2週間と200余年と。出会って変わったふたりの始まり。~ハロウィンダンションで

なかむ楽

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03.つい、出来心で①

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   …✮…♱…✮…


 早朝。まだ日が昇る前にフィーリーは宿を出て、青い髪を揺らしイプシロンフィールドの入り口に向かう。
 どこにジャック・オー・ランタン希少種が出現するかわからないが、ハロウィンイベント最終日までには、ナイトランタンをゲットしたい。何体ジャック・オー・ランタン希少種を倒せばいいのかわからないから、体力温存もしたい。できれば人目につかないところで戦いたい。膝丈マントの下はほぼ下着だ。露出狂だと思われるのは嫌だし、人前でぽろりしちゃったら最悪だ。
 入り口ゲートを開けた妖精から、ザックリとした地図をもらう。ザックリしすぎで円しか書いてない。
 ここまで平原、岩場、森林、湿原だった。隠れる場所があるなら、平原じゃないほうが有利だ。それに、マッピングは魔法剣士の仕事ではない。勘で進む。

「あの。青髪のバスタードさん」

「バスタードじゃなくて青髪のデストロイヤーだけど?」

 いたのは、昨夜食堂で責められていた金髪の白いタキシード天使の司教ヒーラーだった。
 よく見なくても、優しい顔をしたかなりのイケメンだ。年の頃は同じか。背も高いから、町娘や貴族の娘なら黄色い声をあげそうだ。

「僕もイプシロンに連れてってくれませんか? 治癒と光、闇魔法しか使えないんですけど」

 治癒と光魔法は神聖術である。混沌を司る闇魔法は、悪魔祓いどの聖職者や召喚師、黒魔法使いが得意とされる。もちろん、フィーリーはどちらも使えない。初級の治癒魔法のみ使える。

「ヒーラーはほしいけど……。あなた、レベルは?」

「レベル、ですか? ……ええと」

 守護精霊に聞けばすぐにわかることだ。特定のダンジョンでは守護精霊を呼び出せないが、このフィールドは、コスプレというおかしな縛りがあるだけで守護精霊の声は聞こえる。

「言いたくないんだ? それならそれで言いけれど」

 関係ないから。

「呪文には自信があります。じん……魔法量マジックパワーなら」

 彼は手の甲に書かれた不思議な文字をなぞり、体力と魔法量を可視化する。こんな術初めて見た。体力や魔法量を可視化できる神聖魔法があるとどこかで聞いたが、大司教や高僧レベルだと思っていた。司教ができるとは。
 金色の横棒と比べると銀色の横棒は5倍以上もある。
 目をしばたかせて見つめていても、彼はそれがなにかを言わない。
 その彼がフィーリーに手を出せという。おもしろいなぁと思い、フィーリーは従った。
 フィーリーの金色の横棒は彼よりも2倍以上あるが銀色の横棒は少ない。フィーリーの金色をした横棒の半分が銀色の横棒だ。

(銀色が魔法量? それなら計算が合うな)

 通常、体力も魔法量も目には見えない。勘でだいたいどれくらいかを測って戦う。剣士出身のフィーリーは、攻撃呪文とバフ呪文、軽度な治癒魔法が使えるが、多用しすぎるとあっという間に疲れてしまう。
 高等攻撃魔法<殲滅の光彩陸離デストロイ・ダムドエクスプロージョン>4発が1日のおおよその目安だ。だから、なるべく剣技に併せて魔法を使い、バフはあらかじめバフの魔法をかけておくか、バフの魔法薬を飲む。ソロ冒険では魔法量治癒薬は惜しげなく使う。
 それをふまえると、彼の魔法量は膨大だとわかる。

(なるほど。これを見せて、前のパーティに入れてもらえたんだな。……で、闇魔法を使ってしまう、と)

 生まれつき魔法量が多く、職を乗り換えずにいれば、魔法量がとんでもなく多い司教になるのか? 冒険者は望みのレベルで覚えたい技能や魔法を会得したら、さっさと神の名のもとで職を変えるのが普通だ。冒険者になりたての司教かもしれない。知らんけど。

「……。あんたが闇魔法を使う時って、敵が多かった時だよね?」

「そうです。……わかるんですか?」

 複数の敵を根絶やしにしてしまう強力な闇魔法なら、活躍したい者には邪魔する嫌な奴になる。でも、パーティは連携と指揮者の命令は絶対だ。パーティのなかで自由に振る舞えるのは道化師トリックスターだけ。

「治癒して長く戦うより、さっさと終わらせたいよね。わかるわかる」

 彼は困ったように笑う。図星だったのだ。

「あんた、ここに目的があるんだろ? じゃなきゃ、あんたみたいな冒険初心者の偉い治癒役ヒーラーがウロチョロしないでしょ」

 そう、司教は偉い人なのである。修道者→助祭→司祭(神父)→司教→大司教……とまあ、聖職も階級社会であるもの、簡単に言えば、修道者が店員で、助祭が副店長、司祭が店長、司教がエリアマネージャーである。偉さがいまいち伝わらないが、超大企業のエリート課長クラスくらいには偉いのである。

「えっ?」

「遠回しに言われっと腹立つんだよね。わたし、脳まで筋肉でできてるから♡ 素直に正直に簡潔に言われなきゃわかんないの」

 笑顔を絶やさず、背負っている大剣の柄に手をかける。明らかな脅しに彼は怯えて手を組む。おお神よ。

「……言えないんですっ!」

「嘘だね。それなら、司教……だった? 聖職者の偉いがさ、人を騙してるんだ? いけないんだ~」

 フィーリーは彼を覗き込み、至近距離から瞳孔の動きを見る。

「だ、だまして、なんて」

「タラシが言う言葉だよ、それ。あーあ。善良な人間の善意の上に乗っかって、目的さえ達成できればおサラバって?」

「…………、その」

 小刻みに揺れる深い青の瞳孔。引き攣る肌と口の端。膨らむ小鼻。──なんて、わかりやすい。

「目的。なにかな? レアアイテム? それならわたしと同じ目的だ」

 同じ目的なら、組めない。協力したところでアイテムを分配する時に揉めるからだ。

「れあ、あいてむ、では、ないです」

 嘘だ。レアアイテムと聞いた時に軽く瞼が動いた。

「誰に命令されたとか、動機とかの深い理由が知りたいんじゃない。この先、素人はすっこんでなっていう場所で、魔法量が多けりゃいいってもんじゃない。死ぬよ?」

 離れて、ふんっと笑う。
 男は、愕然としていた。

「し……死にません」

「はぁ? そういう根性論じゃない」

「違うんです。死なないんです」

「アンデッドだっての?」

 その時、びゅうっと強い風が吹いて、フィーリーのマントを巻き上げた。バッサリと。
 半分以上布から出ている胸。無防備な腹。ちっちゃいパンツ。ガーターベルト。仮装。悪魔の。布面積はとっても少ない。

「…………!? 露出魔の仮装?」

「いやぁぁぁ!! 見たな、ド変態野郎!」



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