2週間と200余年と。出会って変わったふたりの始まり。~ハロウィンダンションで

なかむ楽

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14.ヤってヤりますともさぁ〜①

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   …✮…♱…✮…


 朝、目覚めたフィーリーはスッキリしていた。セムと濃いセックスをするドスケベな夢を見ていた気がする。もしかして、寝ている間にヤられてしまったのかと、確認する。頭はボサボサで着衣というには寂しい着衣だが乱れナシ、青臭くナシ、襲われた形跡ナシ。
 夢の中のセムはものすごかった。また鬼攻めされたい願望でもあるのだろうか? 顔を少し赤くして思う。
 体力的にはバッチリだ。今までになくヤル気が漲っている。
 あたりは夜のままだが、朝食は脂滴るぶ厚いベーコンが食べたい。

「よぉっく寝たぁ!」

 うん、と伸びをすると下着より布面積が少ない悪魔衣装がモロ見えだ。が、伸びをする。軽い運動後のように関節がよく伸びる。

「おはようございます」

 そのへんからお菓子やベリー類を採取してきたセムが下生えのお菓子の木をバキバキ折りながら拠点にやってきた。

「おはよ」

「いつもより目覚めがいいですね?」

 なぜ疑問形?

「まぁね。寝る前にすっごいバフ効果ある魔法薬飲んだからね。副作用でめちゃくちゃ寝ちゃうやつ。ちょっとやそっとじゃ起きられないんだけどさ、効果抜群なんだぜ」

「えっ。いれちゃえばよかった」

「ん? ああ、紅茶? コーヒー? わたしが入れてしんぜよう」

「あ、ありがとうございます」

 どうしてセムがよそよそしいのかわからないまま、フィーリーは魔法で熱線を熱してポットに入れる。しゅくしゅくと沸騰するのを待つ。

(ああそうか。今日ハロウィンが終わったら。お互い目的を遂げたら。お別れなんだ)

 知らぬが仏。聞くは気の毒、見るは目の毒。世の中には知らない方が幸せなこともある。──というわけで、フィーリーは幸せだといえる。
 幸せなフィーリーは、セムを見やる。広げた魔導具の敷物エクセルの上にある、ティーポットの中に茶葉を入れている。

(別に……)

 別にまた組めばいいことだ。でも、天使に戻ったら、二度と会えないだろう。

(別にさ……)

 寂しくない。ドジっ子ヘタレ堕天使と別れてせいせいする。これまで個人的な素材集めはソロか少人数でやってきた。単独行動がやれるくらい強いし、引き際も知っている。人生の四半世紀はとっくに終わっている、いい大人だ。

(セックスしたから、勘違いしてるだけ)

 セックスによる疑似恋愛。ヤッちゃってから愛が芽生えるパターンがあるから、そういう恋愛もあるだろう。が、たかだか2週間、乳繰り合った仲だ。

(恋愛ってさ、もっと、こう……。切なくなったり、相手を思ってドキドキしたりじゃん? 手が触れただけでキュンとしたりさ。笑顔にときめいたりさ。そういう過程があんじゃん? 必要じゃん?)

「お湯、沸いてますよ」

「ああ、はいはい!」

 らしくもない考えごとをしていた。そのせいか、フィーリーは素手で熱くなったポットの取っ手を持ってしまった。

「あっっっつぅぅぅ!!!」

 投げられたポットが飛んだのと同時に、セムが飛んで来た。

「ヤケドしてるじゃないですか」

「お湯、ごめん……」

「言ってる場合ですか。手のほうが心配ですよ」

 せっかく湧いたお湯は地面を濡らして湯気立たせている。
 セムはいたましそうにフィーリーの手を持って、中級治癒魔法の詠唱をする。たちまち赤くなった手のひらから痛みと赤みが引いていく。
 ちらりと目だけで見上げると、セムの顔がすぐ上にある。優しい顔立ちのイケメンだ。

(涙袋に影があるの、すご……)

 不思議と胸がキュンと鳴る。

(か、考えごとしていて、引きずられただけだって)

「フィーリー? ちょっと脈が早いですよ?」

「い、生きてんだから、動悸息切れもしますわ。もういいでしょ」

 ぱっと離した手を抱く──のも、なんだか変な気がして、くるりと回れ右で背中を向けた。
 治してくれたのに。お礼も言わずに。

「あー、ありがと。ちょっと、ジャック・オー・ランタン希少種のこと、考えててさ」

「寝ても覚めてもナイトランタンですね。フィーリーらしい」

 そうか? そうなのか? こんな言い訳が通用するのか。基本的に素直だからか? ひてねるのは堕天使じゃなくて、人間のフィーリーだ。

「ドロップ、たくさんするといいですね」

「あ、うん」

 たくさんもなにも。青白く光るクッキー缶は5つしかない。

「今度は僕がお湯を沸かしますから」

「うん。頼むわ」

 フィーリーは座って、ぼんやりとセムを見る。
 別れが近い。
 目的を遂げて。目的。天使に戻るのが目的じゃなくて、真の目的ってなんだろう?



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