に捧げる。


魂を代償にすれば代償として捧げた魂は消えてなくなり輪廻の輪には帰れなくなってしまう。


だが、魂を代償にした魔法は強力だ。


死霊術師として長年鍛えあげてきた己の魂をたった一つの魔法に使えば効果は著しく上昇するだろう。


愚かにも俺の次の言葉を待っている愚かな勇者に口を開く。


俺の最後の魔法、いままで積み上げてきたものすべてを掛けた魔生の集大成。



『生れ落ちろ、終焉の骸よ』



魔法の発動と共に俺の体から、どろりとした闇があふれだす。


闇がぶくぶくと沸騰し赤黒い血の色に変わり...


変色した闇の中で、巨大な骸の瞳が、鮮血のような赤い光を灯したのが見えた。



「はっ ざまあみろ...」


意識が次第に遠のいていく



変色した闇の中から這い出る巨大な骸と入れ違いになるように


俺の魂が闇に沈んでいくのがわかる


もう魔王様に... あの生意気な少女に二度と会えないのだと思うと少し寂しくなる


あぁ、最後にもう一度...顔を見たかったなぁ...


そんなくだらないことを考えながら、


俺の意識は...


意識は...



勇者の体が黄金に光り輝き、その莫大な光が巨大な骸を包み込むのを
どこか他人事のように眺めながら、


闇に消えた。

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