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10.自称サバ女。ただのめんどくさがり。
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その日は、次の夜(時計では)までヤリっぱなしだった。「好き」だと口にするまでセムが粘ったのだ。フィーリーは言わなかったけれど。
こっそり治癒しながらのセックスだったので、ヒリヒリもしなかった。寝落ちしたはずのフィーリーが目を覚ますと、こぷこぷと大量の精液が溢れてきた。どうやら、眠姦されていたらしい。変態め。語彙貧色欲魔め。えっちじゃなくて、セックス、淫乱、ドスケベくらい言えるようになってから、ヒイヒイ言わせろや。
初級の神聖魔法の身辺清潔 で身体をきれいにしてから、懐中時計を見る。空は相変わらず満天だけど、懐中時計の針は3時をすぎていた。時計盤にある太陽と月の表示は、太陽である。つまり、夜から朝にかけてセックスし続け、寝落ちして起きたら、3時だった。休憩しながらであったもの、18時間耐久レースでもしていたのか? あほなのか。いいや。バカになっていたんだ。
よし、こういう時は、こうするしかない。
「うわああああああっ!」
叫んだ。それはもう叫んだ。肺の中がカラッカラになるまで叫んだ。そして、スンッと落ち着く。その落差にセムが驚き、引いてクッキーをぽろりと落としていた。
「あと2日しかないじゃん」
「まあまあ。31日限定なら、明後日にしかジャック・オー・ランタン希少種は出現しないでしょう? それまでらぶえっちしましょう!」
「なに名案みたいな顔してんだ、てめぇ。丸1日セックスしてたから性欲ねーよ」
食欲は現在満たしている。冒険者用に調合された完全栄養食の不味いゼリーと堅パン。それから、缶詰肉と野菜ジュース。それから干した柑橘類。お菓子は食べたくない。セムは気にならないようで、そのへんから採取したお菓子の植物をポリポリサクサク。黒い光輪はないが翼は黒いまま。堕天使なんだから、黒いのは、そりゃそうか。となる。天使のふりをしてヘタレていたと思ったが、基本的にヘタレは健在だ。
「思ったんだけどさ。あのロリっ子がジャック・オー・ランタン希少種なんじゃない?」
「えー、女の子なのに火の玉小僧なんですか?」
「この世にはね、男の娘や女装男子ってのがいんの。あんな可愛くても付いてるものはちゃんつ付いてんの」
「付属品みたいに……」
「あの発光するクッキー缶を見つけるか」
「地味で地道な作業ですね」
「ここに箱自体あるんだから、探索は簡単。ただ、そうなると」
「魔法量がもたない?」
「魔法量パサーは使える?」
「体液で♪」
「そうなるよねぇ」
フィーリーは嫌そうに眉間にシワを作る。それをへらりとしたセムが伸ばす。
「いいじゃないですか、体液で魔法量供給」
「おまえに爆破魔法おみまいするぞ。戦闘中にできないのは問題外」
「戦闘外でえっちしましょう」
「しねーよ。魔力治癒薬かキスでいいよ」
「キス、好きですもんね」
「いいからスケベ話から離れろ、色欲の駄天使が」
「漢字、間違えてますよ。誤字報告しましょうか?」
「わーざーとーだ!」
食べたものを包みのなかに入れて畳んで魔法の腰鞄にテキパキ片付ける。こうした敷物の魔導具のおかげで荷物はかさばらない。この世の中は便利だ。もっとも、この敷物も市販のものを買うと高価だから、素材を採取しモンスターから特定のアイテムをドロップして作る。その数種の素材と風魔法と土魔法、水魔法のミックスなので、中級者以上にならなければいけないが。便利な魔導具の敷物をカチャカチャして魔法陣を組む時、フィーリーの気分がちょっといいのは内緒だ。ちなみに、武器や防具は取り出しやすい多目的結界の亜空間にぶち込んである。この世の中は便利だ。
「発光するクッキー缶を開けたらジャック・オー・ランタン希少種が出てくるんだから、さっさと集めよ」
「推定ジャック・オー・ランタン希少種、ですよ」
「勝手に開けるなよ? 魅了をかけられたらめんどくさい」
「え、えっちしたらいいじゃないですか」
「キショッ。なに赤くなってんだよ。しねぇっつってんだろ。ぶったたくぞ、コルァ」
叩かれた頭を抱えてセムがへらり笑って聞く。そういえば、と。
「フィーリーが魅了にかからなかったのは?」
「ただの体質。たまーにそういうのが生まれるってさ。孤児院で聞いた」
「孤児院で育ったんですか」
「まあね。青い髪が不吉だってさ。おかげで腕っぷし強くなって剣士になれたから結果オーライ。世界じゃ青い髪は少数だけど、不吉だって言われてない地方も少なくないし。冒険者になれば見た目なんてオマケ」
「……がんばったんですね」
正面切ってしみじみ言われると、なんだか面映ゆい。堕天使のくせに。素直か。こんちくしょう。
「セムはなんで堕天使になったの?」
「あー」
「言いたくないなら別にいいよ」
「なんでそんなにアッサリしてんですか。もっと僕に興味持ってくださいってば」
ぷりぷり怒って拗ねてしまった。めんどくさいやつだ。
「すこぉーし興味あるから聞いたんだけど」
フィーリーが手を組んで<お願い>としなを作って首を傾げる。これでコロッと機嫌がよくなるのだから、セムはチョロい。
「天使って階級社会じゃないですか」
「ですかって聞かれてもねぇ。読んだ本のなかでしか知らないよ」
「階級で仕事が違うんですよ。人々を守護したり、悪魔や魔物を倒したり、インスピレーションを与えたり……。僕は熾天使で、悪魔を倒すのを専門にしていたんです」
「おお、エリートだったんだ」
それで嬉々としてアンデッドたちを消滅させたのか。
「あまりにも悪魔が多い町があって。町ごと焼き払おう大作戦を思いついてですね。実行する瀬戸際で、堕天使になりました」
「あんたの思考がエグいもん。そりゃ、堕ちるわ」
「で、このフィールドの期間内で……目的を完遂できたら天使に戻すって話がやってきて、ですね」
「目的。言えないっていってたやつ? 無理して言わないでいいよ。関係ないし」
「関係ないって。薄情すぎません? 10日以上も一緒にいて、情が湧かないんですか? 僕のことを特別に好きになってないんですか? 薄情者。僕のことを好きになってもいいんですよ?」
「にわか成り行きパーティだもん。そんなもんいちいち芽生えないよ。あっさりさっぱりしてないと、パーティってゴタゴタすんじゃん。めんどくさい」
「しましょうよ。ゴタゴタむちゃむちゃ。ウエットに付き合いませんか?」
「性分じゃねーわ」
よいしょとフィーリーは立ち上がる。
他人と馴れ合うのは苦手だ。今のパーティだって、強くて統率があり、過干渉し合わないから居られる。それでも5年。長く居座っている。その間に恋人は4人も短期間でコロコロ変わったし、この1年と半年以上いない。長続きしたためしがないのは、短気で可愛げもなく勝気だからか。男はいつも花のような女の子を最後に選ぶ。
「さ、行こう。なんとしてでもあの箱を探して目的を果たす! 星降る大剣ゲットだぜ!」
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