上 下
21 / 22

21.200余年と <終>

しおりを挟む
 
   …✮…♱…✮…


 神の御名の前で永遠を誓うキスをした人間のフィーリーと堕天使のままのセムは、冒険者として何年も何十年すごして──。子宝には恵まれなかったけれど、代わりにたくさんの孤児みなしごの親になった。
 冒険者をやめ、子供たちを育てているフィーリーの青い髪に白髪が混じり始めた頃でも、セムは金髪の青年で、黒い翼をいつも背負っていた。
 歳を取らず姿が変わらないセムを、人々は耳が短いハイエルフの変わり者だと思っている──らしい。


 そして。

  :
  :

 そして────。

  :

 今年もハロウィンがやっていた。
 ハロウィン特別フィールドのアルファでは、今年も駆け出しの冒険者パーティたちが、ハロウィン仮装をした低級モンスター相手に苦戦したり、善戦したり。
 そのなかの1つのパーティが戦闘後に揉めていた。皆、駆け出しの冒険者のようで、ハイティーンになりたてが多い。そのうちの一番年嵩の少年が激怒している。周りのメンバーは困惑していた。

「だぁぁぁぁっ! もー! くそったれ! おまえみたいなトンチキ、白魔法使いやめちまぇ!」

 怒鳴られている少女は、青い髪のショートボブだ。それ以外は、白魔法使いらしく初級魔導法衣ローブに身を包んでいるが、腰の両脇に短剣ナイフを下げている。見ようによっては盗賊見習いみたいだ。

「あたしが悪いわけないじゃん。あんたらがちんたらしてんのが悪いんだろがい」

「だからって魔法使いが前線に出たら危ねぇだろ! 常識ってものにスキル振れや!」

「うっさいなぁ。こっちは剣も拳も使えるって言ってたろが。あほみたいな采配する方がダメダメのダメダメなんだ」

「パーティリーダーの命令違反だぞ! おめぇみてぇな白魔法使いはクビだ、クビ! これだから不吉の青い髪は。あーいやだいやだ」

 さすがに生まれ持った外見を貶されて、少女はキッっとパーティリーダーを睨んで声を張り上げた。

「ばぁぁぁか! 見た目なんて関係ないだろ! こっちからやめてやらぁ! あとで吠え面かけ!!」

「まあまあ、落ち着いて」

 パーティリーダーを殴ろうとした白魔法使いの少女は、仲裁に入った大人の男を睨む。金髪の優しい顔立ちのイケメンで装備が高級そうだ。でも、背中に黒い翼を背負っている。ひと足早いハロウィン仮装をしているのだろうか。

「赤の他人はすっこんでろよ。もうこのダメアホカスリーダーが率いる可哀想なパーティとは赤の他人の他人の集団だけどね」

 少女はべーっと舌を出す。パーティリーダーは、顔を真っ赤にしてかんかんに怒っている。駆け出し冒険者たち、子供ハイティーンのケンカというより、ローティーンのケンカだ。
 ぷいっと顔をそらしたお互いが、反対の方向に大股で歩くく。
 しばらく大股で歩いていた少女は、隣を歩いている男を見上げる。向かう方向が同じにしては、歩幅を合わせているのが気になった。

「……で、おじさん誰よ。それ……白金のバッジ……? えー! すごーい!」

 少女は男のマントに着いている白金のバッジを見て目を丸くさせた。数える程しかいない、SSS級の冒険者をこんなところで見たのだから、驚くのも無理はない。

は、白金の真の探求者グランドマスターなんです。ハロウィン限定特別フィールドで、誰かとパーティを組もうかなぁと考えていたところですが……、どうです? 組みません?」

「階級もレベルも違うのに?」

「上級者と組むと、レベルが上がりますよ? それにドロップしたアイテムを売ればかなりのお金にもなります」

 普通は、レベルが似通ったもの同士がパーティを組む。そのうち大物モンスターを狩るようになれば、大隊数の人数に高レベルの冒険者が混じるようになる。それでも、SSS級冒険者は数が少ないのだから、そんじょそこらの大物モンスター狩りにはやって来ない。
 考えていて少女は、あっと思い出す。常に黒い翼を背負った変わり者のハイエルフの真の探求者がいたのを。二つ名しか知らないが、掃討の天使エンジェルダストという中二病に罹患した名前で可哀想だなと、大笑いした記憶がある。

「おじさんが得しないじゃん」

は得します。得だらけですよ。あなたがいれば、フォローしあえますから」

「ふぅん。で、なんだって、そんな黒い翼背負ってんのさ? ハロウィンの仮装じゃないんだよね?」

「パーティを組んでくれたなら、話します」

 男の背中の黒い翼。作り物には見えない。ハイエルフが考えることはよくわからない。
 少女は腕を組むが、すぐにやめた。十中八九、掃討の天使さんだろう。きっと、二つ名を出すのが恥ずかしいのだ。
 それに、少女にはここに来た目的があった。

