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04.つい、出来心で②
しおりを挟む…✮…♱…✮…
フィーリーの右強パンチを顎に食らった男は失神した。みるみるうちに顎が田舎パンよりも大きくなる前に、フィーリーは慌てて初級治癒魔法をかけて、土下座した──のが、ほんの半刻前の出来事だった。
「つい」
「つい。で、人を殺すんですか。魔法剣士じゃなくて暗殺者じゃないですか」
「死なないって言っただろー!」
「死にませんよ、天使なんですから!」
「は?」
「あっ」
言い合いが止まった。青ざめた男は、慌てて口を手で押さえている。
「バカにしてんの? 天使がいるわけねーだろが! ああ? 脳筋怒らせるとこえーぞ?」
襟首を持って男を揺さぶる。
「なにが天使だぁ!? やんのか? やってやんよ。コルァ!」
「しょ、しょうこ、み、せます、か、はっ! くるしいっ、しぬ」
「死なねーんだろ。殺してやんよ」
ベッ! と捨てると、げほげほ咳き込んだ男がタキシードの上着を脱ぐ。
フィーリーは拳をかまえて、脇を閉じる。いつでもこい。
「違います! 誤解です! 背中を見てください」
白い大きな翼が生えている。それがどうした。仮装で背負っているだけだろが。いいな、布面積が多くて。
「だから、ほら」
上着を着直しているのに、翼はそのまま。ラララ天使の羽はラララ天使の翼。
「は? 手品? すげー」
「魔法の心得がある人が手品を信じるんですか!? 正真正銘の翼です」
「…………マジ?」
向けられた背中をから生えている(?)らしい翼をさわさわ触る。ガチョウか、よくて白鳥の物だろうと思ったそれは、やたらと手触りがいい。なんだこれ。なにでできてるんだ?
「信じてもらえました? その前にもういいですか? くすぐったいんですけど。手つきがいやらしいんですけど」
「あ、ごめん。なんというか、フェザーがとってもフェザー」
「フェザーじゃな……あ、やめ……」
「ほかに証拠は? 証拠。見せてよ」
「あ♡ 言います、いいますから……、やめ、はずかし……」
カチッ。フィーリーの肉食スイッチが入った。
「ちょっと、そこに宿があるから身体検査しようか」
「身体検査って。……は♡」
…✮…♱…✮…
「朝っぱらからおたのしみでしたね♡」夕食とビールを持って来てくれた宿屋の妖精がゲス顔でニヤニヤしながらフィーリーに言った。
元の宿屋に連れ込んで、天使をひん剥いてみたら、やっぱり背中に翼が生えていた。
「ほかに証拠は?」と聞けば、「ど、どうていです」ときたもんだ。だから、ペロッと食べてしまった。久しぶりの童貞感覚で、ペロッと。
天使──セムはベッドの上でぐったりとしていた。
「えへ。久しぶりだったから、つい☆」
悪魔衣装を脱がなかったフィーリーは、テーブルにドンと足を乗せる。そのピンヒールの先に夕食が並んでいる。行儀が悪い。※よいこはマネしないでね。
「つい☆。で、えっちなことするんですか……」
「減るもんじゃないじゃん?」
「減りましたよ! 減った! 確実に童貞は消失しました!」
「あー、あと精液もね。濃っゆ~いのがどぴゅどぴゅ出てたね」
「真顔で女子が言っていいセリフじゃない」
セムはベッドの隅に身を引いてドン引いている。
「いやいや、男性向けではしょっちゅう女子は真顔で言ってるよ? 知らんけど」
あははと笑いながら、ビアジョッキを傾ける。激しい運動の後のビールは格段にうまい。ごきゅごきゅ喉を通るしゅわしゅわと、鼻に抜けるホップの香りが最高だ。
「大丈夫だぁいじょーぶ。天使だってわかったから」
「ほんとうに?」
「うん。イく時にセムの頭に天使の輪っかできてた。後光さしてた。輝きながらびゅーびゅーしてた」
「……!?」
セムはボサボサになった金髪を押さえるように頭を抱えた。
「パリピ~⤴︎⤴︎ ウケるぅ~⤴︎⤴︎」
「ちがーう!」
「でもさ、堕天使になるわけじゃないでしょ」
