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21.200余年と <終>
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神の御名の前で永遠を誓うキスをした人間のフィーリーと堕天使のままのセムは、冒険者として何年も何十年すごして──。子宝には恵まれなかったけれど、代わりにたくさんの孤児の親になった。
冒険者をやめ、子供たちを育てているフィーリーの青い髪に白髪が混じり始めた頃でも、セムは金髪の青年で、黒い翼をいつも背負っていた。
歳を取らず姿が変わらないセムを、人々は耳が短いハイエルフの変わり者だと思っている──らしい。
そして。
:
:
そして────。
:
今年もハロウィンがやっていた。
ハロウィン特別フィールドのアルファでは、今年も駆け出しの冒険者パーティたちが、ハロウィン仮装をした低級モンスター相手に苦戦したり、善戦したり。
そのなかの1つのパーティが戦闘後に揉めていた。皆、駆け出しの冒険者のようで、ハイティーンになりたてが多い。そのうちの一番年嵩の少年が激怒している。周りのメンバーは困惑していた。
「だぁぁぁぁっ! もー! くそったれ! おまえみたいなトンチキ、白魔法使いやめちまぇ!」
怒鳴られている少女は、青い髪のショートボブだ。それ以外は、白魔法使いらしく初級魔導法衣に身を包んでいるが、腰の両脇に短剣を下げている。見ようによっては盗賊見習いみたいだ。
「あたしが悪いわけないじゃん。あんたらがちんたらしてんのが悪いんだろがい」
「だからって魔法使いが前線に出たら危ねぇだろ! 常識ってものにスキル振れや!」
「うっさいなぁ。こっちは剣も拳も使えるって言ってたろが。あほみたいな采配する方がダメダメのダメダメなんだ」
「パーティリーダーの命令違反だぞ! おめぇみてぇな白魔法使いはクビだ、クビ! これだから不吉の青い髪は。あーいやだいやだ」
さすがに生まれ持った外見を貶されて、少女はキッっとパーティリーダーを睨んで声を張り上げた。
「ばぁぁぁか! 見た目なんて関係ないだろ! こっちからやめてやらぁ! あとで吠え面かけ!!」
「まあまあ、落ち着いて」
パーティリーダーを殴ろうとした白魔法使いの少女は、仲裁に入った大人の男を睨む。金髪の優しい顔立ちのイケメンで装備が高級そうだ。でも、背中に黒い翼を背負っている。ひと足早いハロウィン仮装をしているのだろうか。
「赤の他人はすっこんでろよ。もうこのダメアホカスリーダーが率いる可哀想なパーティとは赤の他人の他人の集団だけどね」
少女はべーっと舌を出す。パーティリーダーは、顔を真っ赤にしてかんかんに怒っている。駆け出し冒険者たち、子供のケンカというより、ローティーンのケンカだ。
ぷいっと顔をそらしたお互いが、反対の方向に大股で歩くく。
しばらく大股で歩いていた少女は、隣を歩いている男を見上げる。向かう方向が同じにしては、歩幅を合わせているのが気になった。
「……で、おじさん誰よ。それ……白金のバッジ……? えー! すごーい!」
少女は男のマントに着いている白金のバッジを見て目を丸くさせた。数える程しかいない、SSS級の冒険者をこんなところで見たのだから、驚くのも無理はない。
「おにいさんは、白金の真の探求者なんです。ハロウィン限定特別フィールドで、誰かとパーティを組もうかなぁと考えていたところですが……、どうです? 組みません?」
「階級もレベルも違うのに?」
「上級者と組むと、レベルが上がりますよ? それにドロップしたアイテムを売ればかなりのお金にもなります」
普通は、レベルが似通ったもの同士がパーティを組む。そのうち大物モンスターを狩るようになれば、大隊数の人数に高レベルの冒険者が混じるようになる。それでも、SSS級冒険者は数が少ないのだから、そんじょそこらの大物モンスター狩りにはやって来ない。
