2週間と200余年と。出会って変わったふたりの始まり。~ハロウィンダンションで

なかむ楽

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16.しからば、ごめん①

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 最後の青白く光るクッキー缶。オバケカボチャとドクロのマーク。即死系の特殊攻撃かもしれない。セムは死なないからよしとして、フィーリーは対策で亜空間から精霊の加護のネックレスを取り出した。即死回避率は25%。運が悪かったら特殊攻撃がヒットする。

「……白魔法使いにジョブチェンジしようかなぁ。神聖魔法が心もとないわ」

 ひとりごと。セムがいないとか、考えない。考えたくないから、大剣をかまえた。

「セム、開けて」

 休憩した方がいいと顔に書いたまま、セムは最後のクッキー缶を開けた。
 5回目の見飽きた閃光とともに、ポーンと飛び出てきたのは──。

「なんじゃ、こりゃ!?」

 ロリっ子じゃなかった。3m以上はあろうかというガチムチつやつやゴリマッチョ。ビキニパンツがお似合いの。筋肉国宝級の黒光りするマッチョがサイドチェストしているが、頭はオバケカボチャそのものである。

「キレてるよ! キレてるよ!」

 つい掛け声を発してしまった。
 ゴリマッチョジャック・オー・ランタンは、肩に大砲搭載であった。リアルに大砲を乗せているマッチョに「肩にでっかい大砲乗せてんのかい!」と言ってしまいそうだ。

『トリック・オア・トリート! いたずらしてくれないといたずらしちゃうぞ☆』

「声かわゆ!」

 声はロリっ子だった。なぜ。なぜなんだ。キモい。
 ポカンとしていたセムは、ようやく我に返った。男のムキムキの黒光りケツが目の前にあるんだから、男のセムにはキツい絵面だ。

「あ、あ、悪魔!」

「まあ、魔物だわな」

 フィーリーは臆せずに大剣を横に振り叩き込んだ。もちろん、盛大な爆破魔法とともに。どれぐらい体力を削ればいいのかわからない。
 セムは光の弓矢をつがえる。悪魔を滅するホーリーアローだ。
 同時に攻撃を仕掛けたが、クソデカジャック・オー・ランタン希少種は、効いてないとばかりにサイドトライセップスをキメて、ビキニパンツからペロリンキャンディを取り出した。

「おえー」

 セムが混乱している。

『いっくよ~☆』

 4mの筋肉の塊が魔女っ子のようにペロリンキャンディを振る。シュールだ。
 ペロリンキャンディは銀の星屑を撒き散らし、肩の大砲をフィーリー照準を合わせる。

「即死系じゃん!」

 声を張り上げたフィーリーは、なんとか銀の星屑の即死特殊攻撃を振り払ったが、ドンッ! と盛大な音を立てて発射したミサイルから逃げられなかった。
 防御魔法をあっさり打ち破られ、フィーリーは爆発をモロに食らう。

「ああああ!!!」

「フィーリー!」

 崩れ落ちたフィーリーに駆けつけようとしたセムの前に、ガチムチゴリマッチョジャック・オー・ランタンが立ちはだかる。

『いたずらしちゃうぞーい☆』

 ペロリンキャンディからは青い星屑。激しい竜巻がセムを襲う。虚をつかれたセムは竜巻に巻き込まれ、身体の自由を奪う猛風と水の鋭い刃に身体を切り刻まれた。白いタキシードがボロ布になり、セムは頭から落下し強打する。

「クソが!!!」

 フィーリーは対悪魔用に聖水を大剣にぶっかけ、勢いをつけて飛んだ。ジャック・オー・ランタン希少種は片手で大剣を掴んだ。フィーリーはニヤリ笑う。強大な爆裂魔法をぶちかました。
 バン! オバケカボチャの頭の一部が大きく欠ける。鋼のボディより弱そうな頭部のオバケカボチャを狙ったのが功を奏した。
 片足をついたジャック・オー・ランタン希少種は、開けっ放しの口から白いブレスを発した。

「────なぁぁっ!?」

 デバフだ。しかも、バフ効果すべてを消去させる。

「ざっっけんな!」

 素早く距離を開けたフィーリーにミサイルがぶちかまされる。防具は布だ。咄嗟に防御魔法を張ったが、とてもじゃないが間に合わない。

「うわぁぁっ!!」

 強烈な熱と炎がフィーリーを襲う。
 セムは失神からようやく顔を上げた。煙をあげたフィーリーの衣装は残っている部分が少なくて、ほとんど全裸だ。初級でも魔導衣。なんだかんだでダメージは魔導衣に負荷がかかり、フィーリーの肌がただれることはなかったが、あちこち赤くなって皮膚から血が滲んでいる。
 慌ててセムは高等治癒魔法を口にして、フィーリーめがけて魔法を解き放つ。
 ──が、サッとふたりの間に入ったジャック・オー・ランタン希少種に高等治癒魔法がかかる。たちまち頭の欠損が治ってしまった。

「……ったく、ドジだな」

 フィーリーは治癒薬の瓶を口に銜えて、詠唱する。精霊よ。破壊の精霊よ、と。
 強烈な眩い光がフィーリーの愛剣に集まり、刀身を煌々と輝かす。バリバリと細かな金色の稲妻がフィーリーを包む。

「もう魔力量は惜しまないぜ! 殲滅の光彩陸離デストロイ・ダムドエクスプロージョン!!!」

 ジャック・オー・ランタン希少種の頭を狙って飛び上がり、渾身の力をこめて叩き込む。
 壮絶な光と爆破音。その熱風がセムの金の髪を激しく乱れさせる。割った額の血が止まり、流した血液が身体に戻っているのに、頭蓋骨と頚椎が回復しきってないから、フィーリーに加勢ができない。
 ──殲滅の光彩陸離。最大級の光魔法だ。魔法剣士を極めると守護精霊が与えてくれる。ここまで極められる若い魔法剣士はそうそういない。
 爆風による煙と土煙が薄くなる。飛び退っていたフィーリーは、再び剣を構えながら殲滅の光彩陸離の呪文詠唱をしている。
 ジャック・オー・ランタン希少種は頭を半分以上崩し、肩の大砲が破壊されていた。が、鋼の黒光りするボディは軽度のダメージしか受けていない。

(次は首を落とすか、胸を刺すか。ゴリマッチョだって骨が少ない場所を刺されて急所まで斬り上げられたら、消えるだろ)

 ジャック・オー・ランタン希少種は猛る。ロリ声できぃきぃ言わせて。

「セム、攻撃が来る。逃げられる?」

「……、なん、とか」

「逃げろ!」

 セムは無理だ。いくら魔法量がとんでもなく膨大で、対アンデッド魔法を知っていて、自然回復する体質だとしても。フィーリーより体力がない。

「ほぼ全裸のフィーリーを残して逃げられません!」

 お互いほぼ全裸だ。セムはネクタイと袖、トラウザーズの股下がない。フィーリーにいたっては、あの小さな小さな黒いショーツとブーツ以外ない。ハレンチふたり組である。が、戦闘中にかまってられない。

『いッタヅらぁ、しぃ~チゃうぞォ~』

 ジャック・オー・ランタン希少種がセムに向けてステッキを振る。どす黒い星屑。花火だ。セムは目をギュッと瞑る。いくら死ななくてもダメージは食らう。ようやく頚椎が治ったが、頭蓋骨は割れたままだから、動くに動けない。
 キツい硝煙の匂いと鼓膜を破らんばかりの爆音。皮膚を焼かんとする熱風に襲われたが、痛みは来ない。



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