2週間と200余年と。出会って変わったふたりの始まり。~ハロウィンダンションで

なかむ楽

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06.なにが出るかな?(フラグ的な)②

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 ぎろり睨まれて、セムは笑顔でクッキーを食べ切る。

「フィーリーは初めてここに来たんですよね。でも、ハロウィン特別フィールドは毎年出現しているじゃないですか。ハロウィンってのは、10月31日だけでしょう? ジャック・オー・ランタン希少種って、その日だけ出現するんじゃないですか?」

「あ、そういうレア出現か」

 年に1回のイベントで、しかも31日限定出現なら、レアモンスターだと言える。ムン・ラノク・タミドだと出現率は4%。0.数%が常のレアモンスターでは高確率だが、エンペラーステー塔の高層に限定されているので、世界的に見てレア度が高い。
 さっそくフィーリーは、魔法陣を描いて馴染みの情報屋宛に魔法で手紙を書いた。信頼できる情報屋から情報を買えばよかった。馴染みのくせして人の足元を見て情報を売りつけるから、できればそいつから買いたくなかった。もはや、背に腹はかえられない。特急割り増しもされるだろうなと思うとやり切れない。日々の暮らしは、いつまで慎ましいままなのか。
 パッパと送って考える。遅くても明日の昼過ぎには返事が来るだろうから、やることがない。

「あと3日。ジャック・オー・ランタン希少種がどれくらいの割合で出現するか、だな」

「ナイトパレードを片っ端からやっつけます?」

「天使にあるまじき発言なのか、天使だからの発言なのかわかんないね。あーこわっ(棒読み) モンスターボックスがあればいいなぁ」

「モンスターボックスってなんですか?」

「フィールドではあまり見かけないな。ないとは言いきれないけども。
 ダンジョンではよくあるモロバレの引っ掛けだよ。各ダンジョンで違うけど、だいたい宝箱だったり、とびっきりの美男美女、休憩小屋の時もある、かな。部屋やほらなんかが特殊になって、特定の魔法が使えなかったり、アイテムが使えない条件もあるね」

 フィールドの罠は普通に獣を狩る罠中心で、トラバサミや落とし穴。縄に網。バレバレの罠の数々に引っかかって、余計なモンスターを引き寄せたのはヘタ打ったセムだ。
 罠でもモンスターはやってくるが、モンスターボックスで出てくるモンスターの数は30体以上だし、少なければ場違いな強力モンスターが出てくる。そのなかにレアモンスターも出現しやすい。

「へぇ」

 ほのぼのとしたセムを適当に歩かせて、全部の罠に引っかかってもらうのもいい。と、考えながら、目の前でお菓子をポリポリサクサク食べているのを見ると、胸のムカつきを覚える。モルモットだってもっと遠慮してポリポリサクサク食べるに違いない。

「よく飽きずに食べるね、菓子ばっかり」

「缶に入って落ちてるから、開ける楽しみもありますよ」

「拾い食いすんなって。天使のくせにいやしいな。罠だったらどうする……。あんたの隣で発光してるクッキー缶……」

「ああ、きれいでしょ。明かりにもなるかなって。フィーリーに喜んでもらいたくて」

 頬に汗を浮かべたフィーリーが指さす、青白く発光しているクッキー缶。それをセムはにこにこしながら膝の上に置く。いいことをした顔をしやがって。いいことなんかしてないだろ。
 箱はご丁寧にカボチャオバケジャック・オー・ランタンマークとハートマークがプリントされている。あやしさ100%だ。なぜ拾った。なぜ喜ぶと思った。

「カボチャのクッキーだと思うんです。ミルクチョコがけの」

「絶対に開けるな! もしくはよそで開けろ!」

「え?」

 無防備にセムが蓋をパカッと開けると、なかからピカー! と閃光が走り、フィーリーとセムの影を濃くする。

「あれ??」

「ばかー! とんまァー! だから開けるなって言ったんだよ!」

 青白く発光するクッキー缶から、元気よくポーンと出てきたのは、オバケカボチャジャック・オー・ランタンのワンピースを着た女の子だった。きっとアンデッドだ。きっと、ではない。クッキー缶に入ってたのだから、確実にアンデッドだ。
 エレメント系かもしれないが、存在感がある。
 どぎつい紫色の縦巻きドリルツインテールを可愛らしく振って、ピースをし、きらきら星を撒き散らす。正直ウザい。

『トリック・オア・トリート! お菓子をくれてもくれなくてもイタズラしちゃうもんね~☆』

 ペロペロキャンディのスティックを振って、キラキラピンクの星屑を振りかざす。魔女っ子の変身シーンみたいだ。かわいいがウザい。ウザかわだ。

魅了チャーム!?」

『うふふふ☆』

 笑ったハロウィン仮装の女の子アンデッドは霧のように掻き消えた。残されたのは、焚き木の微かな明かりと、剣の柄を手にしたフィーリー。それから、ぽかんとしているセム。

「セム、大丈夫?」

 まあ、天使なら低俗なモンスターの魅了チャームにかからないだろう。
 ぽかんとしているセムの前で手をパンッと叩いてやる。ハッとしたセムが

「驚きましたね。びっくりでした。こんな小さな箱から女の子が……」

「今度からあやしいもの拾ってくるなよ」

「……かわいいから」

「かわいくてもだーめ」

「フィーリーがかわいい」

 じっと見つめるセムが言う。王子様系の顔がいいだけに、熱く見つめられると照れてしまうではないか。──と思ったが、これは様子がおかしい。セムがおかしい。性的に顔を赤くしている。

「…………は?」

「フィーリー。僕のかわいい人。世界中の宝石より美しく、強い。さざ波のような髪も美しい。そして……」

「まさか……」

 顔を近づけてきたセムは、フィーリーの青い髪をくんくん嗅いで、隠れていた耳に鼻をすり付ける。

「すっごくムラムラします」

 まさか。堕天使が魅了チャームにかかるとは! まぬけか。あほなのか。天使だったら加護でかからないとか? それで耐性がないとか? んなアホな。

「てめぇで拾ったもんだろ。てめぇで抜け」

 即イライラマックスである。そりゃそうだ。魅了チャームによる一過性のものだから。

「抜く? なにを抜くんですか?」

「腰を引っつけるな! 発情した犬か!」

 ぱたぱた翼が動いている。犬のしっぽみたいに。

「ケツモチくらい自分でしろ!」

「こんな状態でどうしろっていうんですか。鬼ですか? 悪魔ですか?」

「人間だっての。離れろ! はーなーれーろー!」

「いやです。フィーリー、僕を惑わせるキュートな小悪魔」

「てめぇ、昏倒させられたいのか」

「それも嫌です」



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