こんがりローストされた鴨の腿肉のなんと美味しいこと。噛むたびにあっさりした肉汁がじゅわじゅわ口のなかに広がる。肉汁と言えば、セムの肉汁は濃いのにえぐみが少なかった。菜食中心なのか、天使は肉を食べないのか、臭くない。体臭もハーブのよう。おハーブですわ。
「えっ?」
「愛したとか恋をしたとかなんとかで堕天する話は読んだことあるけど、セックスしてって話、知らない」
「……そう、なんですか?」
「神サマの気まぐれじゃない?」
「御方は適当に決めません」
「嘘だ~。悪魔は人を殺しゃしないけど、人は死ぬ時に『神よ……!』て言って死ぬじゃん~。神が人の命をコマにして回してるだけ」
「道徳観と倫理観、おかしいですよ!」
フィーリーはひとしきり笑ったあとで、セムに向き直す。あー、鴨肉おいしかった。もっとおいしかったモノがいる。
「オカシイから、冒険者なんてヤクザ商売してんの。マトモだったら命を賭してまでモンスターと渡り合ってお宝ゲットしないよ?」
そのアイテムが市場を流れて人の手に渡り、生活を豊かにしたり、逆にしたり。冒険者と商人の繋がりは切っても切れない。あるギルドは大元が大商人という話もある。
ダンジョンに潜り魔物と対峙して、時にダンジョンをえっちらおっちら掘る。炭鉱夫に似ているとフィーリー個人は思うが、違うのは、危険度の高さと夢を追いかけ続けていることだ。
そう話す。
「……夢を追いかけ続ける」
感心したセムは、目をしばたかせている。感激したのか、感銘を受けたのか。チョロい天使だ。
「いいよ。もう。ついてきなよ。死なないんだろ、あんた」
「え、え、えっち……しちゃったから、どうだか知りませんよ」
「えっちしちゃったって。えー、女学生みたいな反応。新鮮。おもろー。もう1回しちゃう?」
悪魔の仮装のフィーリーはセムの上に乗りかかる。
ほっそりとしている、無駄のない筋肉は、彫刻みたいに美しく、そして優雅だ。
もしも、人が鳥のように翼で空を飛ぶとしたら、カスカスの骨とゴリゴリの筋肉が必要だと、聞いたことがある。セムはムキムキのマッチョではないし、骨だってしっかりとしている。天使とやらは神通力とやらで飛ぶのだろう。知らんけど。
男の喉仏が上下に動き、今にも黒いブラから零れ落ちそうなたわわな乳房に視線を注ぎ、引き締まった腹を見て、黒いミニミニショーツをガン見する。彼は知っているのか? このショーツのクロッチがほぼ紐なのを。
生で女のおっぱいを初めて見たというセムは、1回戦はギンギンのを軽~くお触りしただけで遺精して泣いていた。2回戦目は呆気なく腟内射精。衰えなかったのでそのまま3回戦──で、ようやくフィーリーは達したが、満足度は低い。童貞はかわいいが、それが問題だ。
ペロリ。唇を舐める。
「フィーリーさん」
フィーリーはその長い青色の髪をかきあげて、小さな悪魔の翼がついたブラジャーをはずす。重力に素直な乳房がゆっさりと自由になった。
3回も吐精したからには、今度は本気で相手できるだろう。
セムが天使なら、堕天させるように唆す悪魔はフィーリーだ。
「フィーリー、だよ」
「どうしたら、フィーリーを喜ばせられますか?」
さっきまで童貞だった男が? 笑わせる。
(ハロウィンフィールドがあるうちに教え込む?)
あと2週間足らずでフィールドは消え去る。それまでに、ジャック・オー・ランタン希少種からナイトランタンを入手しなければならないのに、他の目的もできた。
「いっぱしの口を聞くようになる前に、射精制御できるようになったらね。それとも精力剤飲む?」
射精管理。うん。とてもいい響きだ。
「ふはははは」
「いやっ! 優しくしてぇ」
夜明けとともに出発する時に、宿屋の妖精が「ゆうべもおたのしみでしたね♡」と、やはりゲス顔でニヤニヤしながら言ったのであった。
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