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15.ヤってヤりますともさぁ〜②
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セムは、オバケカボチャと花火の模様の青白く光るクッキー缶を開ける。大きく間合いを取って、フィーリーはいつでも魔法と大剣が使えるように構えている。
『トリック・オア・トリート☆』
閃光とともに出てきたオバケカボチャのコスプレロリっ子が出てきた。
「──はぁあああ!」
炎をまとわせた大剣を振る。そのスピードは通常の2倍。力は3倍。それに加えて中級爆破魔法を追加でおみまいする。
相手は見た目ロリっ子のアンデッドだ。しかも、特殊攻撃を仕掛けてくる。先制攻撃しなければ。
「セム、消滅系の光魔法を使うなよ!」
「わかってます」
セムは炎の弓矢をつがえて、5連射した。すべてジャック・オー・ランタン希少種にヒットしている。が、ロリっ子はぷりぷり怒っている。
『いった~い! んもうっ! 怒ったんだから! いたずらしちゃうもんね!』
ペロリンキャンディーのスティックを振る。キラキラとどす黒い星屑を撒き散らす。火薬のような匂いだと、素早く距離を開けたフィーリーはマントで鼻をふさぎ、爆発にそなえる。
『ハッピーハロウィン!』
ババババと火花を散らして黒い煙が爆発する。オレンジ色のオバケカボチャの花火が上がる。
防御魔法のおかげで、たいしたケガをしていないフィーリーは、中級の鋭い刃の風魔法で火薬を吹き飛ばしながら、大きく踏み込んで大剣を強く叩き込む。
「うりゃあ!!!」
同時にセムが光魔法の閃光弾を何度も打つ。嬉々と笑って。本人は気づいているのだろうか?
『いやぁ~~ん!』
ポムッと消えたのは、ジャック・オー・ランタン希少種だけ。なにもなし。
「えぇー。ハズレかよー!」
フィーリーは叫んだ。それは叫んだ。50%のハズレを引いたのだ。
しかも、魔法を惜しげなく使ってしまった。
軽度な傷だが、セムがすぐに治癒魔法をかけてくれた。おかげで体力はあるが、魔法量は減っている。魔法量を戻す薬を飲むほどではないが。
「気を取り直して次だ、次、次!」
「はーい」
セムが青白く光るクッキー缶を手にする。オバケカボチャと雷のマークだ。雷撃か痺れる特殊攻撃を仕掛けてくるかもしれない。
フィーリーは防御魔法を貼って、攻撃態勢をとった。
「なんっっで、出ねぇんだよぉぉぉぉ!!!!」
フィーリーは青い髪を掻きむしりながら叫んだ。力いっぱい叫んだ。
ジャック・オー・ランタン希少種はトリッキーで、体力がある固い個体や炎耐性あるモノもいた。おかげで魔法量を戻す薬を2個も消費するハメになった。
3体目は炎耐性があるだけで体力はたいしたことなかったが、4体目は体力も素早さもあり、石化の特殊攻撃までしてきた。フィーリーは石化回避したもの、セムが半分石化した時は焦った。
しかも、ナイトランタンはドロップしていない。ここにきて物欲センサー発動中である。なんてことだ。
「クソッ!」
フィーリーは不機嫌な顔でセムを睨んだ。トコトン悪運が強い。でも、それは、フィーリーも同じだ。
「そいつを倒しても出なかったら、片っ端からクッキー缶を探して開ける!」
「その前に休憩しませんか? 4連戦ですよ? フィーリーも息が上がってるじゃないですか」
フィーリーよりも体力がないセムだが、自動で治癒──というよりも、自動回復しているようでケロリとしている。
でも、集中力が散漫だ。
「休憩したら、今日中にナイトランタンがゲットできない。そしたら……」
そしたら。
そうしたら、エンパイアステー塔の高層に行けばいい。ムン・ラノク・タミドを探して、追いかけて、1年かけてドロップすればいい。
(だけど、セムが……)
にわか成り行きパーティはここで解散だ。
(セムが、いない)
身体にぽっかりと穴が開きそうだった。らしくない。実に自分らしくない。
たかだか、2週間。一緒にいて、フィールドを駆け巡り、笑って怒って、一緒に食事をして。セックスをしただけの仲だ。気が合うのか、退屈はしなかった。
(二度と、会えない?)
出会いと別れは冒険に付きものだ。志半ばで死んでしまったパーティメンバーもいる。悲しかった。悲しくてつらくて、苦しかった。喪失してから気がつく。永遠じゃないと。
(なんでよ。なんで、そんなことばっかり考えんだよ。楽しいこと、いっぱいあったじゃん。別れても、二度と会えなくても。忘れなきゃいいんだ)
「フィーリー? どうしたんです? 痛い? 泣きそうになってますよ」
「なってねぇーわ。たとえなってても泣かねーわ」
らしくない。こんなの、自分じゃない。バカらしいと払拭できない。心が軋む。
「セム」
「はい?」
「殴ってもいい?」
「なにゆえ!? 軽率にDVとパワハラはやめてくださいよ」
セムはそれでいい? 心をギシギシさせているのはフィーリーだけ?
セムは、別れるのがつらくない? 二度と会えなくても平気?
(かもしれねーし。うん。もう考えんとこ)
「よしゃ! バフの魔法薬追加するわ」
「寝ちゃわないですか?」
「寝ちゃわないやつ。効果は薄いけど、ヤル気漲るやつ。バチくそまずいんだけどさ」
魔法の腰鞄から、狂壮剤の金属缶を出して、ぐいーっと飲み干す。
(戦ってる時は、頭がカラッポになって、いい)
「さあ! 最後の箱を開けるぞ!」
「開けるのは僕ですけど」
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