考えていて少女は、あっと思い出す。常に黒い翼を背負った変わり者のハイエルフの真の探求者がいたのを。二つ名しか知らないが、掃討の天使という中二病に罹患した名前で可哀想だなと、大笑いした記憶がある。
「おじさんが得しないじゃん」
「おにいさんは得します。得だらけですよ。あなたがいれば、フォローしあえますから」
「ふぅん。で、なんだって、そんな黒い翼背負ってんのさ? ハロウィンの仮装じゃないんだよね?」
「パーティを組んでくれたなら、話します」
男の背中の黒い翼。作り物には見えない。ハイエルフが考えることはよくわからない。
少女は腕を組むが、すぐにやめた。十中八九、掃討の天使さんだろう。きっと、二つ名を出すのが恥ずかしいのだ。
それに、少女にはここに来た目的があった。
「うーん。考えたい、って言いたいところなんだけど。あたし、フィールド・ベータに湧くオバケピエロが落とす偽風船がほしいんだ。手伝ってくれない?」
偽風船を4つ。それから、碧落鷺の風切羽を2つ集めれば、新しい軽くて防御率が高いマントの素材が揃う。お金さえあれば。
「もちろん、よろこんで。──僕の名前はセム」
「あたしはアレクト。頼りにするよ、セムさん」
握手をすると、セムはにっこりと嬉しそうに微笑む。思わず見とれたアレクトは、少し照れた頬を擦る。
「知っていますよ。くそったれ・アレクト」
「ええ? 白金バッジの人にもケンカっぱやいの知られてんの? やだなぁ」
「でも、今のあなたのことはほとんど知らないんです」
「うん? 昔のこと知ってるみたいな口ぶり? ヤバいな。ストーカーさんと組んじゃったよ」
ほんとうは、殿上人のSSS級の人物に名前を知られているのが面映ゆい。鼻の下を擦るくらいに。
「失礼な。ストーカーじゃないですって。フィールドでいろいろとアレクトのことを教えてください。僕のこともいろいろと知ってくれると嬉しいです」
アレクトは「いいよ!」と笑って言い、先を元気よく歩く。そのすぐ後ろをほのぼの笑顔のセムが歩く。黒い翼をぱたぱた、犬のしっぽのように振って。
(ようやく、再会できましたね、フィーリー。いえ、フィーリーの魂に)
フィーリーの生まれ変わりとハロウィンを楽しむために、200年と少し、待っていた。ずっとひとりで。たまにパーティに入ったりもしたが、基本的にソロだった。
『その時はさ。生まれ変わり、探してよ。また、絶対にすぐセムのこと好きになるからさ』
アレクトは過去を知らないし、知らなくてもいい。今のアレクトに好きになってもらいたい。いや、絶対に好きになるし、好きになってもらう。
魂が同じなだけで、フィーリーとアレクトの人格や考え方は別だ。もしも、生まれ変わりが同性であったとしても、人生のパートナーレベルで好きになる自信はあるし、好きになってもらう努力をする。
「あ、セム」
くるりとアレクトが振り返る。短い青い髪を風になびかせて。そのキラキラとした笑顔がかわいい。
「なんです?」
「トリック・オア・トリート! はい、これ、あげる」
見覚えのある指輪。生涯愛した人が身につけたままだった。それと同じ指輪だ。
ふたりで一緒に作った、この世にふたつしかなかったペアリング。どうしてアレクトが持っているのか。
「生まれた時に持ってたんだって。孤児院のばーさんが言ってた」
「大切じゃ、ないんですか? 売ればお金になりますよ?」
「なんかさ。よくわかんないんだけどさ。セムさんにあげたくなったんだ。お菓子の変わり。ね? もらってよ。縁起いいよ?」
セムは泣きたい気持ちになった。切なくて、切なくて身が引き裂かれそうなのを、アレクトは知らない。
「え? 泣いちゃうほどいや?」
「いえ。違うんです。……じゃあ、僕も」
ペンダントをはずしてアレクトにつけた。ペンダントトップはお揃いの金の指輪。
アレクトはしげしげと金の指輪を不思議そうに見つめている。なぜか、お揃いの指輪だったのだから。
セムは涙を溜めたまま笑った。
「トリック・オア・トリート。いいハロウィンにしましょう」
「うん!」
<了>
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