「うーん。考えたい、って言いたいところなんだけど。あたし、フィールド・ベータに湧くオバケピエロイットが落とす偽風船がほしいんだ。手伝ってくれない?」

 偽風船を4つ。それから、碧落鷺アオアオサギの風切羽を2つ集めれば、新しい軽くて防御率が高いマントの素材が揃う。お金さえあれば。

「もちろん、よろこんで。──僕の名前はセム」

「あたしはアレクト。頼りにするよ、セムさん」

 握手をすると、セムはにっこりと嬉しそうに微笑む。思わず見とれたアレクトは、少し照れた頬を擦る。

「知っていますよ。くそったれバスタード・アレクト」

「ええ? 白金バッジの人にもケンカっぱやいの知られてんの? やだなぁ」

「でも、今のあなたのことはほとんど知らないんです」

「うん? 昔のこと知ってるみたいな口ぶり? ヤバいな。ストーカーさんと組んじゃったよ」

 ほんとうは、殿上人のSSS級の人物に名前を知られているのが面映ゆい。鼻の下を擦るくらいに。

「失礼な。ストーカーじゃないですって。フィールドでいろいろとアレクトのことを教えてください。僕のこともいろいろと知ってくれると嬉しいです」

 アレクトは「いいよ!」と笑って言い、先を元気よく歩く。そのすぐ後ろをほのぼの笑顔のセムが歩く。黒い翼をぱたぱた、犬のしっぽのように振って。

(ようやく、再会できましたね、フィーリー。いえ、フィーリーの魂に)

 フィーリーの生まれ変わりとハロウィンを楽しむために、200年と少し、待っていた。ずっとひとりで。たまにパーティに入ったりもしたが、基本的にソロだった。

『その時はさ。生まれ変わり、探してよ。また、絶対にすぐセムのこと好きになるからさ』

 アレクトは過去を知らないし、知らなくてもいい。今のアレクトに好きになってもらいたい。いや、絶対に好きになるし、好きになってもらう。
 魂が同じなだけで、フィーリーとアレクトの人格や考え方は別だ。もしも、生まれ変わりが同性であったとしても、人生のパートナーレベルで好きになる自信はあるし、好きになってもらう努力をする。

「あ、セム」

 くるりとアレクトが振り返る。短い青い髪を風になびかせて。そのキラキラとした笑顔がかわいい。

「なんです?」

「トリック・オア・トリート! はい、これ、あげる」

 見覚えのある指輪。生涯愛した人が身につけたままだった。それと同じ指輪だ。
 ふたりで一緒に作った、この世にふたつしかなかったペアリング。どうしてアレクトが持っているのか。

「生まれた時に持ってたんだって。孤児院のばーさんが言ってた」

「大切じゃ、ないんですか? 売ればお金になりますよ?」

「なんかさ。よくわかんないんだけどさ。セムさんにあげたくなったんだ。お菓子の変わり。ね? もらってよ。縁起いいよ?」

 セムは泣きたい気持ちになった。切なくて、切なくて身が引き裂かれそうなのを、アレクトは知らない。

「え? 泣いちゃうほどいや?」

「いえ。違うんです。……じゃあ、僕も」

 ペンダントをはずしてアレクトにつけた。ペンダントトップはお揃いの金の指輪。
 アレクトはしげしげと金の指輪を不思議そうに見つめている。、お揃いの指輪だったのだから。
 セムは涙を溜めたまま笑った。

「トリック・オア・トリート。いいハロウィンにしましょう」

「うん!」





  <了>



   ⋱♱⋰ ⋱✮⋰ ⋱♱⋰ ⋱✮⋰ ⋱♱⋰ ⋱✮⋰ ⋱♱⋰
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

お見合いから始まる冷徹社長からの甘い執愛 〜政略結婚なのに毎日熱烈に追いかけられてます〜

Adria
恋愛
仕事ばかりをしている娘の将来を案じた両親に泣かれて、うっかり頷いてしまった瑞希はお見合いに行かなければならなくなった。 渋々お見合いの席に行くと、そこにいたのは瑞希の勤め先の社長だった!? 合理的で無駄が嫌いという噂がある冷徹社長を前にして、瑞希は「冗談じゃない!」と、その場から逃亡―― だが、ひょんなことから彼に瑞希が自社の社員であることがバレてしまうと、彼は結婚前提の同棲を迫ってくる。 「君の未来をくれないか?」と求愛してくる彼の強引さに翻弄されながらも、瑞希は次第に溺れていき…… 《エブリスタ、ムーン、ベリカフェにも投稿しています》

絶体絶命!!天敵天才外科医と一夜限りの過ち犯したら猛烈求愛されちゃいました

鳴宮鶉子
恋愛
絶体絶命!!天敵天才外科医と一夜限りの過ち犯したら猛烈求愛されちゃいました

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

お知らせ有り※※束縛上司!~溺愛体質の上司の深すぎる愛情~

ひなの琴莉
恋愛
イケメンで完璧な上司は自分にだけなぜかとても過保護でしつこい。そんな店長に秘密を握られた。秘密をすることに交換条件として色々求められてしまう。 溺愛体質のヒーロー☓地味子。ドタバタラブコメディ。 2021/3/10 しおりを挟んでくださっている皆様へ。 こちらの作品はすごく昔に書いたのをリメイクして連載していたものです。 しかし、古い作品なので……時代背景と言うか……いろいろ突っ込みどころ満載で、修正しながら書いていたのですが、やはり難しかったです(汗) 楽しい作品に仕上げるのが厳しいと判断し、連載を中止させていただくことにしました。 申しわけありません。 新作を書いて更新していきたいと思っていますので、よろしくお願いします。 お詫びに過去に書いた原文のママ載せておきます。 修正していないのと、若かりし頃の作品のため、 甘めに見てくださいm(__)m

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

なし崩しの夜

春密まつり
恋愛
朝起きると栞は見知らぬベッドの上にいた。 さらに、隣には嫌いな男、悠介が眠っていた。 彼は昨晩、栞と抱き合ったと告げる。 信じられない、嘘だと責める栞に彼は不敵に微笑み、オフィスにも関わらず身体を求めてくる。 つい流されそうになるが、栞は覚悟を決めて彼を試すことにした。

処理中です...