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20.ハピパピ♡ハロウィン③
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一緒に風呂に入ってさっぱりしたあと。フィーリーはぐびぐびビールを煽っているから、セム止めた。予想通りフィーリーが激怒した。
「人生の楽しみを奪うな! 悪魔か!」
「堕天使です。これから赤ちゃんを宿すんですから、アルコールはだめです」
「ざぁんねん。妊娠しないよ」
ちちちとフィーリーは指を振る。
「人間や動物は、らぶらぶえっちえちしたら愛の結晶を宿すでしょう?」
「まだ女学生みたいな言い方してんの?
あのね。こちとら冒険で日銭を稼いでんのよ。計画もナシに作っちゃったら、お金もないし、パーティメンバーにも悪いっしょ。セックスの後で妊娠しない魔法薬飲んでるって。
何年か遊んで暮らせるくらい稼いでからじゃないと冒険者は子育てできない。貴族じゃあるまい」
「……お金、ですか」
「貧乏暮しさせたら、子供が可哀想じゃん」
セムとて、金銭がなんなのかは知っている。品物と同等の価値を持つ貨幣と物々交換をし、持ち歩きやすいかたちの有形の財産だ。天使をしていると物欲もなければ食欲もなにもない。天使には貨幣は不必要だ。堕天使になってまだ1年。金銭欲はもちろんその他欲が薄い。ただし、フィーリーへの想いと性欲はちゃんとある。
考えているうちに、フィーリーの興味がセムの黒い翼に移る。
「天使はセックスしないの? どうやって増えるの?」
ちなみに堕天使や悪魔たちは性行為をするが、生物のようにそれで増えるわけではない。作っちゃおうと思えばできるだけで。趣味・嗜好の範疇だ。
「天使は清い身ですよ。例外もいなくはないですが、階級が違います。天使同士が恋仲になることもないですし、つがいは必要ありません。
天使が生まれる卵はありますよ」
「天使同士って仲悪いの?
ん? その卵って、神サマが産んでんの? 鳥?」
「御方が特別な雲を捏ねてお作りになる芸術です。温めてくれるのは天界にいる鳥たちなんです」
「へー。雲の粘土なの。粘土の卵なの。つまんないね、天使って。そんで、鳥があっためるから翼はえてんだ?」
なにが、そんで、なのかわからない。天界の瑞鳥たちに温められたからって翼は関係ない。
昔から天使と堕天使は翼を持っているし、同じ翼を持つ仲間と育ったから疑問に思わなかった。
「……なんなんでしょうね、翼って」
翼をはためかせて飛ぶわけではない。天使の象徴なら、堕天使になった時に黒い翼ではなく、剥奪すればいいのに。悪魔みたいなコウモリみたいな翼でもいいのでは?
「権威の象徴なんでしょ。知らんけど。邪魔じゃない?」
「なにかに引っ掛けることはないですね。仰向けになってもなんともないですし。服の脱ぎ着も透けますし」
だけど、触られる感覚はあるし、付け根をくすぐられると猛烈な快感になる。
「ふぅん」
「興味なさそう」
「今後、わたしに翼は生えないから」
「……天使になります?」
死ねという意味ではない。
「そういう変な勧誘は丁重にお断りします。わたしは冒険者ですので。
セムも冒険者になりなよ。一攫千金狙える時代じゃないけどさ、手に職は有利だよ」
フィーリーはビールをゴキュゴキュ喉を鳴らして飲む。そんなに美味しいものか? セムは薄めたワインで充分だ。ワインは血であるらしいが、個人的にはジュースかミルクがいい。天使時代の名残なのだろうか。
「就活みたいな……。
でも、人間になったら職は必要ですね。愛の結晶も生まれるわけですし。ふたりで稼げば早くお金も貯まりますよね」
「まあ、たぶん?」
「聖職者が向いてそうかなぁと、思ってるんですよ。神聖魔法も使えますし」
「聖職者だと、数年は修行するのかな。聖職者は姦淫禁止だよ」
「ええ!? 愛の結晶、作れないじゃないですか!」
「愛の結晶って呼び方やめなよ。恥ずかしいなぁ、もう。
召喚師や白魔法使いでもいいんじゃない? その魔法量が据え置きかわかんないけど。もしくは、天使のままとか?」
「天使のままだとセ……、らぶえっちできないですよ」
「じゃあ、堕天使のままでいいじゃん。死なないし。堕天使が父親の冒険者、知ってるよ」
「わあ、数奇な運命……」
「わたしとうちのパーティリーダーのオッサン」
50代になろうとしているオッサン(SS級金バッジ)のリーダーの名前がネイサンなので紛らわしい。
「身近すぎません? 後付じゃないですか?」
「青い髪、なんて、普通生まれないしょ」
堕天使とまぐわって、生まれると髪が青い。万国共通の現象。
「あ。それで不吉?」
「ともいう。損得で考えると損が多いけど、冒険者してれば別に。いろんな種族が冒険者になる世の中だしさ。獣人や亜人もいっぱいいるよ。ハイエルフとは会ったことないかな。堕天使もハイエルフみたいなもんじゃない? めったに見るもんじゃないし。寿命長いんだしさ。SSS白金級バッジの冒険者憧れ・真の探求者だって夢じゃないよ」
「そうなったら、先に……」
先に老いて死ぬのは、人間のフィーリーだ。
セムが黙ってしまった理由がわかったのか、フィーリーは、ビール片手にえへへと笑った。
「その時はさ。生まれ変わり、探してよ。また、絶対にすぐセムのこと好きになるからさ」
あっけらかんと言って。
置いていかれる身にもなれよ。だけど、それもいい気がした。魂は不滅だとされるけど、器はいつか朽ちる。命ある生き物ならば、なおのこと。
セムは潤んだ目を擦る。何度擦っても目の前のフィーリーが滲んでしまう。
「そうだ。結婚式はハロウィン当日の31日にしよう。ライスシャワーの代わりにお菓子まいてさ。楽しいよ?」
「仮装して?」
「いいね。わたしがタキシードで、セムがウェディングドレス、とか?」
「そこは、普通にしましょうよ。僕はフィーリーのウェディングドレス姿が見たいです」
「31日までに用意できたらね」
フィーリーは楽しそうに笑いながら、セムの涙をキスで拭うのだった。
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